- 日本の内申と、研究で測った評定平均・大学の取得単位は別の指標です。
- 中学生の授業では、将来像と行動を結び、困難の受け止め方も扱っていました。
- 大学生の目標設定の試験は結果がそろわず、目標を書くことだけの効果は安定していません。
- 家庭では、なりたい姿、来週する行動、それを邪魔しそうなことを並べて書く方法が考えられます。
将来なりたい自分を書くと内申は上がるか|将来の自分像を考える授業の研究
学年末に配られた振り返りの用紙で、子どもが「これからなりたい自分」の欄を前に鉛筆を止めています。すでに埋まった今年の思い出の欄とは違い、先のことを書く余白にはまだ言葉がありません。保護者が隣で見ていると、立派な職業名を挙げるより、来年度の勉強につながることを書いてほしいと思うかもしれません。将来の夢がはっきりすれば、勉強へのやる気が出て、内申も上がるのでしょうか。
夢を書くだけでは成績への効果は安定せず、成果が出た授業では将来像を具体的な行動やつまずきへの備えと結びつけています。 紙を埋めたかどうかより、書いた姿に向けて何をするかまで考えたかが、研究を読む際の着眼点です。夢の大きさや職業の決まり具合を採点する読み方では、授業の中身を取り違えてしまいます。子どもが書いた言葉を出発点に、手を動かせる行動を探す使い方と、目標を掲げれば結果がついてくるという期待を分けて考えます。
要点
- 日本の内申と、研究で測った評定平均・大学の取得単位は別の指標です。
- 中学生の授業では、将来像と行動を結び、困難の受け止め方も扱っていました。
- 大学生の目標設定の試験は結果がそろわず、目標を書くことだけの効果は安定していません。
- 家庭では、なりたい姿、来週する行動、それを邪魔しそうなことを並べて書く方法が考えられます。
内申と研究の成績を分けて読む
内申という言葉は、ここでは日本の通知表の評定を指します。一方、取り上げる研究の成績は、米国の評定平均や標準テストの点、大学の取得単位などです。将来像を書く授業によって日本の中学生の内申が上がるかは、これらの研究では直接確かめていません。まず、どの年齢の人が何をして、何の変化を測ったのかを分けて読みます。
たとえば、評定平均は各科目の成績をまとめた指標ですが、取得単位は授業を修了して得た単位の数です。気持ちが前向きになったという回答とも、問題に正解したという結果とも区別します。将来像を書く課題を扱った論文であっても、測った結果が異なれば、同じ意味で「勉強に効いた」とまとめることはできません。家庭で期待する変化が答案の正確さなのか、宿題への着手なのかを先に言葉にすると、読むべき結果も絞れます。
もうひとつ区別したいのは、夢がある子を調べることと、目標を考える課題を実施して比べることです。もともと将来の希望がはっきりしている子の特徴と、課題を行った効果は別の問いです。後者では、課題をしなかった組や別の課題をした組が比較相手になります。書いた組の成績が前より上がったというだけでなく、比較相手との違いを確かめるのが、今回の研究の読み方です。
家庭でも、完成した作文をそのままやる気の物差しにしない扱いができます。言葉が少なくても、やってみたいことが具体的に出てくれば、次に取り組む内容を相談できます。反対に、将来の説明が長くても、今日使う教材や困っている箇所は別に確かめます。書く力、将来への関心、学習の実行をひとまとめに評価しないことが、子どもの様子を読み違えないための整理です。
中学生の授業は自分像と行動をつないでいました
Oyserman ほか(2006)は、米国の低所得家庭の中学2年生を対象に、将来の学業の自分像を扱う短い授業を調べました。授業を受けた組は141人、対照の組は123人で、将来像を具体的な行動の手順につなぐことなどを扱っています。授業を受けた組では、対照の組に比べて学業への自主性、標準テストの点、成績が改善しました。効果は2年間の追跡で続き、将来の自分像の変化がその間をつなぐ要因として示されました。
この授業には、難しさの受け止め方を変える働きかけも含まれていました。研究者は、目標に向かう途中の困難を「大事だからこそ難しい」と意味づけ直す内容を扱っています。将来の成功した姿を思い浮かべるだけでなく、途中で手が止まることまで授業の対象にしていたわけです。したがって、家庭で読む際も、夢を紙に書く作業だけを切り出すより、実行と困難の扱いを含む授業全体に注目します。
Oyserman ほか(2007)は、同じ授業の無作為化試験を追跡して、保護者の学校への関わりとの関係を分析しました。無作為化試験とは、くじ引きのような方法で組を分けて比べる試験です。対照の組では、保護者の学校への関わりが少ないことが、低い成績や弱い学校への取り組みと結びついていました。授業を受けた組では、その不利が見られず、学校での働きかけが関係を和らげる結果でした。
