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公開:2026年9月11日/最終更新:2026年11月1日

塾のプリントは読みにくい字体のほうが記憶に残るか|わざと読みにくくする研究と追試

改札前で子を待つ間、保護者がかばんから出したプリントの細い文字を目で追っています。「すらすら読める字より、少し読みにくい字のほうが頭に残るのでしょうか」と気になることもあります。字体を変えるだけで覚えやすくなるなら、教材を作り直す手間も小さく見えます。読みにくい字体で記憶が良くなった研究はありますが、その後の追試では効果が出ない例や、子どもの記憶が下がった例もあり、一律に読みにくくする根拠は弱いです。

この記事の要点
  • 読みにくい字体が記憶を助けた初期研究はありますが、その抄録には人数と効果の大きさが記載されていません。
  • 研究をまとめた分析では記憶と応用に効果が出ませんでしたが、記憶の集計には誤りが指摘されています。
  • 子どもの文章学習では、読みにくい字体で思い出す量が下がった実験があります。
  • 頭の負担が軽い課題で利点が出た報告もあり、課題の条件によって結果が変わります。
  • 覚えた自信、学習に使った時間、実際に思い出せた量は、別々に扱う指標です。

塾のプリントは読みにくい字体のほうが記憶に残るか|わざと読みにくくする研究と追試

改札前で子を待つ間、保護者がかばんから出したプリントの細い文字を目で追っています。「すらすら読める字より、少し読みにくい字のほうが頭に残るのでしょうか」と気になることもあります。字体を変えるだけで覚えやすくなるなら、教材を作り直す手間も小さく見えます。読みにくい字体で記憶が良くなった研究はありますが、その後の追試では効果が出ない例や、子どもの記憶が下がった例もあり、一律に読みにくくする根拠は弱いです。

この話の難しさは、読みながら感じる手応えと、後で答えられる内容が別々に動くところにあります。すらすら読めると覚えた気がし、つかえながら読むと心もとなく感じても、その感覚だけで記憶のできは決まりません。また、単語を覚える課題、文章を思い出す課題、学んだ知識を別の問題に使う課題では、調べている成果が違います。最初の研究が示した利点と、その後に見つかった不利な条件を、何と何を比べた結果なのかに沿って読むと、字体に期待できる範囲が見えてきます。

要点

  • 読みにくい字体が記憶を助けた初期研究はありますが、その抄録には人数と効果の大きさが記載されていません。
  • 研究をまとめた分析では記憶と応用に効果が出ませんでしたが、記憶の集計には誤りが指摘されています。
  • 子どもの文章学習では、読みにくい字体で思い出す量が下がった実験があります。
  • 頭の負担が軽い課題で利点が出た報告もあり、課題の条件によって結果が変わります。
  • 覚えた自信、学習に使った時間、実際に思い出せた量は、別々に扱う指標です。

読みにくいフォントが記憶を助けるという話の出発点

文字の流暢さとは、見た文字をすらすら読める感じ、つまり読みやすさを指します。ここでいう「望ましい難しさ」は、学ぶ最中には手間がかかっても、後の記憶や学習に役立つ難しさという考え方です。読みにくい字体の研究は、見た目の読みづらさも、この役立つ難しさになるのかを問うています。難しいと感じた事実と、難しさが学習を助けた事実は、区別して扱う必要があります。

Diemand-Yauman ほか(2011)は、実験室で読みにくい字体の情報がよく覚えられた結果と、高校の教室へ広げた研究を報告しました。比べているのは、学ぶ内容の難易度そのものではなく、教材を示す字体の読みやすさです。研究者は、読みづらさが情報を深く処理するきっかけになるという見方から、教材の表面的な変更でも学習成果を改善しうると述べています。実験室の結果に加えて教室の報告もあったことが、この考え方の注目点です。

French ほか(2013)も、生徒に読みにくい字体で教材を示すと、成績の高低にかかわらず、覚えて思い出す量が増えたと報告しました。対象には、ディスレクシアという読み書きの困難がある生徒も含まれ、その生徒にも利点があったとされています。ただし、この短報と出発点の研究の抄録には、人数と効果量(差の大きさを、ばらつきを物差しにして表す数)がありません。利点を報告した研究として位置づけられますが、規模や効果の大きさを具体的に比較する材料は限られます。

