- 冒険教育の主な成果は自己概念や社会性で、教科の学力とは別に測られています。
- 長いプログラムや年長の参加者で効果が大きい傾向がありますが、活動内容には大きな違いがあります。
- 学校の試験結果が良くなった報告もあり、定期的な屋外授業にも学業上の利点を示す研究があります。
- 事例研究や質問紙に頼る研究も多く、学力向上を強く期待できるほど証拠はそろっていません。
- 家庭では体験に求めるものを先に決め、自分で計画したことや話したことを、学習の予定と分けて記録します。
夏のキャンプの体験で学力は伸びるか|野外での体験学習の研究
バス停で、キャンプへ向かう子が大きなリュックの肩ひもを引き直しています。隣の保護者は持ち物の紙をたたみ、子は荷物の中の雨具を指で確かめています。親元を離れて過ごす体験で、自信に加えて勉強の力も伸びるのでしょうか。夏の予定に学習と野外の活動をどう組み込むかを考えるとき、体験が何に結びついたかという研究が気になります。
野外の体験には自信や社会性の改善を示す研究がありますが、数日のキャンプで学力が伸びるという確かな証拠はありません。研究の中の野外教育には、挑戦的な活動を続ける取り組みも、学校の教科を屋外で教える授業もあります。宿泊したかどうかだけでなく、何を学ぶ活動だったかによって、測る成果も変わります。
帰宅後に子が楽しそうに話す姿と、教科の問題を解けるようになることは、どちらも意味のある変化です。ただし、研究はその両方を同じように測っているわけではありません。「自信がついた」という報告から「次の試験でも伸びる」までをつなぐには、試験を測った根拠が要ります。野外教育に好意的な研究と、その測り方を点検した研究を並べると、この間の距離が見えてきます。
要点
- 冒険教育の主な成果は自己概念や社会性で、教科の学力とは別に測られています。
- 長いプログラムや年長の参加者で効果が大きい傾向がありますが、活動内容には大きな違いがあります。
- 学校の試験結果が良くなった報告もあり、定期的な屋外授業にも学業上の利点を示す研究があります。
- 事例研究や質問紙に頼る研究も多く、学力向上を強く期待できるほど証拠はそろっていません。
- 家庭では体験に求めるものを先に決め、自分で計画したことや話したことを、学習の予定と分けて記録します。
自然体験と学力の間にある、自信という別の成果
「自然の中でたくましくなれば勉強も伸びる」という話には、異なる成果が重なっています。冒険教育とは、野外での挑戦的な活動を通した教育です。その研究でいう自己概念は、自分をどのような人間だと捉えるかという見方を指します。自分への見方が良くなることと、読解や計算の正答が増えることは、測定上は別の出来事です。
Hattie ほか(1997)は、冒険教育の96研究から1,728の効果量を集めたメタ分析を報告しています。メタ分析は複数の研究の結果をまとめて計算し直す方法で、効果量は差や変化の大きさを共通の物差しで表した数です。主に扱った成果は自己概念やリーダーシップなどで、結果を自分の行動で変えられると捉えるかどうかも対象でした。効果の大きさは研究によって大きくばらつき、プログラムが長く、参加者の年齢が高いほど大きい傾向でした。
この分析は、野外の活動に教育的な成果があるという見方を支えています。一方で、中心に据えた物差しは教科の試験ではなく、自分や周囲との関わり方です。「効果がある」という短い紹介だけでは、そこで何が変わったのかが抜け落ちます。学力という問いへの答えは、成果の欄を教科の成績に絞って読むことで初めて明確になります。
また、長い取り組みで効果が大きいという関係は、同じ子の滞在日数だけを延ばした比較とは異なります。長い活動と短い活動で、対象者や指導の内容が違えば、その違いも結果に重なります。年長の参加者で効果が大きいという点も含め、この分析が示すのは研究間の傾向です。幼い子の短い滞在を評価するには、対象と活動の組み合わせが離れています。
冒険教育の平均値には、活動内容の違いも入っています
Cason ほか(1994)は、中高生の野外冒険プログラムを扱った43研究、143の効果量をまとめ、全体の効果量を0.31と報告しています。この値は成果をまとめた大きさで、教科の学力だけを取り出した値ではありません。成果の種類によって大きさが異なり、プログラムの長さや参加者の年齢とも関係していました。異なる成果をまとめた平均値なので、何の変化を測った数かという説明と一緒に読む必要があります。
この研究で見逃せないのは、著者が元の研究の説明不足を指摘している点です。プログラムの中身が十分に書かれていないと、同じ「野外冒険」という名前の下で何を比べているのかが曖昧になります。全体として変化があっても、その変化をもたらした活動を特定するための材料が欠けています。平均値の大きさと、実際の活動を再現できるかは別の問題です。
