- 講師が映る動画で応用の成績が上がり、負担が軽くなった実験があります。
- 実験をまとめた分析では、顔の表示による学習成果の明確な差はなく、やる気と頭の負担がともに増えました。
- 顔の表示、その場で図を描く動作、カメラへの目線は、別々に比べるべき特徴です。
- 顔なしを好む人もおり、好みに合った表示で集中したと答えた研究があります。
映像授業は講師の顔が映るほうが身につくか|動画の講師の姿と学習の研究
子ども部屋の机で、子どもが講師の顔と説明図の並ぶ画面を見つめています。Fiorella ほか(2019)は、動画からの学びを高めるのは講師を単に画面に映すことより、その場で図を描くことやカメラへの目線といった具体的な特徴だと結論づけています。講師の顔が映る動画と、声とスライドだけの動画では、子どもの身につき方は違うのでしょうか。顔が映るだけで学習成果が高まるという結果は一貫せず、説明の動作と見る本人の好みを分けて捉えるのが妥当です。
顔が見えると、説明している人を身近に感じたり、話を聞きたいと思ったりすることがあります。しかし、好感を持つこと、集中したと感じること、見終えて問題に答えられることは、それぞれ別の評価です。顔のある動画で応用のテストが良くなった実験もあれば、学習成果が変わらなかった現場研究もあります。取り上げる研究の対象はすべて大学生か成人のオンライン学習者であり、以下では、何を映したかと何を測ったかの違いに沿って結果を読みます。
要点
- 講師が映る動画で応用の成績が上がり、負担が軽くなった実験があります。
- 実験をまとめた分析では、顔の表示による学習成果の明確な差はなく、やる気と頭の負担がともに増えました。
- 顔の表示、その場で図を描く動作、カメラへの目線は、別々に比べるべき特徴です。
- 顔なしを好む人もおり、好みに合った表示で集中したと答えた研究があります。
映像授業の効果は「見やすい」と「解ける」を分けて読む
「人が説明している感じが強いから、よく身につくはずだ」という考えには、気持ちの変化が成績の変化につながるという前提があります。一方、画面から顔を消せば、学ぶ内容だけに注意が向くはずだという考えもあります。今回の研究では、顔の表示で気持ちや視線が変わっても、テストの結果は同じ方向に動くとは限りません。映像の良さを判断する物差しを、見た印象だけに絞ると、この食い違いが隠れます。
学習成果は、動画で扱った知識を覚えたか、理解した内容を別の問題に使えたかなど、課題への答えで測ります。応用する力を測るテストは「転移」のテストと呼ばれ、説明の言葉をそのまま覚えることと区別されます。これに対して、やる気や負担は、本人がどのくらい取り組みたいか、どのくらい頭を使って大変だったかという受け止めも含みます。同じ動画を良いと評価しても、どの面が良かったかで、結果の意味は変わります。
顔の表示と図の説明を混同しないために、比べる特徴を下の表に分けます。顔ありの動画でも完成した図を見せるだけの場合と、説明に合わせて図が描き足される場合があります。顔なしの動画にも描く過程を見せる形式があり、「顔なし」と「動きのない教材」は同じ分類ではありません。
| 比べる特徴 | 顔あり | 顔なし | 描きながら説明 |
|---|---|---|---|
| 主に見えるもの | 講師の顔や姿と教材 | スライドや図などの教材 | 図ができていく過程 |
| 比較で変える点 | 講師の姿を表示するか | 講師の姿を表示しないか | 完成図か、その場で描く図か |
| 顔との関係 | 目線の向け方も変えられる | 声による説明は残せる | 顔を映す場合も映さない場合もある |
| 結果を読む際の区別 | 好感とテスト成績 | 見やすさとテスト成績 | 描く動作と顔の表示 |
講師が映ると成績が上がった実験の中身
Wang ほか(2020)は、大学生60人に統計の説明動画を見せ、講師が映る版と映らない版を比べました。講師が映る版では、学んだ内容を応用するテストの成績が良く、本人が答えた負担も軽いという結果でした。研究では脳波も記録し、負担に関する指標を合わせて調べています。人の姿を足すと余計な情報が増えて邪魔になる、という見方だけでは説明しにくい結果です。
この実験の特徴は、視聴後の好き嫌いだけでなく、応用の課題と負担を扱っている点です。負担の自己申告では、学ぶ内容そのものの難しさに関わる負担と、教材の見せ方などから生じる余計な負担が軽くなりました。脳波の指標でも負担が軽い方向の結果があり、本人の感想とは別の測り方を組み合わせています。ただし、統計の短い動画で応用の成績を測った小規模な実験として読む範囲です。
Gu ほか(2024)は、大学生がスライドつきの講義動画を見る際に、実在の講師が映る条件、アニメの講師が映る条件、講師が映らない条件を設けました。講師が映る条件では、講師なしの条件に比べ、視聴後のテスト成績が高い一方で、スライドに視線を向ける時間は減りました。視線の測定と脳の活動の測定も行っており、教材を長く見ていたかと成績の高さが単純には重ならない結果です。スライドから目が離れることだけを、そのまま学習の失敗と数える読み方とは区別されます。