この追跡は、保護者の関わりを本人の努力だけで埋めるべきだという勧めではありません。学校が用意した授業の中で、学業上の自分像を扱ったという条件が中心です。また、先の研究と同じ授業を追った分析なので、別の場所でも同じ効果が得られた研究として数えることは避けます。家庭で参考にする部分は、子どもの希望を聞いて終えるのではなく、そこへ向かう手順を一緒に言葉にするという課題の形です。
大学生の試験では結果がそろっていません
Morisano ほか(2010)は、学業に困難のある大学生85人を対象に、個人の目標を設定し、詳しく書き、振り返る課題を試しました。学生はくじ引きで、ネット上で目標を扱う組と、見かけの似た別の課題をする組に分けられました。追跡時には、目標を扱った組の学業成績が対照の組より上がりました。比較相手も課題をしているため、単に画面に向かって何かを書く時間を設けたという比較ではありません。
一方、Dobronyi ほか(2019)は、カナダの大きな大学で、入学したばかりの学生約1,400人を対象に試験を行いました。ネット上の目標設定課題か対照課題に無作為に分け、一部の学生には目標を思い出させる連絡も送っています。どの介入群でも、評定平均、取得単位、翌年の在籍継続に効果の証拠は見られませんでした。規模の大きい試験で結果が出なかったことは、書く課題の導入だけを成績改善策として期待する際の歯止めです。
Dekker ほか(2024)は、商学と教員養成の新入生1,134人を対象に、振り返りを伴う目標設定の無作為化試験を行いました。対照の組に比べて、課題を受けた組は取得単位が多く、退学の危険は15%低い結果でした。ただし同じ試験で、自己調整学習、つまり自分で学び方を調整することや、粘り強さ、学校への取り組み、心の健康には効果が見られませんでした。単位の結果と学び方の結果が異なるため、「やる気が高まり、学び方が変わったから単位が増えた」と一続きに説明するのは避けます。
これらは、同じ学生に同じ課題を与え、別々の採点者が違う判定をしたという話ではありません。学業に困っている大学生を集めた試験と、新入生を広く対象にした試験では、入口の条件も異なります。目標設定という呼び名が共通していても、参加者、課題の内容、比較相手を並べて読む必要があります。効果が出た論文だけを根拠にせず、出なかった試験も含めて期待の大きさを決めるのが妥当です。
将来の夢と勉強のやる気を結ぶときの書き分け
将来の職業名を用紙に書くことと、その姿に近づく行動を考えることには、作業の違いがあります。前者なら希望する名前が出れば欄は埋まりますが、後者では、今の勉強のどこに手をつけるかを選びます。さらに、実行しにくい状況まで書くと、予定どおり進まなかった際に見直す箇所が残ります。次の表は、研究で扱われた課題の特徴を手掛かりに、家庭での書き方を分けたものです。
| 比べる点 | 夢を書くだけの形 | 行動とつまずきまで考える形 |
|---|---|---|
| 書く内容 | なりたい職業や将来の姿 | 将来の姿と、近づくために取り組む内容 |
| 時間の見通し | 遠い将来が中心 | 来週、実行できる場面まで決める |
| 難しい場面 | うまくいく姿だけを描く | 始められない理由や、途中で困る箇所も書く |
| 読み返す視点 | 夢が変わっていないか | 実行できたことと、手順を変える箇所を見る |
小学生については、Owens ほか(2013)が、5〜11歳の62人を対象に、将来の自分を絵にする課題を調べています。幸せで生き生きした将来の自分を描く組は、感謝していることや、その日にしたことを描く組より、自尊心の伸びが大きい結果でした。自尊心は、自分を価値ある存在として受け止める感覚です。この研究が測ったのはその感覚で、成績ではないため、楽しく描けたことと学業上の成果は分けて受け止めます。
家庭で用紙を使うなら、完成した文章の見栄えより、本人が後で読んで行動を思い出せる表現を選べます。たとえば「人に説明できる自分」という姿なら、取り組む行動として、授業で迷った解き方を言葉にすることを書けます。邪魔しそうなことには、どこがわからないのか自分でも言いにくいことなどが挙がります。こうした記入は家庭で試すための例であり、論文の授業をそのまま再現した手順として提示するものではありません。
夢が決まらない子に作文を迫らない
なりたい姿を尋ねても、今は思いつかない子に、職業名を選ぶところから始めさせる必要はありません。家庭で試す場合は、「わからないところを質問できる」「読んだ内容を自分の言葉で話せる」といった、学習場面の姿を候補にできます。保護者が例を出したら、その言葉が本人の希望に近いかを聞きます。違うと言われたときに消せる余白を残すことで、保護者の期待を書き写すだけの課題にしない扱いができます。