たとえば、共同で作業することを主眼とする活動と、自然の観察を主眼とする活動では、子に求める行動が違います。これは研究の結果を追加する例ではなく、活動内容の記述が必要な理由です。活動の名称だけが一致していても、同じ経験をしたとは判断できません。教科の内容を扱うのか、集団で挑戦するのかという区別が失われると、平均値だけが独り歩きします。
さらに、参加者の年齢との関係がある以上、対象者の説明も結果の一部です。中高生が取り組んだ活動の成果を読む際には、活動の難しさと対象の組み合わせが重要になります。人数や成績だけを詳しく書いても、何を経験したかが薄ければ教育の中身は捉えにくいままです。このメタ分析は、効果を認める報告であると同時に、元の研究の書き方に課題を示した報告です。
教科の授業と宿泊体験では、比べる条件が違います
Kuo ほか(2019)は、自然の体験と学びをまとめた総説で、自然の中での授業が通常の授業を上回るという証拠を挙げています。学業の面では実験の証拠に加えて、標準テストや卒業率の結果も論じています。これは自然を学びの場として積極的に評価する研究です。ただし、検索や選別の手順をそろえて研究を集める系統的レビューとは異なる、幅広い知見をつなぐ総説です。
ここで比べる相手は通常の授業で、野外で教科を学ぶ条件が論点になります。自然の中に滞在することと、自然の中で授業を受けることには、教える内容の有無という違いがあります。総説は粘り強さや協調性などの成長にも触れますが、その証拠については説得力があっても量的ではないと述べています。学業についての主張と人格面についての主張で、根拠の示し方も異なります。
宿泊体験については、Fuller ほか(2017)が、社会的に不利な家庭の成績が振るわない14〜16歳の生徒の2群を、3年間追った計画を報告しています。宿泊の野外体験の後に、自信と自己効力感、つまり自分にもやり遂げられるという感覚が高まりました。学校の正式な試験結果にも、統計的に有意な影響があったとされています。有意とは、偶然のばらつきだけでは説明しにくいと統計上判断されたという意味です。
この報告は、気持ちの変化に加えて試験結果を扱った点で、学力の問いに近い研究です。ただし、くじ引きによる群分けは抄録に記されず、人数と効果量も示されていません。追跡した期間は野外に滞在した期間とは区別されます。通常授業との比較を扱う総説と、特定の背景を持つ生徒の宿泊体験を追う研究では、同じ「自然の効果」という呼び方でも比較の土台が違います。
定期的な屋外授業には利点の報告と研究の弱さがあります
Becker ほか(2017)は、学校の正規の授業を定期的に屋外で行う取り組みを、系統的レビューで検討しました。分析した13研究のうち11研究が良い効果を報告し、良い面と悪い面の両方を報告した研究、悪い効果を報告した研究もありました。ただし、多くは事例研究で、量的な研究の質は平均して低いと評価されています。結論も、学業や社会性などの面で子どもを支える傾向が見られたという表現です。
事例研究は、ある学校や取り組みの中で何が起きたかを詳しく捉える方法です。その場の変化がよく見える一方、学校の特徴や教える人の違いと、活動そのものの影響とを分けるには工夫が要ります。良い結果の報告が並ぶことと、同じ条件で比べても差が残ることは同義ではありません。このレビューが対象にしたのは、教育課程の中で繰り返す授業です。
Mann ほか(2022)は、自然の中での学びについて147の研究を集めています。冒険教育だけでなく、学校菜園や野外学習、自然の中の教科の授業までを含む系統的レビューです。取り組みや主体性、社会性、自己概念の改善が報告される一方、学業の改善は「いくらかの証拠」という位置づけでした。研究の質はおおむね中程度で幅が広く、結果は文章で統合され、共通の効果量にはまとめられていません。
次の表は、成果と研究の質を分けて並べたものです。同じ欄に入る研究でも、冒険教育、宿泊体験、学校の正規の授業では活動が異なります。効果の強さだけで順位を付ける表ではなく、どの問いを測ったかを対応させています。
| 見る成果 | 研究で報告されたこと | 比較・対象の特徴 | 研究の質を読む点 |
|---|---|---|---|
| 自信・社会性 | Hattie ほか(1997)は自己概念などの改善を整理 | 冒険教育の多様な参加者と活動 | 成果のばらつきが大きい |
| 学力 | Fuller ほか(2017)は正式な試験結果の改善を報告 | 社会的に不利な家庭の生徒の宿泊体験 | 群分けの方法と人数の説明が抄録では乏しい |
| 学業を含む幅広い成果 | Becker ほか(2017)は好ましい傾向を報告 | 学校の定期的な屋外授業 | 事例研究が中心で量的な研究の質が低い |
| 学力・社会性など | Mann ほか(2022)は学業にはいくらかの証拠と評価 | 菜園や教科の授業など多様な活動 | 研究の質に幅があり、共通の効果量は未算出 |
平均の成果に埋もれる、測り方と参加しにくさ