同じ研究で著者たちは、講師の存在がもたらす学習上の利点と、学習に直接関係しないものへ注意がそれる負担との釣り合いで説明しています。利点が負担を上回るときに、学習成果が良くなるという解釈です。これは講師の姿がいつでも有利だという主張ではなく、同じ画面の中に利点と気の散る要素が共存するという説明です。
顔そのものと、図を描く動作は別の比較
Fiorella ほか(2019)は、大学生が腎臓について学ぶ講義動画で、講師の姿だけでなく、図の示し方や目線の向け方を調べました。その場で図を描いていく版は、完成した図を見せる版に比べ、視聴後のテストで良い成績を示しました。その差は効果量で d = 0.54 でした。効果量は、点数の差を得点のばらつきを物差しにして表した数で、正答率がその値だけ増えたという意味ではありません。
この比較では、見る側が接する図のできあがり方が変わっています。完成図を見る条件と、説明が進むにつれて図ができる条件を比べているため、顔の表示だけの効果と分けて扱います。講師が見えるという大きな分類にまとめてしまうと、図を描く動作に関する結果まで、顔の効果として数えてしまいます。研究が示している具体的な違いは、教材の完成形だけを見せるか、作られる過程を見せるかという違いです。
同じ研究には、描く様子を見せながら講師の姿は映さない版と、講師の姿が映る版を比べた結果もあります。この比較では学習成果に差がありませんでした。一方、講師が映る動画の中では、カメラに目線を向ける版が、向けない版より良い結果でした。図を描くこと、目線を向けること、姿を映すことを切り分けると、動画のどの要素に結果が伴ったかが明確になります。
冒頭の結論は、こうした比較を踏まえたものです。講師の姿が見える動画で良い結果が出ても、その中に含まれる説明の動作まで無視して、顔を付け足すだけで同じ結果になるとは扱いません。逆に、顔が映らない動画でも、図が描かれる過程を示す説明は成立します。顔の有無だけで教材を分けると、この実験で成績に関わった違いを取りこぼします。
実験の集計と実際の講座では、成果の差が出ない
Alemdag(2022)は、講師が映る動画と映らない動画を比較した20件の実験を、メタ分析でまとめました。メタ分析とは、複数の研究の結果を集めて計算し直す方法です。学習成果と、人とつながっているような感覚には、統計的に有意な差、つまり偶然のばらつきだけでは説明しにくいと判断できる差がありませんでした。一方、講師が映る動画では、やる気と頭の負担がともに増えていました。
この結果では、やる気が上がったことと、学習成果に明確な差がなかったことが並んでいます。頭の負担についても、先ほどの統計動画の実験とは方向が異なります。個別の教材で起きた良い結果と、異なる教材を含めた集計結果は、それぞれ比較の範囲が違います。集計では学習成果の上昇が揃わず、気持ちの変化だけから成績の向上を読み取れない形です。
Kizilcec ほか(2015)の現場実験は、オンライン学習者12,468人を対象に10週にわたって行われました。比べたのは、講師の顔を常に映す版と、要所だけ映す版です。全体では学習成果にも途中でやめることにも差がありませんでした。この実験は顔を完全に消した動画との比較ではなく、顔を出すタイミングを変えた比較です。
同じ研究では、言葉で学ぶことを好む人に限ると、常に顔を映す版で途中離脱と負担が少ない結果もありました。全体の平均で差がないことと、ある好みを持つ人の反応が違うことが併存しています。全員を同じ表示に揃える設計への注意が、著者たちの結論に含まれています。
Heidig ほか(2024)は、実際の大学の授業に動画を組み込み、学生が知っている講師を映す場合と映さない場合を比べました。試験に出る内容を扱う条件でも、学習成果、やる気、余計な負担に差はありませんでした。人とつながる感覚や気分が高まった実験はありましたが、感情面の結果も一様ではありませんでした。小規模な現場実験で、学習成果を良くする一般的な効果も、悪くする一般的な効果も示されなかったという位置づけです。
顔なしを好む人と、気が散る条件
Kizilcec ほか(2015)は、先ほどの現場実験とは別に、2,951人が顔ありと顔なしを自分で選ぶ様子を8週にわたって観察しました。顔を見た人は講義の体験を良く評価しましたが、35%は顔を表示しない動画を選びました。顔なしを選んだ理由には、気が散るのを避けたいという本人の説明がありました。これは観察研究、つまり選び方に手を加えずに調べた研究なので、選んだ人のもとの好みも結果に関わります。
この観察と前節の実験では、学習者の選択の扱いが違います。観察では本人が表示を選び、実験では常時表示と要所での表示を比べています。顔を見た人の評価が高いという観察結果を、そのまま顔を表示させれば全員の評価が高くなるという意味に変えると、もともと顔を好む人が選んだ可能性を落とします。人数の大きさだけでなく、本人が選んだか、研究で条件を変えたかという区別が結果の意味を決めます。