また、将来の話をすると不安が強くなったり、親が納得する答えを探して黙ったりする場合は、その場で書き上げることを求めない方針が取れます。先に今の教材を開き、取り組めそうな箇所を選ぶ順序でも構いません。ここでの判断材料は、夢の有無より、話し合いが本人の考えを表す機会になっているかです。大人に見せるための目標ができても、それだけで学習の準備が整ったとは扱いません。
困難の意味づけにも注意を向けます。「大事だからこそ難しい」という授業の考え方を、つらさを我慢するよう求める言葉に置き換えると、困っている内容を聞く機会が失われます。教材の説明がわからないのか、取りかかる時間が取れないのか、書く量が負担なのかを具体的に聞けます。学習の方法や支えを変えられるかという検討まで含めて、難しさを扱います。
予定を実行できなかった際も、すぐに夢への気持ちの弱さと結びつけないようにします。書いた行動が広すぎたのか、必要な教材が手元になかったのかといった、手順の側を見直せます。目標を何度も清書するより、行動の表現を本人が着手できる大きさに直す方針です。夢が変わったときには、前に書いた言葉を守らせることより、今の希望と行動のつながりを読み直せます。
学年末の用紙から来週の行動を選ぶ
家庭での試し方として、まず、なりたい姿を短く書き、その横に来週する行動と、それを邪魔しそうなことを並べます。どの欄も項目を増やしすぎず、本人が試したい内容に絞ります。姿の欄だけが長くなったら、実行する場面の欄へ戻って、教材や取りかかるきっかけを具体的にします。以下は、書いた内容を確かめるためのチェックリストです。
- なりたい姿は、本人が今の言葉で言い直せるか
- 来週する行動は、使う教材や取り組む箇所が浮かぶか
- 邪魔しそうなことは、気合い以外の言葉で説明できるか
- 止まったときに、どこへ戻るか、何を尋ねるかが書けるか
- 読み返す際に、実行した跡を見られるか
たとえば、行動の欄に「数学を頑張る」とあれば、何をしたら実行したとわかるかを本人に聞きます。「解説を読んでも途中がわからない問題に印をつける」なら、次に開くページと作業が見えます。邪魔しそうなことが「わからない問題を見たくなくなる」なら、全部解く予定をいったん外して、質問する箇所を選ぶところから始められます。これは点の上がり幅を約束する方法ではなく、予定の曖昧な部分を減らすための提案です。
読み返すときは、まず書いた行動に着手したかを確かめ、その次に予定と実際の違いを聞きます。行動できたか、内容が理解できたか、成績が変わったかは、それぞれ別に記録します。たとえば印をつけられたなら、次はその箇所の説明を求める段階へ進めます。着手できなかった場合は、夢を大きく書き直す前に、いつ何をする予定だったかを見直せます。
用紙を使った後に試験の点が変わっても、授業の進み具合や実際に取り組んだ学習も一緒に振り返ります。書くこと自体の成果を急いで判定するより、紙に残した行動が次の学習へつながったかを見る使い方です。将来の自分像は、子どもに約束を守らせる札としてではなく、行動を相談するための言葉として使えます。学年末の余白に残したいのは、立派な夢の完成形より、本人が来週取りかかれる手順です。
よくある質問
将来の職業が決まっていなくても書けますか
職業名に限らず、学習の中でできるようになりたい姿から書けます。たとえば、人に尋ねられる自分や、読んだ内容を説明できる自分なら、取り組む内容も相談しやすくなります。本人が選べる表現を使い、まだ言葉にならないときは、今の課題を開くところから始められます。保護者の希望に合う職業を探す時間にせず、本人が試してみたいことを聞く場として使えます。
書いたのに勉強を始めないときはどうしますか
夢をもう一度書かせる前に、行動の欄が実行できる内容になっているかを見ます。「頑張る」だけなら、使う教材や着手する箇所まで決める余地があります。手順が明確でも止まるときは、本人が挙げた障害と実際に起きたことを照らし合わせ、予定を小さくするか、説明を求めるかを相談できます。
書いた目標は保護者に見せる約束にするべきですか
家庭で使うなら、先に本人と、見せたい部分と自分だけで持っておきたい部分を話し合えます。夢の内容を評価する場にせず、助けが要る行動だけを相談する形も選べます。本文の手順にあるように、読み返す目的を行動の確認に置けば、言葉の立派さを比べずに話を進められます。見せる範囲を変えたいと言われた場合も、何を手伝ってほしいのかを改めて聞けます。
この記事の限界
