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公開:2026年9月11日/最終更新:2026年11月5日

絵を描いて覚えると忘れにくいか|描いて学ぶ研究と塾の暗記

夜九時、子がノートの用語の横に絵を描き足し、保護者はまだ開いたままの宿題に目を向けています。Meade ほか(2018)は、名詞30語を描くか繰り返し書くかで覚える実験で、描いた語がよく思い出される結果を報告しています。単語や用語を絵にする勉強は、文字で書いて覚える方法より忘れにくいのでしょうか。用語の暗記では書き写すより残る実験がありますが、言い換えでも同じくらい残り、仕組みの理解や応用では描くことで成績が下がった例もあります。

この記事の要点
  • 単語や定義を描く方法は、同じ文字を書き写す方法を上回る実験があります。
  • 自分の言葉で定義を言い換える方法でも、描くのと同程度に記憶に残った研究があります。
  • 事実を覚える効果に比べて、推論や応用への効果は小さく、教材によって結果が変わります。
  • 子どもの漢詩の授業と大学生の応用問題では、描く条件の成績が低かった例があります。
  • 試すときは描く対象と時間を絞り、絵を見ずに言葉で説明できるかまで確かめます。

絵を描いて覚えると忘れにくいか|描いて学ぶ研究と塾の暗記

夜九時、子がノートの用語の横に絵を描き足し、保護者はまだ開いたままの宿題に目を向けています。Meade ほか(2018)は、名詞30語を描くか繰り返し書くかで覚える実験で、描いた語がよく思い出される結果を報告しています。単語や用語を絵にする勉強は、文字で書いて覚える方法より忘れにくいのでしょうか。用語の暗記では書き写すより残る実験がありますが、言い換えでも同じくらい残り、仕組みの理解や応用では描くことで成績が下がった例もあります。

紙に絵が増えていくと、覚えるために考えているのか、仕上げに時間を使っているのかが気になります。けれども、「絵を描く」という動作だけでは、何を学んでいるかまでは決まりません。物の名前を覚えること、定義の意味をつかむこと、理科の仕組みを別の問題に使うことでは、学習後に求められる答えが違います。研究でも、書き写す組と比べるか、自分の言葉で説明する組と比べるかによって、描く方法の評価が変わります。ノートの見た目と学習の成果を分けると、時間のむだかどうかという疑問にも、教材と覚え方に即した答えが見えてきます。

要点

  • 単語や定義を描く方法は、同じ文字を書き写す方法を上回る実験があります。
  • 自分の言葉で定義を言い換える方法でも、描くのと同程度に記憶に残った研究があります。
  • 事実を覚える効果に比べて、推論や応用への効果は小さく、教材によって結果が変わります。
  • 子どもの漢詩の授業と大学生の応用問題では、描く条件の成績が低かった例があります。
  • 試すときは描く対象と時間を絞り、絵を見ずに言葉で説明できるかまで確かめます。

絵を描いて覚える方法は、書き写しと何が違うか

「文字だけで覚えるより、絵にすれば頭に残る」という話には、用語の暗記を扱った実験の裏づけがあります。Wammes ほか(2017)は、大学の教科書に出てくる用語と定義を、そのまま書き写す条件と、定義を表す絵を描く条件で比べています。描いた条件では、書き写した条件よりよく覚えていました。実在しない用語を用いた場合にも同じ傾向があり、すでに知っている語の絵を描く場面だけの結果ではありません。

ただし、同じ研究には、自分の言葉で定義を言い換える比較もあります。その条件では、描く場合と同じくらい記憶に残りました。研究者は、描く利点には意味を考えて別の形に表す働きが関わると説明しています。文字を使う方法でも、定義をそのまま写す作業と、意味を保って言い換える作業とは違います。

この比較は、絵と文字の優劣を一括して決める見方を変えます。書き写しとの比較で得られた差を、言葉を使う勉強すべてとの比較に広げると、言い換えの結果を取り落とします。また、定義を表す絵を作る課題では、何を絵に含めるかを決める作業も伴います。鉛筆で絵を残すことと、定義の意味を考えることが組み合わさった実験として読むと、比較の中身がはっきりします。

導入で触れた Meade ほか(2018)は、若い成人と高齢者を対象に、名詞を描く方法と繰り返し書く方法を調べました。学習後には、覚えた語を自由に思い出すテストを行い、描く利点は高齢者で大きく出ました。特徴を書き出す課題と比べても、描く方法が有利でした。この研究が測った成果は名詞を思い出す力であり、説明文の意味を理解して問題を解く力とは区別されています。