Ahn ほか(2025)は、事前登録、つまり調べ方や分析の計画を先に登録した実験で、顔の表示と学習者の好みを検討しました。全体では、顔を加えても集中にも学習にも差がありませんでした。ただし、顔ありを好む人は顔ありで、顔なしを好む人は顔なしで、集中したと答えました。この好みとの一致は、集中についての本人の回答で捉えた結果です。
向き不向きとして浮かぶのは、人の姿を見たい人と、教材だけを見たい人の違いです。顔の表示を煩わしく感じる人については、表示が学習の支えになるという期待自体が合わない場合があります。ここでの負担や気の散りは、顔を表示するとテストの点が下がるという一律の逆効果とは区別されます。大学の現場研究のように悪い効果も出なかった結果を含め、表示に対する反応の違いとして読むのが適切です。
家庭で見本を確かめる手順
家庭では、見本の動画を選ぶ前に、今の単元で何を理解したいかを子どもと決めます。式の変形を追いたいのか、用語の意味を説明できるようにしたいのかによって、見終えた後に確かめる内容が変わります。動画を見た感想と、内容について答えられたことを別に記録すれば、好感だけで決めるのを避けられます。次の項目は、研究の比較を手掛かりにした確認の手順です。
- 見本の中で学びたい内容を決め、見終えたら説明してもらう箇所を選ぶ。
- 完成した図を見せるだけか、講師が説明しながら図を描き足しているかを見る。
- 顔を表示する動画では、講師の目線と図の説明がどう組み合わされているかを見る。
- 表示を選べる場合は、子どもが落ち着いて見られる方を選び、その理由を聞く。
- 視聴後に図や式の意味を説明してもらい、見やすさの感想とは別に残す。
たとえば、子どもが顔なしを選んだら、教材のどこを追いやすかったかを聞きます。顔ありを選んだら、講師を見ることで説明のどの部分を追えたかを聞きます。「好きだった」という答えに続けて、図の矢印の意味や式を変えた理由を話してもらうと、感想と理解を並べて残せます。言葉が出ない箇所は動画の該当部分に戻り、説明と図がどうつながるかを一緒に確かめます。
別の動画を比べるときは、題材や難しさも記録します。初めて学ぶ内容と復習の内容を比べれば、顔の有無以外の違いも入り込みます。記録には「顔ありは良い」とまとめず、図が追えた箇所、説明できた箇所、止めて見直した箇所を残します。塾で見本を見せてもらう際も、表示を選べるか、図が描かれる過程を見られるかを確かめます。
子どもが見やすい表示を選び、説明後の答えを見ながら使い続けるかを判断する進め方で十分です。顔を見るのが苦手という反応を、取り組む姿勢の問題に置き換える理由はありません。講師の顔を画面に足すだけでは、学習成果の上昇は約束されません。
よくある質問
顔が映らない動画を選んでもよいですか
顔なしを選ぶこと自体を不利とみなす根拠は弱く、成人の研究では本人の好みと合った表示で集中したと答えています。顔がなくても、説明に沿って図が描かれる動画はあり、完成図だけの動画とは作りが違います。顔の表示を消すことと、声による説明そのものを省くことは違います。見やすさの好みに加えて、何を説明できたかを見る手順は、直前の節にまとめています。
講師の顔をよく見ているなら、集中できていますか
視線の向きだけで、内容が身についたかまで決めることはできません。講師が映るとスライドを見る時間が減っても、視聴後の成績は高かった実験があります。視線計測は教材を見る時間を捉え、テストは学んだ内容への答えを捉えます。反対に、顔が映ることでやる気が高まっても、学習成果には差がなかった分析もあり、見ている場所と答えられる内容は別の記録です。
図を描きながら説明する動画なら、顔も必要ですか
腎臓の講義動画を使った研究では、図を描く様子を見せる顔なしの版と、講師が映る版の間で学習成果に差がありませんでした。図をその場で描くことと、顔を画面に表示することは別の特徴です。完成図と描く過程の比較では、顔以外の条件も変わっています。同じ研究でカメラへの目線にも結果が伴いましたが、それは講師が映っている動画の中での比較です。
この記事の限界
当てはまる範囲は大学生か成人のオンライン学習者に限られ、集めた研究には小中高生の映像授業や日本の家庭・塾で成果を確かめたものがありません。統計や腎臓の説明など教材が異なり、顔の有無を比べた研究と、顔を出すタイミングを比べた研究とでは、答えている問いも異なります。集中や負担の自己申告、視線、テストはそれぞれ違う面を測っており、本人の好みと成績の関係には、さらに検討する余地があります。
オンライン講座を週単位で追った研究もありますが、顔の表示方法の比較であり、同じ子が学年をまたいで学ぶ過程を捉えたものではありません。研究で使われた動画は数分程度から数十分程度の単独の教材が多く、何か月も映像授業を続けたときに身につき方がどう変わるかは未測定です。
参考文献
- Fiorella ほか. Instructor presence in video lectures: The role of dynamic drawings, eye contact, and instructor visibility. Journal of Educational Psychology. 2019;111(7):1162-1171.