Scrutton ほか(2015)は、野外冒険教育で人格や社会性を量的に測った22研究と6本のメタ分析を点検しています。繰り返し問題になったのは、参加者の集め方、質問紙とその使い方、結果に関わる条件の扱いでした。これは新たに参加者へ活動をさせて効果を測った実験ではありません。効果を報告する研究が、どれほど確かな測り方をしているかを調べた論文です。
参加者の集め方に偏りがあれば、参加した子の結果が、参加をためらう子の結果まで代表するとは限りません。質問紙の使い方にも問題があれば、「成長した」と回答した変化と、実際の行動の変化との対応が曖昧になります。さらに、結果に関わる条件の管理が弱いと、活動と一緒に変わった別の要因が結果に入り込みます。こうした点検は、効果をゼロと決めるためでなく、数字の意味を見定めるためのものです。
参加しにくさにも、活動に応じた違いがあります。長く歩く活動を負担に感じる子と、宿泊先で大勢と過ごすことを負担に感じる子では、難しい部分が異なります。自然観察には関心があっても、集団で挑戦する活動には気が進まないという組み合わせも考えられます。これらは研究が効果の低い子として分類した結果ではなく、活動と本人の希望が合うかという実施上の論点です。
学習の遅れを取り戻す目的で参加する場合にも、活動内容との隔たりが生じます。教科を扱わない活動の評価に、教科の点数だけを求めると、子が経験したことを捉え損ねます。反対に、楽しく参加したという感想だけを学力の改善と数えると、学んだ内容の確認が抜けます。向き不向きは子の性格の決めつけではなく、活動の要求と本人の状態との関係として捉えられます。
家庭で体験の目的と夏の学習予定を並べる手順
まず、体験に何を求めるかを、参加前に子と保護者で言葉にします。「自分で荷物を管理する」「共同の作業で自分の役割を持つ」「見たものを言葉にする」など、帰宅後に話せる具体的な行動にすると確かめやすくなります。教科の復習も目的なら、復習する内容は別に書きます。これは研究で効果が確定した学習法の提案ではなく、目的と結果を混ぜずに振り返るための手順です。
次に、活動の予定と夏の学習の予定を並べます。出発までの準備、帰宅後の休息、残してある宿題を同じ予定表に置き、活動の前後に無理が集まっていないかを見ます。集団生活や歩く活動が気がかりなら、何が負担なのかを本人の言葉で残します。嫌がる点をすべて成長のための課題と扱わず、参加の仕方や日程を見直す材料にします。
帰宅後の聞き取りは、成長した証拠を集める面接にしないことも意識します。うまくできた話だけでなく、困ったことや人に助けてもらったことも残せます。自分で考えて変更した計画があれば、その理由を短く添えます。夏の終わりには、出発前に書いた目的と子の記録を照らし合わせ、次の体験に求める内容を更新します。
よくある質問
自信がついたなら、勉強にも効果があったと考えてよいですか
自信の変化はそれ自体として受け止められますが、教科の成果とは別の記録です。冒険教育の研究では自分への見方や社会性を測るものが中心で、試験結果まで扱う研究とは区別されています。宿泊体験の節で挙げたように試験が良くなった報告もありますが、自信が高まった子の全員に同じ学業の変化が起きたという意味ではありません。学力の評価には、何を解けたか、説明できたかという教科に沿った材料が要ります。
長いキャンプを選ぶほど、学力への期待も大きくなりますか
冒険教育のメタ分析では、長いプログラムや年長の参加者で効果が大きい傾向がありました。ただし、その中心は自己概念などの成果で、宿泊日数に応じた教科の点数の上昇を示す結果ではありません。活動の中身や対象者の違いもあり、滞在の長さだけを効果の物差しにはできません。長さについての研究は、どのような取り組みで変化が報告されたかを読む材料です。
キャンプを選ぶと、夏の勉強の代わりになりますか
教科の授業を自然の中で行った研究と、野外で生活や挑戦を経験した研究では、学ぶ内容が違います。通常の授業を上回る結果を挙げた総説も、自然の中で教えることを扱っています。教科を扱わないキャンプまで、復習と同じ役割を果たすと評価する根拠にはなりません。手順の節で目的と学習予定を分けたのも、体験で得るものと教科で取り組むものを、それぞれの内容に沿って捉えるためです。
この記事の限界
研究の対象者には中高生や社会的に不利な家庭の生徒が含まれ、学校の定期的な屋外授業から長期の冒険教育まで、経験した活動にも幅があります。数日のキャンプで学力が伸びるかを、くじ引きで組を分けて確かめた研究は、今回取り上げた研究群にはありません。自信や社会性を測る研究では質問紙や参加者の集め方の問題が指摘され、学業の改善も活動ごとに確かさを分けて読む必要があります。
抄録をもとにした検討のため、比べた群の詳しい条件や宿泊中の指導内容までを一貫して追えず、期間に応じた学力の伸びも示せません。日本の林間学校や自然教室で学力を測った研究は今回の範囲になく、海外の長いプログラムから日本の数日の体験へ結果を当てはめるには、研究上の隔たりがあります。
参考文献