事実の記憶と、理解・応用では効果の大きさが違う

個別の実験をまとめた結果でも、何を測るかによって描く効果は変わります。Cromley ほか(2020)は、描いて学ぶ研究53件をメタ分析、つまり複数の研究の結果をまとめて計算し直す方法で検討しました。対象国や学年の詳しい内訳は抄録に記載がなく、学位論文も集計に加えています。比べた相手には別の描き方もあり、すべてが描く条件と読むだけの条件の比較ではありません。

Cromley ほか(2020)が示した効果量は、事実の記憶で g = 0.85、推論で g = 0.44、応用で g = 0.22 でした。効果量とは、成績の差をばらつきを物差しにして表す数です。事実を覚える成果が大きく、学んだ情報から考える推論、別の問題に使う応用の順に小さくなっています。同じ描く学習でも、用語を再現するテストと応用問題では、得られる利点の程度が異なりました。

この違いは、「覚えられたから使えるはず」という期待を点検する材料です。用語の名前が出てくることと、その用語を使って理由を説明することは、テストで求める答えが違います。さらに、見たことのない問題に知識を使うには、学習時と違う条件で答えを作ります。以下の表では、学ぶ対象と比較相手を分け、研究が捉えた成果を並べています。

学ぶ対象 よく言われること 研究で言えること 比べた相手・対象
単語の暗記 絵にすれば文字より残る 描いた語をよく思い出した 繰り返し書く方法・若い成人と高齢者。Meade ほか(2018)
用語の定義 絵だから覚えられる 書き写しを上回り、言い換えとは同程度 書き写しと言い換え・大学の教科書の用語。Wammes ほか(2017)
理科の仕組みの理解・応用 自分で描けば理解も深まる 読むだけには有利でも、図を見る方法などとの比較は混在 読む、思い浮かべる、用意された図を見る方法・理科の文章の研究。Fiorella ほか(2018)

図の多い教材と、描く語の混ぜ方で変わる結果

Fiorella ほか(2018)は、理科の文章を描いて学ぶ研究をまとめた総説で、比較相手の違いを論じています。読むだけ、または要約など文章を中心に扱う方法と比べると、描く方法は理解と応用で一貫して有利でした。一方、頭の中で思い浮かべる方法や、教える人が用意した図を見る方法と比べると結果は割れました。描き方の指導の程度などが結果を左右する可能性も指摘しています。

この総説は、描く作業には時間と頭の負担がかかり、指導がないと学習に役立つ絵を作るのが難しい点も扱っています。比較相手が読むだけなら、描く条件には内容を作り直す活動が加わります。図を見る条件や思い浮かべる条件にも、内容を視覚的に捉える活動があります。したがって、読むだけへの優位と、他の工夫への優位は別の検討課題です。

Lawson ほか(2024)は、温室効果ガスのアニメ教材の途中で、要約を書く、絵を描く、両方を行う、追加の活動を行わない条件を比べました。要約を書く条件は追加の活動を行わない条件よりテストの成績が高く、描く条件にはその差がありませんでした。直後と後日のテストを扱い、描き方の事前練習は行っていません。文章を絵にする総説の結果に対し、この実験では、もともと視覚的な情報が豊富な教材に描く活動を足しています。

実験内での語の並べ方も、差の見え方を変えます。Huff ほか(2024)は、すべて描く条件でも記憶の利点を示しましたが、描く語と書く語が混ざる条件では差がさらに大きく出ました。その差の一部には、書いた語が忘れられやすくなる損が関わっていました。著者は、混ざった一覧の中で描いた語が目立つことも思い出す助けになると解釈しており、描いた語の成績の上昇だけで差を説明していません。

子どもの教室で低かった例と、応用を妨げた例

成人の単語の実験から、子どもの教室に目を移すと、学ぶ内容も比較の単位も変わります。Lu ほか(2026)は、中国の小学5年生93人が漢詩を学ぶ授業で、指でなぞる、読む、描く方法を比べました。思い出す正確さは、なぞるクラス、読むクラス、描くクラスの順で、描くクラスが最も低くなりました。理解の面でも、なぞるクラスが上回りました。

この研究は、子どもが実際の教室で学んだ点が、成人の単語暗記の実験と違います。一方で、方法をクラス単位で割り付けているため、教える人やクラス自体の違いが結果に混じります。また、漢詩の学習と、名詞や定義を単独で覚える課題では、学習内容のまとまりが異なります。描くクラスの成績が低いという結果と、その原因を描く動作だけに絞れるかという問題は別です。