研究の対象者は、米国の低所得家庭の中学生や大学生が中心で、学校で行う授業と家庭で用紙に書く場面には条件の違いがあります。成績が改善した中学生の授業を、日本の中学生で同じように実施した結果は、取り上げた研究の範囲には含まれていません。小学生の研究は自尊心を測っており、年齢をまたいで成績への効果を比較する材料としては限られています。
課題には目標の詳述や振り返りなどが組み合わされているため、どの作業が成果に寄与したかを切り分けることも課題として残っています。書いた目標を本人だけが読む場合と、保護者や講師が一緒に読み返す場合の違いは、これらの研究では比べられていません。
参考文献
- Oyserman ほか. Possible selves and academic outcomes: How and when possible selves impel action. J Pers Soc Psychol. 2006;91(1):188-204.
- Oyserman ほか. School Success, Possible Selves, and Parent School Involvement. Family Relations. 2007;56(5):479-489.
- Morisano ほか. Setting, elaborating, and reflecting on personal goals improves academic performance. J Appl Psychol. 2010;95(2):255-264.
- Dobronyi ほか. Goal Setting, Academic Reminders, and College Success: A Large-Scale Field Experiment. Journal of Research on Educational Effectiveness. 2019;12(1):38-66.
- Dekker ほか. Reflective Goal-Setting Improves Academic Performance in Teacher and Business Education: A Large-Scale Field Experiment. Journal of Research on Educational Effectiveness. 2024.
- Owens ほか. Positive Psychological Interventions for Children: A Comparison of Gratitude and Best Possible Selves Approaches. The Journal of Genetic Psychology. 2013;174(4):403-428.
通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。
- 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
- 向く人: 通塾の日だけ机に向かい、ほかの日の学習習慣が続かないことを、授業の中で一緒に組み直したい家庭
- 向かない人: 英検や内申の結果を、通う回数を増やすことだけで変えたいと考えている家庭
- 向かない人: 一人の講師と向き合うより、大勢と競い合いながら速い進度で先へ進みたい人
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よくある質問
将来の職業が決まっていなくても書けますか
職業名に限らず、学習の中でできるようになりたい姿から書けます。たとえば、人に尋ねられる自分や、読んだ内容を説明できる自分なら、取り組む内容も相談しやすくなります。本人が選べる表現を使い、まだ言葉にならないときは、今の課題を開くところから始められます。保護者の希望に合う職業を探す時間にせず、本人が試してみたいことを聞く場として使えます。
書いたのに勉強を始めないときはどうしますか
夢をもう一度書かせる前に、行動の欄が実行できる内容になっているかを見ます。「頑張る」だけなら、使う教材や着手する箇所まで決める余地があります。手順が明確でも止まるときは、本人が挙げた障害と実際に起きたことを照らし合わせ、予定を小さくするか、説明を求めるかを相談できます。
書いた目標は保護者に見せる約束にするべきですか
家庭で使うなら、先に本人と、見せたい部分と自分だけで持っておきたい部分を話し合えます。夢の内容を評価する場にせず、助けが要る行動だけを相談する形も選べます。本文の手順にあるように、読み返す目的を行動の確認に置けば、言葉の立派さを比べずに話を進められます。見せる範囲を変えたいと言われた場合も、何を手伝ってほしいのかを改めて聞けます。