- 偏差値の差は、受けた試験と受験者集団をそろえて確かめます。
- 本人の前後の伸びと、指導を受けた組と比較する組の差は分けて読みます。
- 極端に低かった回を出発点にすると、平均への回帰が伸びに混ざります。
- 研究の効果の大小は、学年、測り方、似た取り組みの結果と合わせて判断します。
- 家庭では、途中の成績と解けるようになった内容を一緒に残します。
偏差値が30上がったという話は本当か|成績の伸びの大きさと平均への回帰の研究
保護者会の帰りに「偏差値が30上がった」と聞いたら、わが子にも同じような変化を期待してよいのでしょうか。武蔵境で学習の支え方を考える保護者にとって、目を引く伸びの話は、今の取り組みを見直すきっかけになります。話した人を疑いたいわけではなくても、家に戻って子どもの成績を見ると、伸び幅の違いが気になることがあります。まず確かめたいのは、上がったという数字が何と何を比べているかです。
偏差値の大幅な上昇は記録として起こり得ますが、その差をすべて指導の効果とみなさず、試験の条件と出発点をそろえて読むことが大切です。 同じ子の前後の変化、別の子との違い、学習方法を変えたことによる効果は、それぞれ別の比べ方です。数字の大きさだけを追うと、この違いが見えにくくなります。反対に、比較の条件をたどれば、大きな数字に励まされながら、本人の歩みに合う見通しを持てます。
研究が役立つのは、成績を上げる決まった手順を示す場面だけではありません。どの伸びを評価し、どの説明をもう少し詳しく聞くかにも手掛かりを与えます。成績表の変化を、学んだ内容の変化と結びつけて読むところから始めます。
要点
- 偏差値の差は、受けた試験と受験者集団をそろえて確かめます。
- 本人の前後の伸びと、指導を受けた組と比較する組の差は分けて読みます。
- 極端に低かった回を出発点にすると、平均への回帰が伸びに混ざります。
- 研究の効果の大小は、学年、測り方、似た取り組みの結果と合わせて判断します。
- 家庭では、途中の成績と解けるようになった内容を一緒に残します。
「偏差値30上げるには」と考える前に、差の意味を見る
偏差値は、ある受験者集団の得点を平均50、標準偏差10にそろえた数値です。標準偏差は、得点が平均の周りにどれくらい散らばっているかを表す物差しです。同じ物差しの上なら、偏差値が30上がる差は標準偏差3つ分に当たります。まずは、かなり大きな位置の変化を表す話として受け止めます。
ただし、成績表に同じ名前の数値が載っていても、比べる相手が変われば意味も動きます。難しい内容を学ぶ生徒が多い試験と、幅広い学習段階の生徒が受ける試験では、本人の得点の位置が異なります。また、学年が進めば出題される内容も変わり、同じ主催者の試験でも受験者の顔ぶれは変化します。前後の数値を読むには、試験名に加えて対象学年、教科、実施時期を見ます。
ここで確かめるのは、話の真偽を決めるための細かな揚げ足ではありません。「以前は苦手な教科だけ、後では得意な教科を含む総合成績」という比較なら、数字の差と教科の組み合わせが同時に変わっています。これを同じ教科の推移に戻すと、どこに変化があったのかが見えます。成績が上がった喜びを保ちながら、その説明を具体的にする作業です。
偏差値の横には、答案で確かめた理解も置きます。以前は手が止まっていた設問を自力で説明できるようになったなら、それは本人の学習の変化です。周りの生徒も伸びている集団では、理解が進んでも相対的な位置が大きく動かないことがあります。反対に、位置が上がったときには、どの内容が身についたのかを合わせて見ます。
個人の伸びと、研究が測る指導の効果は違う
教育研究で使う効果量とは、差の大きさを得点のばらつきを物差しにして表した数です。指導を受けた組と比較する組の成績の差を表す場合もあれば、違う設計の研究で変化を表す場合もあります。そのため、効果量を読んだら、何を比べた値かを先に確かめます。本人の成績表の上昇幅と研究の効果量を、そのまま同じ欄に並べると比較を取り違えます。
Hillら(2008)は、教育の取り組みの効果を判断するために、学年などに応じた通常の学力の伸び、集団間の学力差、似た対象への過去の取り組みという比較の基準を示しました。ある方法を使った子の成績が伸びても、同じ間に別の方法で学ぶ子も伸びている場合があります。このとき知りたいのは、時間がたって伸びたことと、その方法を選んだことで加わった違いです。前後の記録を読む視点に、比較相手の変化を加えます。