Fiorella ほか(2026)は、大学生197人が血液循環を学ぶ実験で、自分で説明を書く活動や描く活動を調べました。研究の計画を先に登録する事前登録を行い、用意された文章や図から学ぶ条件を比較しています。文章から絵にするなど表し方を変える活動は理解テストで良い結果でしたが、描く活動は応用のテストで追加の活動を行わない条件より悪い結果でした。理解と応用を別々に測ることで、同じ学習活動の成果が異なる方向に出ています。

この結果での応用は、学んだ知識を別の問題に使うことを指します。教材の内容を絵で表せるかという課題と、別の状況で知識を使えるかという課題を分けた点に意味があります。描く活動が理解の助けになる結果だけを拾えば、応用の不利を見落とします。反対に、応用での不利だけを見て、用語を覚える実験の利点まで消してしまう読み方も、測った成果の違いを無視しています。

描く負担が大きくなる教材と、向きにくい取り組み方

描く方法の向き不向きは、学ぶ内容と課題にかかる負担の組み合わせから考えられます。Fiorella ほか(2018)が指摘する時間と頭の負担は、絵を作れば必然的に得をするという見方に歯止めをかけます。理科の文章を描くには、何を取り出し、どの関係を表すかを決めます。描き方の指導がない条件では、その判断も学習者が担います。

具体的な形が浮かぶ語と、関係や仕組みを表す用語では、紙に置く情報の選び方が違います。前者は物の特徴を描けても、後者は要素どうしのつながりまで表す課題になります。何を描けばよいかで手が止まる子にとっては、描く作業が内容を考える足場にならず、別の課題として増える可能性があります。これは負担の指摘から考えられる向き不向きであり、子の絵の能力を採点した結果ではありません。

教材にすでに図が十分ある場合には、追加の絵がどんな情報を補うかも論点です。Lawson ほか(2024)のアニメ教材では、視覚的な情報を見ることに描く活動を足しても、成績の有利さは示されませんでした。同じ教材で要約の条件に利点が出たことは、教材が示した内容をどの形で扱い直すかの違いを示します。絵を見た後にさらに描く学習と、文章から絵を作る学習は、出発点が違います。

また、細部を仕上げることに時間を多く使う取り組みでは、暗記に使える時間との兼ね合いが生まれます。きれいな絵を完成させる課題と、用語を覚えて説明する課題は、完成とみなす基準が異なります。形が整っていても、意味の説明ができるかは別に残ります。描く作業を好む子についても、絵を描くのが負担な子についても、作品の完成度と学習の達成度を同じ評価にしない視点が求められます。

家庭や塾で、描く対象と時間を絞って確かめる手順

家庭では、いま覚える用語のうち、具体的な形がある語から描く方法を試すと、作業の範囲を決めやすくなります。抽象的な説明まで全部絵にする課題にせず、本人が形を思い浮かべられる語を選びます。始める前に、覚える対象と描く時間の上限を子と決めます。色を増やしたり描き直したりする作業が続くときも、決めたところで意味を説明する段階へ移ります。

比べる方法には、ただ書き写すだけでなく、自分の言葉で意味を言い換える方法も入れます。片方に知っている語、もう片方に初めての語が偏らないよう、似た難しさの内容を選びます。描く方法だけ長く取り組んだ場合は、その時間も記録します。次のチェックリストは研究の効果を再現するための決まった処方ではなく、子にかかる負担と覚えた内容を見分けるための手順です。

  • 描く前に、覚えたい語と意味を確かめ、形のある語に対象を絞る
  • 描く時間の上限を決め、仕上げの作業で延びた時間も残す
  • 描いた後はノートを閉じ、語と意味を言葉で説明してもらう
  • 言い換えて覚えた内容も、同じ問い方で確かめる
  • 後日の復習でも思い出せるかを見て、かかった時間と併せて記録する

説明を聞くときは、絵に何を描いたかだけで終わらせず、それが用語のどの意味に対応するかを尋ねます。理科の仕組みなら、部品の名前を言えることと、つながりを説明できることを分けて記録します。答えに詰まった箇所は教材と照らし、描き足すか、言葉で補うかを選びます。絵を描くのが負担な日は、言い換える方法へ切り替えてもかまいません。

塾で暗記の方法を検討するときも、ノートの出来栄えだけで判断せず、説明の中身とかかった時間を伝えると検討しやすくなります。描く方法で思い出せた語と、言葉で覚えたほうが説明しやすかった語を残せば、次に扱う内容を絞れます。Wammes ほか(2017)の定義の実験では、自分の言葉への言い換えも、描く方法と同程度に記憶を支えました。

よくある質問

描いている時間は、暗記のむだになりませんか

描く時間だけでむだとは決められませんが、かけた時間に対して何が残ったかを見ることができます。研究の比較でも、書き写す場合と、意味を考えて言い換える場合では、描く方法の有利さが違いました。手順の節のように時間を区切り、後で語と意味を思い出せたかを記録すると、仕上げに時間を使いすぎていないかも見えてきます。絵を完成させたことだけを暗記の終了にしない扱いです。

