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公開:2026年9月11日/最終更新:2026年11月1日

身近な先輩の話で勉強への構えは変わるか|手本になる人と進路・意欲の研究と塾

部室で、先輩が広げたノートを後輩が横からのぞき込んでいます。練習の予定の脇には、授業でつまずいた箇所や、次に聞きたいことが書き込まれています。遠くから見ていた先輩の毎日にも、自分と同じように迷ったり立ち止まったりする時間があると感じられる光景です。塾で年の近い先輩や進学した人の話を聞くときにも、こうした身近さは勉強に向かう気持ちを変えるのでしょうか。

この記事の要点
  • 手本には、やり方を示す、自分にもできると感じさせる、目標に向けて奮い立たせる働きがあると整理されています。
  • 教室への訪問で進路の選び方が変わった研究や、年の近い先輩の指導で自信が高まった研究があります。
  • 相談役を付ける取り組みの効果は概して小さく、学校での成績の改善も確かではありません。
  • 自分と似ている感覚と、成功に手が届きそうな感覚が鍵で、突出した成功者が逆効果になった実験もあります。

身近な先輩の話で勉強への構えは変わるか|手本になる人と進路・意欲の研究と塾

部室で、先輩が広げたノートを後輩が横からのぞき込んでいます。練習の予定の脇には、授業でつまずいた箇所や、次に聞きたいことが書き込まれています。遠くから見ていた先輩の毎日にも、自分と同じように迷ったり立ち止まったりする時間があると感じられる光景です。塾で年の近い先輩や進学した人の話を聞くときにも、こうした身近さは勉強に向かう気持ちを変えるのでしょうか。

手本になる人を、研究ではロールモデルと呼びます。自分と似ていて成功に手が届きそうだと感じる手本は意欲を高めうる一方、遠すぎる手本はかえって自分への評価を下げる場合があります。ただ、進路への見方が変わること、自分にもできそうだと感じること、教科の点が伸びることは別々の結果です。話を聞いた直後の明るい表情だけで、その後の学力まで伸びたと判断するには飛躍があります。

先輩の話には、具体的なやり方を知る機会と、自分の将来を思い描く機会が重なっています。研究でも、短い訪問で仕事を語る取り組みから、相談役が継続して関わる取り組みまで、扱う内容が異なります。手本の人物の立派さだけに注目すると、聞く側との距離や、実際に何を一緒にしたかが見えにくくなります。

要点

  • 手本には、やり方を示す、自分にもできると感じさせる、目標に向けて奮い立たせる働きがあると整理されています。
  • 教室への訪問で進路の選び方が変わった研究や、年の近い先輩の指導で自信が高まった研究があります。
  • 相談役を付ける取り組みの効果は概して小さく、学校での成績の改善も確かではありません。
  • 自分と似ている感覚と、成功に手が届きそうな感覚が鍵で、突出した成功者が逆効果になった実験もあります。

ロールモデルの効果は「やり方」「可能性」「意欲」で違います

先輩の話を聞くとやる気が出る、という言い方には、違う変化がまとめられています。ノートの使い方を知ることと、興味のなかった進路を候補に入れることでは、受け取る内容が違います。前者では行動の手順が、後者では自分に開かれた選択肢の見え方が変わります。どちらも手本から得られるものですが、同じ物差しで測ると話が曖昧になります。

Morgenroth ほか(2015)は、手本の働きを理論の総説で整理しています。理論の総説とは、既存の考え方や研究をつなぎ、どの条件で何が起こるかの説明を組み立てる論文です。著者たちは、手本がやり方を見せること、可能性を示すこと、奮い立たせることを区別しています。目標をすでに持つ人が取り組みを強める場合と、新しい目標を持つ場合の両方を、この枠組みで捉えています。

この整理でいえば、先輩の勉強の進め方を知る場面は、行動の見本に触れる場面です。同じような出発点の人が進学したと知る場面は、その進路が自分にも開かれていると感じる場面です。さらに、先輩の姿を見て目標に向かいたいと感じる場面には、気持ちを奮い立たせる働きがあります。これらは理論を身近な場面に置いた説明で、個々の場面の効果を測った実験結果ではありません。

また、メンタリングは相談役を付ける取り組みを指し、手本を見たり話を聞いたりするだけの活動より広い意味を持ちます。相談に答える、活動を一緒に進めるといった関わりには、人物の姿に励まされる以外の内容も入ります。そのため、相談役を付けた研究の成果を、そのまま先輩の話の成果と呼ぶと、働きかけの中身が変わってしまいます。Morgenroth ほか(2015)の理論も、話を聞けば成績がどれだけ伸びるかという量を示すものではなく、変化を読み分けるための枠組みです。