研究をまとめると効果は小さいが、集計にも批判があります

Xie ほか(2018)は、文章を学ぶ際の読みにくさを扱う25論文、3135人の結果を、メタ分析(複数の研究結果をまとめて計算する方法)で調べました。読みやすい条件と比べた思い出す量の効果は d = -0.01、応用の効果は d = 0.03 で、全体として効果がないという結果でした。一方、「覚えた」という自信は d = -0.43 と下がり、学習時間は d = 0.52 と延びました。負の値は読みにくい条件で指標が低く、正の値は高かった方向を示し、同じ数でも自信と時間とでは意味が違います。

この分析では、学習時間が延びたことを、そのまま記憶の改善とは扱っていません。自信が低くなったことも、学習が深まった証拠とは別です。著者らは、読みづらさが分析的な処理を促すという説明を支える証拠は十分でないとしています。読みづらさへの反応は生じても、期待した学習成果まで伴ったわけではないという整理です。

Weissgerber ほか(2021)は、このメタ分析を検算し、思い出す量の集計と条件別の分析に、データの分類や効果量の誤りを指摘しました。学んだ内容を別の課題に使う「応用」については、効果がないという結果をおおむね再現できましたが、覚えた内容を取り出す「再生」の結果には疑いが残りました。したがって、効かないと言い切る根拠のうち、再生の部分は弱いと読むのが適切です。この批判は読みにくい字体の有効性を示した実験ではなく、既存の集計の信頼性を点検した報告です。

調べたもの 比べた相手 結果の読み方
思い出す量 読みにくい条件と読みやすい条件 当初の集計は効果なしですが、再検算で集計上の問題が指摘されました
学んだことの応用 読みにくい条件と読みやすい条件 効果なしという結果は再検算でもおおむね保たれました
覚えた自信と学習時間 読みにくい条件と読みやすい条件 自信の低下と時間の延びを、学習成果とは分けて測っています

追試では利点が出ず、子どもで下がった例もあります

追試とは、同じ手順でもう一度結果を確かめる研究です。Taylor ほか(2020)は、記憶に残るとうたって作られた字体を、通常の読みやすい字体と比較しました。字体の作り手が示した未公表の結果を確かめる実験で、参加者は実際にその字体を読みにくいと感じました。それでも、記憶の成績は同じか、ときには下がる結果でした。

この比較では、読みにくさを感じさせる工夫自体は働いています。つまり、字体の違いに気づかなかったために記憶の差が出なかった、という話ではありません。著者らは、読みづらい感じを生むことと、記憶を助ける望ましい難しさを生むことを分けて結論づけています。特定の字体についた学習上のうたい文句と、比較実験の成果が一致しなかった例です。

Tsigeman ほか(2026)は、平均10.13歳の子ども202人に、読みやすい字体、読みにくい字体、両方を混ぜた字体で文章を読ませました。その直後と後日に文章を思い出させると、読みにくい字体では、かえって思い出す量が下がりました。他方、字体を混ぜた条件では、自分がどれだけ覚えたかの見積もりが正確になりました。記憶そのものの改善と、記憶についての自己判断の改善が別々の結果になった点が特徴です。

初期の研究にも生徒の報告はありますが、この実験は子どもによる文章学習を直接比べています。単語を見た印象だけでなく、文章を読んだ後に内容を取り出せたかを調べた結果です。字体の混在で見積もりが正確になったことを、読みにくい字で記憶が良くなったとまとめると、測ったものが入れ替わります。子ども向けの教材では、読む手間を増やす変更が、覚える成果を下げた例として重く受け止める結果です。

課題の負担が軽いときだけ得をした実験があります

Muhmenthaler ほか(2026)は、単語を分類する課題を読みやすい字体と読みにくい字体で行い、後で自由に思い出させました。課題を切り替える条件と単純な条件を扱った実験では、字体による差が出ませんでした。一方、選択肢の少ない軽い課題では読みにくい字体に利点があり、選択肢の多い重い課題ではその利点が消えました。著者らは、処理の負担が十分に軽ければ記憶に得がある可能性を述べながら、安定して引き出すのは難しいとしています。

この研究で変わっているのは、文字を見たときに同時にこなす課題の条件です。教材の中身を読んで覚えるだけでなく、提示された単語を分類する作業が組み込まれています。同じ読みにくさでも、分類の判断にかかる負担が違う状況で結果が変わっています。「易しい教材なら読みにくい字にすればよい」という広い話よりも、実験で課した作業の範囲を細かく見ている研究です。