絵が苦手な子にも描かせたほうがよいですか

何を描くか迷って作業が止まるなら、言い換えて覚える方法も選べます。定義を扱った研究では、自分の言葉に直す方法も描く方法と同じくらい記憶に残っていました。絵を整えるために何度も描き直す必要を感じている子には、意味を言葉にする課題へ切り替える余地があります。どちらを使っても、覚えた用語の意味を説明できたかという確かめ方は共通にできます。

理科の仕組みも、描ければ理解できたと見てよいですか

描けたことと、別の問題に知識を使えることは分けて見る扱いが妥当です。本文で取り上げた血液循環の実験でも、理解テストと応用テストで描く活動の評価が違いました。形や名称を再現する問いに加え、関係を言葉で説明する問いや、条件を変えた問題にも答えられるかを確かめます。描いた図は説明を始める材料にできますが、それだけで応用まで評価を終えない手順です。

この記事の限界

測り方は、単語を自由に思い出すテスト、定義の記憶、理科の理解や応用などさまざまで、学習後のどの時点で何を問うかも研究ごとに異なります。描く効果の実験の多くは大学生か高齢者の単語の暗記で、子どもの教室を確かめた研究は、取り上げた範囲では漢詩を扱う Lu ほか(2026)だけです。対象国や人数、学習から測定までの間隔が抄録に詳しく書かれていない研究もあり、長く忘れずに保てる程度を一律には示せません。

日本の小中高生が塾や家庭で描いて覚える条件を比べた研究は今回の範囲になく、教科ごとの暗記への有用性は、個々の教材と取り組みの記録に照らして検討する余地があります。絵のうまさや描く速さで効果が変わるかを直接測った研究もなく、描くのが苦手な子への当てはまりは判断できません。

参考文献

  1. Meade ほか. Drawing as an Encoding Tool: Memorial Benefits in Younger and Older Adults. Experimental Aging Research. 2018;44(5):369-396.
  2. Wammes ほか. Learning terms and definitions: Drawing and the role of elaborative encoding. Acta Psychologica. 2017;179:104-113.
  3. Cromley ほか. Drawing-to-Learn: Does Meta-Analysis Show Differences Between Technology-Based Drawing and Paper-and-Pencil Drawing? Journal of Science Education and Technology. 2020;29(2):216-229.
  4. Fiorella ほか. Drawing Boundary Conditions for Learning by Drawing. Educational Psychology Review. 2018;30(3):1115-1137.
  5. Lawson ほか. Generative learning activities for online multimedia learning: when summarizing is effective but drawing is not. Frontiers in Psychology. 2024;15:1452385.
  6. Huff ほか. The drawing effect: Evidence for costs and benefits using pure and mixed lists. Memory & Cognition. 2024;52(6):1408-1421.
  7. Lu ほか. A mode comparison study about the effect of tracing on children’s poem learning in actual classroom contexts. British Journal of Educational Psychology. 2026;96(3):1033-1054.
  8. Fiorella ほか. Benefits and boundaries of learner-generated explanations and drawings. Journal of Educational Psychology. 2026;118(6):1000-1012.

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  • 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
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描いている時間は、暗記のむだになりませんか

描く時間だけでむだとは決められませんが、かけた時間に対して何が残ったかを見ることができます。研究の比較でも、書き写す場合と、意味を考えて言い換える場合では、描く方法の有利さが違いました。手順の節のように時間を区切り、後で語と意味を思い出せたかを記録すると、仕上げに時間を使いすぎていないかも見えてきます。絵を完成させたことだけを暗記の終了にしない扱いです。

絵が苦手な子にも描かせたほうがよいですか

何を描くか迷って作業が止まるなら、言い換えて覚える方法も選べます。定義を扱った研究では、自分の言葉に直す方法も描く方法と同じくらい記憶に残っていました。絵を整えるために何度も描き直す必要を感じている子には、意味を言葉にする課題へ切り替える余地があります。どちらを使っても、覚えた用語の意味を説明できたかという確かめ方は共通にできます。

理科の仕組みも、描ければ理解できたと見てよいですか

描けたことと、別の問題に知識を使えることは分けて見る扱いが妥当です。本文で取り上げた血液循環の実験でも、理解テストと応用テストで描く活動の評価が違いました。形や名称を再現する問いに加え、関係を言葉で説明する問いや、条件を変えた問題にも答えられるかを確かめます。描いた図は説明を始める材料にできますが、それだけで応用まで評価を終えない手順です。