短い訪問が進路を変えた研究と、先輩が教えた研究

Breda ほか(2023)は、フランスの高校の教室に、理系で働く女性が短時間訪問して話す取り組みを調べました。職業や能力に男女差があるという思い込みが減り、成績上位の女子が、選抜の厳しい、男性の多い理系の大学課程へ進む割合が上がりました。すでに成績が高い女子の進路選択に変化が出た点が、この結果の中心です。勉強が苦手だった生徒の得点が伸びた、という報告とは結果の種類が違います。

同じ Breda ほか(2023)が56人の訪問者による効果を比べると、理系の仕事への見方を良くし、女性の少なさを強調しすぎない話で、特に良い結果が見られました。性別と進路を主題にした研究なので、単に身近な大人が来たという説明では、取り組みの狙いを捉えきれません。仕事への思い込みと進路の候補が、話を聞く前後でどう変わるかに焦点があります。訪問者を同じ肩書でまとめても、伝えた内容によって結果が違った点も特徴です。

Sun ほか(2022)では、高校生が中学生にプログラミングを教える取り組みを調べています。中学生の自己効力感、つまりその活動を自分にもできると感じる感覚が高まりました。先輩が手本になることと、先輩を自分と似ていると感じることが、その変化に寄与していました。年の近い相手から教わる活動の中で、人物の受け止め方も関係した結果です。

ただし、この研究で示された活動には、実際にプログラミングを教わる時間が含まれています。話を聞くだけの取り組みとは、学ぶ内容への関わり方が違います。抄録には人数や比較群の説明がなく、成績も測っていないため、先輩が教えた場合と別の人が教えた場合の優劣はここから決まりません。訪問の研究は進路の選択、指導の研究は活動への自信というように、良い変化の出た場所を区別すると、それぞれの結果が明確になります。

相談役を付けても、成績の改善は大きくありません

Eby ほか(2008)は、メンタリングを受けた人と受けなかった人を比べた研究を、メタ分析でまとめています。メタ分析とは、複数の研究の結果をまとめて計算し直す方法です。若者向け、学業、職場の分野を含み、行動や態度、人間関係、意欲、進路などの幅広い結果に良い関係がありました。ただし効果は概して小さく、若者向けの取り組みでは学業や職場の分野より小さい傾向でした。

Raposa ほか(2019)は、若者に大人の相談役が付く70研究、25,286人をまとめました。対象者の平均年齢は12歳で、全体として統計上の有意な効果がありました。有意とは、偶然のばらつきだけでは説明しにくい差という意味で、実用上の大きな変化を意味する言葉ではありません。著者たちも、実施されている取り組みの効果は控えめで、現実的な期待を持つよう求めています。

この Raposa ほか(2019)の分析では、質問紙や本人の自己報告に頼る評価ほど、効果が大きく出ました。「支えてもらえた」「前向きになった」と本人が答える評価と、外から測る成果では、見える変化が異なります。また、指導役は大人で、年の近い先輩に限定した結果ではありません。対象者の年齢が読者の子に近くても、支える人の立場や関係の形まで同じとは限らない研究です。

学校でのメンタリングに絞った Wood ほか(2012)は、6,072人を含む8研究を検討し、そのうち6研究をメタ分析しました。成績、出席、態度、行動、自尊心の改善はどれも確かなものではなく、最大だった自尊心の効果量も g = 0.09 でした。効果量は、差の大きさをばらつきを物差しにして表す数で、この値はゼロに近い小さな差です。幅広い若者支援の集計で良い効果があることと、学校で成績が伸びるという結論は同じではなく、対象と成果を絞ると評価は厳しくなります。

「似ている」と「届きそう」が分ける手本の距離

Gladstone ほか(2021)は、理系の手本が生徒の意欲に与える効果を扱った55論文を、系統的な記述レビューで検討しました。これは、決めた手順で研究を集め、結果の特徴を文章で整理する方法です。全体の効果を共通の数にまとめるメタ分析とは違い、どの条件で結果が変わるかに焦点があります。手本の効果は研究によってまちまちで、人物の有能さ、似ていると感じる程度、成功に手が届きそうかが関係すると整理されています。

この整理には、生徒側の性別や年齢、理系への思い入れも入っています。同じ話し手でも、聞く側がどこに自分とのつながりを見いだすかは違います。年が近いという外から見える共通点と、本人が自分に似ていると感じることも、区別する必要があります。さらに、人物に共通点を感じても、成功までの道のりが自分には遠いと受け取る可能性があり、似ていることだけで効果を説明する整理ではありません。