また、単純な条件で差がなかった実験もあるため、課題が軽いという言葉だけで利点を一括りにはできません。ここで報告された有利さは、負担を変えた比較の中で見つかった条件つきの結果です。初期研究の利点と、その後の追試の不一致を、全部どちらかにそろえるのではなく、効果が出る条件をさらに絞る方向の報告と読めます。字体だけを切り出した説明では、同時に何をさせたかという実験の重要な部分が抜け落ちます。

この条件の違いは、どんな学習者に向かないかを考える際にも関わります。内容の理解や分類の判断ですでに負担を感じる子には、読む手間の追加も伴います。これは子の能力に固定的な線を引く話ではなく、同じ子でも教材と作業によって負担が変わるという見方です。読みにくさを足せば、負担の大きい学習まで一律に有利になるという読み方は、この実験の結果と合いません。

大きな字への自信と、実際の記憶にもずれがあります

字体の話には、字の形だけでなく大きさの話も混ざりやすいです。Undorf ほか(2019)は、幅広い大きさで単語を提示し、覚えられそうだという判断と実際の記憶を比べました。大きい字ほど覚えられそうだと見積もられ、その見積もりの変化は、実際に思い出せた量の変化より大きかったと報告しています。ただし実際の記憶も大きい字で良くなる実験があり、感覚がすべて外れていたわけではありません。

この研究では、すらすら読める感じは中くらいの大きさで最も高かった一方、覚えられそうという見積もりは、それと同じ動きではありませんでした。著者らは、文字の大きさについて本人が持つ考えが、記憶の見積もりに関わるという説明を支持しています。目で読み取る感じと、覚えやすさについての思い込みを分けて検討している点が重要です。単に読みやすいほど自信も高くなる、という一直線の説明には収まりません。

字を大きくする比較と、字の形を読みにくくする比較は、教材の変更点が違います。大きい文字への自信が過大だったという結果を、読みにくい字体の優位性に置き換えることはできません。この研究が示すのは、見た目から予想した覚えやすさと、後で測った記憶の間にずれがあることです。字の大きさによって実際の記憶も動いた点まで含めると、自信をそのまま信じることも、完全に無視することも、結果の片側だけを拾う読み方です。

学習者が答える「覚えられそう」という判断は、後の記憶を予想する言葉です。文章を見ずに内容を答える成績は、実際に何を取り出せたかを示す結果です。この違いを保つと、字体を変えた研究で、自信だけが変わった場合と、記憶も変わった場合を区別できます。教材の見た目に対する反応まで測る研究には、こうした自己判断のずれを捉える役割もあります。

家庭と塾では、読みやすいプリントで確かめる手順を決めます

プリントは読みやすく作る方針が無難です。わざと読みにくい字体に変える前に、文字を迷わず読めるか、問題と答えの区切りを追えるかを子と確かめます。内容を考えるための難しさは、字体の工夫から切り離し、学んだ内容を思い出す問いとして足します。たとえば用語なら意味を隠して説明し、文章なら紙を伏せて要旨を言う形にすると、何を覚えていたかを見られます。

家庭と塾で見る項目をそろえておくと、プリントへの感想だけで話が終わりません。読むときにつかえた文字、解答にかかった手間、紙を見ずに答えられた内容を分けて記録します。新しい用語が多い教材と、すでに習った内容の復習も分けると、内容の難しさと文字の読みにくさが混ざりにくくなります。これは成果を保証する方法ではなく、手元の教材で起きていることを確かめる手順です。

子が「覚えた気がしない」と言ったときは、その感覚を打ち消さず、どの内容なら答えられるかを一緒に見ます。答えられた箇所はそのまま示し、出てこなかった箇所だけ、説明を読み直してから問い直します。記憶に残った量が同じなのに読む時間だけ延びているなら、読みづらさを我慢させる理由にはしません。読みやすさを保って答えの出方を記録すれば、次に問い直す内容を絞れます。

よくある質問

読みにくい字だと集中して読むので、覚えやすいのではありませんか

読むのに時間を使うことと、後で思い出せることは別です。研究をまとめた節で見たように、読みにくさによって学習時間が延びても、記憶や応用の改善が伴わない結果があります。課題の負担が軽い条件で利点が出た報告もありますが、単純な条件で差がなかった実験もあり、時間をかけたから効いたとは整理できません。読みづらさの手応えだけで学習成果を評価すると、こうした違いが隠れてしまいます。