たとえば、学校の授業を受けながら家庭でも学んでいる子が、学習の支援を増やしたとします。その後の変化には、学校で習った内容、家庭での復習、新しく加わった支援が同時に関わります。支援の前後だけを見た説明と、似た学習条件の比較相手も追った説明では、指導の働きを見分ける材料が異なります。家庭で研究と同じ実験をする必要はなく、伸びに関わる出来事を併記すれば役立ちます。
Hillら(2008)の考え方を家庭の確認に置き直すなら、「同じ学年の、何を測る試験で、どのくらいの期間を比べた話か」を聞くことです。短い間に練習した範囲を解く成績と、広い範囲を後から解く成績では、表している成果が違います。前者は学習直後の定着、後者は内容を保ち使う力を見る材料になります。目的に合う測り方を選ぶと、小さな変化も判断に生かせます。
研究の平均効果が小さくても、学習の価値は残る
Lortie-ForguesとInglis(2019)は、英国と米国の機関が委託した、就学前段階から高校段階の学力向上を目的とする大規模な無作為化比較試験141本を調べました。無作為化比較試験は、くじ引きのような方法で取り組みを受ける組と比較する組に分け、効果を調べる方法です。平均効果は0.06標準偏差で、各試験で定められた比較相手に対する上乗せは全体として小さい値でした。これは子どもが学習期間中に得た知識の総量ではなく、取り組みによる組同士の差をまとめた結果です。
同じLortie-ForguesとInglis(2019)では、信頼区間の幅の平均が0.30標準偏差でした。信頼区間は、推定値の不確かさを示す範囲です。平均の値だけが小さいことと、個々の取り組みの効果を精密に見積もれたことは別です。著者らは、効果が小さいうえに推定の幅が比較的大きく、判断に十分な情報を与えない試験が多い点を問題にしました。
一方、Kraft(2020)は、広く使われるコーエンの基準で小さいと呼ばれる効果でも、教育現場の取り組みの結果と比べれば大きい場合があると論じています。コーエンの基準とは、標準化された効果量を大小に区分するために使われてきた目安です。教育の成果を評価するときには、研究の特徴や、取り組みを広く実施できるかも含めて読むことを提案しています。大小の呼び名だけで、学習支援の価値を決めないという論点です。
この両者は、同じ結果を反対向きに言い換えているわけではありません。前者は大規模試験でどんな推定値と不確かさが得られたかを調べ、後者はその大きさを何と比較して評価するかを論じています。家庭でも、伸び幅が小さいと感じたら、目的にした内容を身につけたか、本人が続けられる方法かを見ます。目立つ上昇だけを成功と呼ぶより、学習の成果を具体的に捉えられます。
低かった回の次に上がる「平均への回帰」
平均への回帰とは、極端に高い、または低い測定値の後に、より平均に近い値が出やすくなる現象です。Barnett、van der Pols、Dobson(2005)は、繰り返し測るデータの自然な変動が、本当の変化のように見える仕組みを解説しています。とくに、測定のぶれが大きい場合や、最初の値で対象を選んで追う場合に、この影響が目立ちます。成績の伸びを読む際には、出発点の選び方に注目する理由になります。
テストの結果には、蓄えた理解に加えて、その日の集中や出題とのかみ合わせも表れます。普段より低かった回を見て学習方法を変え、その次に上がったとすると、方法を変えた効果と低い回からの戻りが重なり得ます。Barnettら(2005)の説明から導く家庭での読み方は、最低だった回だけで比較を始めないことです。前から残っている成績も並べると、その回が普段の範囲からどれほど離れていたかが見えます。
平均への回帰は、子どもの努力を取り消す言葉ではありません。学習して理解が進むことと、測定のぶれから戻ることは同時に起こり得ます。また、次の結果が集団の平均に決まるという規則でもありません。数字の差を説明するときに、指導以外の要素も一緒に考えるための視点です。
| 目を引く説明 | 比べているもの | 確かめる記録 | 読む際の視点 |
|---|---|---|---|
| 学習方法を変えた後に大きく上がった | 本人の前後 | 以前からの成績と学習の変更時期 | 普段より低い回だけを出発点にしていないか |
| 別の試験で高い偏差値になった | 異なる受験者集団での位置 | 試験名、教科、対象学年 | 比べる相手と測る内容の変化を見る |