ここまでの研究は、手本との接し方と測った成果が違います。短い訪問、教わる活動、相談役との関係を同じ活動として並べると、何が良かったのかが見えにくくなります。比較の単位をそろえて読むために、主張と結果の対応を表に示します。

よく言われること 研究で言えること 比べた相手・条件 対象
話を聞けば進路が広がる 理系への進路選択に変化があった 訪問者ごとの話の効果も比較 フランスの高校生、Breda ほか(2023)
年の近い先輩なら自信がつく プログラミングへの自己効力感が高まった 比較群は抄録に記載なし 高校生から教わる中学生、Sun ほか(2022)
相談役がいれば成績が上がる 学校での成果の改善は確かではなかった 学校での支援の有無を扱う研究群 青年期の生徒、Wood ほか(2012)
立派な成功者ほど励みになる 突出した手本で自己評価と目指す気持ちが下がった 成功の程度などが異なる手本 成人女性、Hoyt ほか(2011)

遠すぎる成功者で意欲が下がった実験

Hoyt ほか(2011)は、成人女性がリーダー役に取り組む前に、手本となる人物を見せる実験を行いました。参加者は画面内の集団でリーダー役を務め、人物を見たことが自分への評価や目指す気持ちにどう響くかが調べられました。突出して成功した女性の手本を示すと、自分への評価が下がり、それを通じてリーダーを目指す気持ちも下がりました。自分と重ねやすい、それほど突出していない手本のほうが良い反応を生んでいます。

この実験が扱ったのは、否定的な思い込みの対象になりうる領域での女性の指導力です。話し手の成功が大きいほど励みになる、という単純な予想と反対の反応が出た点に意味があります。成功した人物を見て憧れる気持ちと、自分が同じ役割を担えると思う気持ちは、別の評価です。人物を高く評価するほど自分の可能性も高く評価する、という関係にはなっていません。

理系への思い入れが違う生徒を含む Gladstone ほか(2021)の整理と重ねると、手本の距離は聞き手によって変わるという論点が見えてきます。すでに同じ進路に関心がある人と、まだ自分の選択肢だと思っていない人では、話の受け取り方が違う可能性があります。手本の有能さだけで説明するより、成功が自分の生活からどれほど遠く見えるかも含めた整理です。遠い手本が向かない場合を、本人の向上心の不足として説明する根拠にはなりません。

一方、成人のリーダー役の実験と、中学生が学ぶ場面は対象も課題も違います。ここから子どもに同じ逆効果が起きる割合や、適切な年齢差を算出することはできません。研究が示す注意点は、手本を与えれば気持ちは良い方向だけに動く、という前提への疑問です。成功の大きさを強調した条件で生じた反応として読むと、手本そのものを否定する話とも区別できます。

家庭と塾で、話を聞いた後の変化を確かめる手順

先輩の話を聞く機会があるなら、その人の実績だけで選ばず、何を聞きたいかを子と先に言葉にします。たとえば、部活のある日の勉強の始め方や、わからない問題が残ったときの動き方などです。聞きたい内容が具体的なら、感想が「すごかった」で終わっても、どの話が自分に関係したかへ会話を戻せます。先輩と同じ道を目指すことを、話を聞く条件にしないようにします。

話の後には、保護者が役に立った点を先回りして決めず、子の受け止めを短く聞きます。自分に似ている点があったか、試せそうなやり方があったか、遠く感じたところがあったかを、別々に尋ねます。似ている点を挙げられなくても、無理に共通点を探させる必要はありません。子が「自分には無理だ」と感じたなら、さらに成功談を重ねる前に、何が遠く見えたのかを確かめます。

記録には、本人の感想と実際の行動を分けて書きます。気持ちは前向きでも予定に入れられなかった場合と、すでに試したが続けにくかった場合では、次に考える内容が違います。塾に伝えるときも「やる気が出ました」だけで終えず、質問できた箇所や手を付けた課題を添えると、具体的なやり取りにつながります。話を聞いて変化がなかった場合も、その事実を残し、子を先輩と比べて評価しないようにします。

次の週には、話の内容を覚えているかだけでなく、子が選んだ行動を振り返ります。手本のやり方と今の予定が合わなければ、取り入れる範囲を小さくするか、別の方法に戻します。家庭と塾で、話の前後に残った行動を持ち寄り、続けられた工夫を確かめます。