文字を大きくすることも、覚えたつもりになるだけですか

文字の大きさの研究は、覚えられそうな感覚が実際の記憶の変化を上回ったと報告していますが、記憶も良くなった実験があります。そのため、見積もりが大きめだったことを、文字を大きくする意味がないという話にはできません。大きさを変える比較と字形を読みにくくする比較は別で、結果の読み方も分けます。読みやすさを整える目的と、記憶を上げる効果への期待も区別すると、教材の変更理由が明確です。

読み書きが苦手な子にも、読みにくい字体が役立つのですか

出発点の節にある短報は、読み書きの困難がある生徒にも利点を報告しています。ただし抄録には人数や効果の大きさがなく、子どもを対象にした別の文章学習では、読みにくい字体で記憶が下がっています。前者だけを取り出して、苦手さがあるほど読みにくくするという方針に広げる根拠は弱いです。読む手間を増やす変更と、本人の学習を助ける変更は、同じものではありません。

この記事の限界

比べた相手は読みやすい字体ですが、単語の分類、文章の再生、知識の応用では求められる作業が違い、教材を変えた効果を同じ意味で比べるには制約があります。扱った研究はアルファベットの文字によるもので、漢字かな交じりの日本語の字体について直接確かめた研究はありません。対象には高校の教室や子どもの文章学習もありますが、国や人数を抄録に記さない研究もあり、日本の小中高生が塾のプリントを使う条件とは隔たりがあります。

文章を直後と後日に思い出す成績と、塾の授業を継続して学ぶ成果は別であり、教材や学習期間の違いも考慮する必要があります。出発点の研究の規模が抄録からはわからず、メタ分析の集計にも誤りが指摘されているため、字体の効果の有無をめぐる議論には未決着の部分が残ります。

参考文献

  1. Diemand-Yauman ほか. Fortune favors the bold (and the Italicized): effects of disfluency on educational outcomes. Cognition. 2011;118(1):111-115.
  2. French ほか. Changing Fonts in Education: How the Benefits Vary with Ability and Dyslexia. The Journal of Educational Research. 2013;106(4):301-304.
  3. Xie ほか. Null Effects of Perceptual Disfluency on Learning Outcomes in a Text-Based Educational Context: A Meta-Analysis. Educational Psychology Review. 2018;30(3):745-771.
  4. Weissgerber ほか. Null and Void? Errors in Meta-analysis on Perceptual Disfluency and Recommendations to Improve Meta-Analytical Reproducibility. Educational Psychology Review. 2021;33(3):1221-1247.
  5. Taylor ほか. Disfluent difficulties are not desirable difficulties: the (lack of) effect of Sans Forgetica on memory. Memory. 2020;28(7):850-857.
  6. Tsigeman ほか. Switching between fluent and disfluent fonts improves young learners’ estimation of memory effectiveness but not memory itself. Educational Psychology. 2026;46(7):973-992.
  7. Muhmenthaler ほか. The disfluency effect revisited: processing demands moderate memory performance. Memory. 2026;34(10):1372-1386.
  8. Undorf ほか. Metamemory and memory for a wide range of font sizes: What is the contribution of perceptual fluency? Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition. 2019;45(1):97-109.

通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。

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よくある質問

読みにくい字だと集中して読むので、覚えやすいのではありませんか

読むのに時間を使うことと、後で思い出せることは別です。研究をまとめた節で見たように、読みにくさによって学習時間が延びても、記憶や応用の改善が伴わない結果があります。課題の負担が軽い条件で利点が出た報告もありますが、単純な条件で差がなかった実験もあり、時間をかけたから効いたとは整理できません。読みづらさの手応えだけで学習成果を評価すると、こうした違いが隠れてしまいます。

文字を大きくすることも、覚えたつもりになるだけですか

文字の大きさの研究は、覚えられそうな感覚が実際の記憶の変化を上回ったと報告していますが、記憶も良くなった実験があります。そのため、見積もりが大きめだったことを、文字を大きくする意味がないという話にはできません。大きさを変える比較と字形を読みにくくする比較は別で、結果の読み方も分けます。読みやすさを整える目的と、記憶を上げる効果への期待も区別すると、教材の変更理由が明確です。

読み書きが苦手な子にも、読みにくい字体が役立つのですか

出発点の節にある短報は、読み書きの困難がある生徒にも利点を報告しています。ただし抄録には人数や効果の大きさがなく、子どもを対象にした別の文章学習では、読みにくい字体で記憶が下がっています。前者だけを取り出して、苦手さがあるほど読みにくくするという方針に広げる根拠は弱いです。読む手間を増やす変更と、本人の学習を助ける変更は、同じものではありません。