| 研究で効果が小さいと報告された | 取り組む組と比較する組 | 対象、期間、測定方法 | 本人の学習全体の伸びと分けて読む |
| 解ける内容が増えたのに偏差値は動かない | 理解の変化と相対的な位置 | 答案、説明の様子、同じ系列の成績 | 学んだ成果と集団内の位置を併記する |
大きな目標が、本人の変化を隠すとき
大幅に伸びた話を励みにすることと、その伸び幅を子どもの評価基準にすることは別です。短期間で同じ数字を求めると、説明できる内容が増えたことや、以前より自力で取り組めることが目に入りにくくなります。家庭で避けたいのは、比較の条件を確かめないまま、他人の結果を本人の期限付きの課題にすることです。期待は持ちながら、評価の言葉を本人の答案に戻します。
とくに、試験が変わったばかりの子や、成績の上下が大きい子には、上昇幅だけを目標にする読み方は向きません。まず試験に慣れる過程や、解答できた内容を見ていく必要があります。苦手な単元を学び直している途中なら、総合成績より先に、その単元の理解が変わる場合も考えられます。本人が今取り組んでいる課題と、評価する項目を合わせます。
数字の動きだけで方法を頻繁に変えることにも注意が必要です。低い回の直後に変更し、上がったら成功、下がったら失敗と判断すると、変えた内容と測定のぶれを見分けにくくなります。Barnettら(2005)が述べる平均への回帰の問題を避けるためにも、変更前の記録と途中の経過を残す意味があります。結果を見てから都合のよい出発点を選ぶより、最初から見る項目を決めておきます。
ここで述べた家庭の負担や目標の置き方は、研究の比較の考え方を日々の確認に応用した提案です。引いた論文が、数字を追う声掛けによる害を直接測定したという意味ではありません。家庭では、記録のために本人を問い詰めるようになっていないかも点検できます。記録は評価を厳しくする道具ではなく、次に支える内容を見つける道具として使います。
家庭では「上がった理由」を急いで決めずに記録する
最初に、手元の成績表を試験の系列ごとに並べます。教科別の結果と総合結果を分け、実施時期も添えます。見栄えのよい上昇だけを残すのではなく、途中の結果も同じ並びで扱います。比べる条件が変わった箇所には、その変更を短く書き添えます。
次に、学習の内容と成績の動きを横に並べます。学校で新しく習ったこと、家庭で復習した範囲、支援を増やした時期など、実際に変わったことを書きます。学習時間を細かく監視するより、どの内容に手を入れたかが読める記録にします。これで、本人の前後の変化を支えた候補が具体的になります。
誰かの伸びの話を聞くときも、この並びを使えます。最初と最後の成績だけでなく、間にどんな学習をしていたかを尋ねると、参考にする点が具体的になります。自分の子にも合いそうな条件があれば、今の課題に照らして考えます。大きな数字そのものより、変化が生まれた過程に関心を向けます。
最後に、子どもとは「前には説明できなかったところが、今はどうなっているか」を確かめます。答案を見ながら、できたことと次に支えが要るところを言葉にします。記録を続けても理解のつまずきが続くなら、学校の先生に答案と経過を見せると相談の焦点を絞れます。本人の成績の伸びは、比較の条件と学んだ中身をそろえて受け止めます。
よくある質問
大幅に上がったという話は、誇張だと考えるべきですか
数値の大きさだけで誇張と決める必要はありません。前後の成績表、試験の系列、教科、期間をたどると、何が変わった話かを具体的に読めます。記録が正しくても、学習の効果に受験者集団の変化や低い回からの戻りが重なる場合があります。本人の努力を認めることと、上昇の原因を丁寧に考えることは両立します。
平均への回帰なら、学習を変えなくても待てばよいですか
平均への回帰は、次の成績がよくなることを約束する考え方ではありません。Barnettら(2005)が扱うのは、繰り返し測るときに自然な変動が変化のように見える問題です。答案に残る理解のつまずきは、引き続き学習で扱う対象になります。必要な支えを続けながら、成績の変化を方法の手柄だけにしない読み方が役立ちます。
伸びが小さいときは、今の学習方法を変えるべきですか