- Wang ほか. Converging Subjective and Psychophysiological Measures of Cognitive Load to Study the Effects of Instructor-Present Video. Mind, Brain, and Education. 2020;14(3):279-291.
- Gu ほか. Onscreen presence of instructors in video lectures affects learners’ neural synchrony and visual attention during multimedia learning. Proceedings of the National Academy of Sciences. 2024;121(12):e2309054121.
- Alemdag. Effects of instructor-present videos on learning, cognitive load, motivation, and social presence: A meta-analysis. Education and Information Technologies. 2022;27(9):12713-12742.
- Kizilcec ほか. The instructor’s face in video instruction: Evidence from two large-scale field studies. Journal of Educational Psychology. 2015;107(3):724-739.
- Heidig ほか. Instructor presence in instructional videos in higher education: three field experiments in university courses. Educational Technology Research and Development. 2024;72(6):3047-3074.
- Ahn ほか. What Drives Student Engagement and Learning in Video Lectures? An Investigation of Instructor Visibility, Playback Speed, and Student Preferences. Applied Cognitive Psychology. 2025;39(2):e70026.
通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。
- 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
- 向く人: 通塾の日だけ机に向かい、ほかの日の学習習慣が続かないことを、授業の中で一緒に組み直したい家庭
- 向かない人: 英検や内申の結果を、通う回数を増やすことだけで変えたいと考えている家庭
- 向かない人: 一人の講師と向き合うより、大勢と競い合いながら速い進度で先へ進みたい人
このサイトは武蔵野個別指導塾の運営者が制作しています。武蔵境駅から徒歩30秒、講師が一人の生徒に付きっきりの完全1対1で、大学教員や東京大学・早稲田大学・慶應義塾大学の大学院生などが教えます。アルバイト講師はいません。
よくある質問
顔が映らない動画を選んでもよいですか
顔なしを選ぶこと自体を不利とみなす根拠は弱く、成人の研究では本人の好みと合った表示で集中したと答えています。顔がなくても、説明に沿って図が描かれる動画はあり、完成図だけの動画とは作りが違います。顔の表示を消すことと、声による説明そのものを省くことは違います。見やすさの好みに加えて、何を説明できたかを見る手順は、直前の節にまとめています。
講師の顔をよく見ているなら、集中できていますか
視線の向きだけで、内容が身についたかまで決めることはできません。講師が映るとスライドを見る時間が減っても、視聴後の成績は高かった実験があります。視線計測は教材を見る時間を捉え、テストは学んだ内容への答えを捉えます。反対に、顔が映ることでやる気が高まっても、学習成果には差がなかった分析もあり、見ている場所と答えられる内容は別の記録です。
図を描きながら説明する動画なら、顔も必要ですか
腎臓の講義動画を使った研究では、図を描く様子を見せる顔なしの版と、講師が映る版の間で学習成果に差がありませんでした。図をその場で描くことと、顔を画面に表示することは別の特徴です。完成図と描く過程の比較では、顔以外の条件も変わっています。同じ研究でカメラへの目線にも結果が伴いましたが、それは講師が映っている動画の中での比較です。