- Hattie ほか. Adventure Education and Outward Bound: Out-of-Class Experiences That Make a Lasting Difference. Review of Educational Research. 1997;67(1):43-87.
- Cason ほか. A Meta-Analysis of Outdoor Adventure Programming with Adolescents. Journal of Experiential Education. 1994;17(1):40-47.
- Kuo ほか. Do Experiences With Nature Promote Learning? Converging Evidence of a Cause-and-Effect Relationship. Frontiers in Psychology. 2019;10:305.
- Fuller ほか. Making gains: the impact of outdoor residential experiences on students’ examination grades and self-efficacy. Educational Review. 2017;69(2):232-247.
- Becker ほか. Effects of Regular Classes in Outdoor Education Settings: A Systematic Review on Students’ Learning, Social and Health Dimensions. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2017;14(5):485.
- Mann ほか. Getting Out of the Classroom and Into Nature: A Systematic Review of Nature-Specific Outdoor Learning on School Children’s Learning and Development. Frontiers in Public Health. 2022;10:877058.
- Scrutton ほか. Measuring the Unmeasurable: Upholding Rigor in Quantitative Studies of Personal and Social Development in Outdoor Adventure Education. Journal of Experiential Education. 2015;38(1):8-25.
通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。
- 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
- 向く人: 通塾の日だけ机に向かい、ほかの日の学習習慣が続かないことを、授業の中で一緒に組み直したい家庭
- 向かない人: 英検や内申の結果を、通う回数を増やすことだけで変えたいと考えている家庭
- 向かない人: 一人の講師と向き合うより、大勢と競い合いながら速い進度で先へ進みたい人
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よくある質問
自信がついたなら、勉強にも効果があったと考えてよいですか
自信の変化はそれ自体として受け止められますが、教科の成果とは別の記録です。冒険教育の研究では自分への見方や社会性を測るものが中心で、試験結果まで扱う研究とは区別されています。宿泊体験の節で挙げたように試験が良くなった報告もありますが、自信が高まった子の全員に同じ学業の変化が起きたという意味ではありません。学力の評価には、何を解けたか、説明できたかという教科に沿った材料が要ります。
長いキャンプを選ぶほど、学力への期待も大きくなりますか
冒険教育のメタ分析では、長いプログラムや年長の参加者で効果が大きい傾向がありました。ただし、その中心は自己概念などの成果で、宿泊日数に応じた教科の点数の上昇を示す結果ではありません。活動の中身や対象者の違いもあり、滞在の長さだけを効果の物差しにはできません。長さについての研究は、どのような取り組みで変化が報告されたかを読む材料です。
キャンプを選ぶと、夏の勉強の代わりになりますか
教科の授業を自然の中で行った研究と、野外で生活や挑戦を経験した研究では、学ぶ内容が違います。通常の授業を上回る結果を挙げた総説も、自然の中で教えることを扱っています。教科を扱わないキャンプまで、復習と同じ役割を果たすと評価する根拠にはなりません。手順の節で目的と学習予定を分けたのも、体験で得るものと教科で取り組むものを、それぞれの内容に沿って捉えるためです。