まず、目指していた内容と測っている成績が合っているかを確かめます。Kraft(2020)が論じるように、効果の大小は比べる基準や実施の条件と合わせて判断するものです。家庭では、以前より自力で解けるか、説明が定着しているか、本人が続けられるかを見ます。変える内容を具体化して記録に残すと、その後の見直しにもつながります。
この記事の限界
比較の土台となる大規模試験の検討は英米の学校教育が中心で、対象学年や実施期間も研究ごとに異なるため、日本の塾で個人がどこまで伸びるかを推定した結果ではありません。平均への回帰の論文は医学の例を使った方法の解説であり、特定の子の上昇のうち、その影響が占める割合までは示しません。
効果量の解釈を論じた研究と実際の試験結果を集めた研究では、答えようとする問いも違います。家庭では本人の答案と経過を判断の中心に置き、つまずきが続く内容を学校の先生と共有しながら、必要な支えを具体的に検討します。 大きな伸びの話を聞いたら、まず前後の試験のどの条件が同じだったかを確かめられますか。
参考文献
- Hill CJ, Bloom HS, Black AR, Lipsey MW. Empirical Benchmarks for Interpreting Effect Sizes in Research. Child Development Perspectives. 2008;2(3):172-177. doi:10.1111/j.1750-8606.2008.00061.x
- Kraft MA. Interpreting Effect Sizes of Education Interventions. Educational Researcher. 2020;49(4):241-253. doi:10.3102/0013189X20912798
- Lortie-Forgues H, Inglis M. Rigorous Large-Scale Educational RCTs Are Often Uninformative: Should We Be Concerned? Educational Researcher. 2019;48(3):158-166. doi:10.3102/0013189X19832850
- Barnett AG, van der Pols JC, Dobson AJ. Regression to the mean: what it is and how to deal with it. International Journal of Epidemiology. 2005;34(1):215-220. doi:10.1093/ije/dyh299
わからなくなった単元まで、講師と二人で戻ってやり直す。
- 向く人: 集団授業で質問できないまま進み、どこでつまずいたのか分からなくなった中学生・高校生
- 向く人: 苦手な科目を、つまずいた単元まで戻って一対一でやり直したい人
- 向かない人: 大勢と競い合う中で力が出る子や、集団授業の速い進度を求める人
- 向かない人: 塾に通うだけで成績が変わると考え、家で手を動かす時間を取れない人
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よくある質問
大幅に上がったという話は、誇張だと考えるべきですか
数値の大きさだけで誇張と決める必要はありません。前後の成績表、試験の系列、教科、期間をたどると、何が変わった話かを具体的に読めます。記録が正しくても、学習の効果に受験者集団の変化や低い回からの戻りが重なる場合があります。本人の努力を認めることと、上昇の原因を丁寧に考えることは両立します。
平均への回帰なら、学習を変えなくても待てばよいですか
平均への回帰は、次の成績がよくなることを約束する考え方ではありません。Barnettら(2005)が扱うのは、繰り返し測るときに自然な変動が変化のように見える問題です。答案に残る理解のつまずきは、引き続き学習で扱う対象になります。必要な支えを続けながら、成績の変化を方法の手柄だけにしない読み方が役立ちます。
伸びが小さいときは、今の学習方法を変えるべきですか
まず、目指していた内容と測っている成績が合っているかを確かめます。Kraft(2020)が論じるように、効果の大小は比べる基準や実施の条件と合わせて判断するものです。家庭では、以前より自力で解けるか、説明が定着しているか、本人が続けられるかを見ます。変える内容を具体化して記録に残すと、その後の見直しにもつながります。