よくある質問

年が近い先輩ほど、手本として良いのでしょうか

年齢差だけで決まるという結果ではありません。先輩が教えた研究では、自分に似ていると感じることが自信の変化に関係し、研究を集めた整理では成功が届きそうかも論点でした。同じ年齢差でも、興味や目標、置かれた条件の受け止めは違います。手順の節で挙げたように、話を聞いた後の子の言葉から、どの点を身近に感じたかを確かめる方法があります。

憧れの人の話を聞けば、テストの点も上がりますか

話を聞いたことからテストの改善までを結び付ける根拠は不足しています。進路の見方や活動への自信に良い変化が出た研究と、学校での成績を測った研究では、成果の種類が違います。相談役を付けた研究でも成績の改善は確かではなかったため、感動した様子と得点の変化を同じものとして扱わない読み方が妥当です。話の価値を点だけに絞ることも、逆に点が伸びると期待を広げすぎることも避けたいところです。

話を聞いてかえって落ち込んだら、どう受け止めますか

先輩の姿と自分を比べ、距離を大きく感じた可能性があります。成人の実験では、突出した成功者を見た後に自分への評価と目指す気持ちが下がった例があり、反応が良い方向だけとは限りません。手順の節にあるように、どの話が遠く感じられたかを聞き、先輩と同じ成果を求める会話をいったん止めます。話に励まされなかったことを、子の努力する気持ちの欠如と決めつける必要はありません。

この記事の限界

研究の対象者は理系の進路を選ぶ高校生、プログラミングを教わる中学生、リーダー役を担う成人女性などで、活動の内容にも幅があります。多くは性別と進路を主題にした研究で、日々の勉強への構えそのものを測った研究は少なく、進路選択と学力は区別して読む必要があります。日本の小中高生や塾で先輩の話を聞く取り組みを直接比べた研究は今回の範囲になく、本人の感想に頼る評価と成績の測定にも隔たりがあります。

近い年齢の先輩の指導をくじ引きで組に分けて比べ、学業成績まで追った研究も乏しく、話す人と教える内容の働きを切り分ける課題が残ります。先輩の話を聞いた効果が長い期間続くかを追った研究もなく、その後の持続は家庭と塾での観察に委ねられます。

参考文献

  1. Morgenroth ほか. The motivational theory of role modeling: how role models influence role aspirants’ goals. Review of General Psychology. 2015;19(4):465-483.
  2. Breda ほか. How effective are female role models in steering girls towards STEM? Evidence from French high schools. The Economic Journal. 2023;133(653):1773-1809.
  3. Sun ほか. Testing the efficacy of a near-peer mentoring model for recruiting youth into computer science. Mentoring & Tutoring: Partnership in Learning. 2022;30(2):184-201.
  4. Eby ほか. Does mentoring matter? A multidisciplinary meta-analysis comparing mentored and non-mentored individuals. Journal of Vocational Behavior. 2008;72(2):254-267.
  5. Raposa ほか. The effects of youth mentoring programs: a meta-analysis of outcome studies. Journal of Youth and Adolescence. 2019;48(3):423-443.
  6. Wood ほか. School-based mentoring for adolescents: a systematic review and meta-analysis. Research on Social Work Practice. 2012;22(3):257-269.
  7. Gladstone ほか. Which role models are effective for which students? A systematic review and four recommendations for maximizing the effectiveness of role models in STEM. International Journal of STEM Education. 2021;8(1):59.
  8. Hoyt ほか. Female leaders: injurious or inspiring role models for women? Psychology of Women Quarterly. 2011;35(1):143-157.

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よくある質問

年が近い先輩ほど、手本として良いのでしょうか

年齢差だけで決まるという結果ではありません。先輩が教えた研究では、自分に似ていると感じることが自信の変化に関係し、研究を集めた整理では成功が届きそうかも論点でした。同じ年齢差でも、興味や目標、置かれた条件の受け止めは違います。手順の節で挙げたように、話を聞いた後の子の言葉から、どの点を身近に感じたかを確かめる方法があります。

憧れの人の話を聞けば、テストの点も上がりますか

話を聞いたことからテストの改善までを結び付ける根拠は不足しています。進路の見方や活動への自信に良い変化が出た研究と、学校での成績を測った研究では、成果の種類が違います。相談役を付けた研究でも成績の改善は確かではなかったため、感動した様子と得点の変化を同じものとして扱わない読み方が妥当です。話の価値を点だけに絞ることも、逆に点が伸びると期待を広げすぎることも避けたいところです。

話を聞いてかえって落ち込んだら、どう受け止めますか

先輩の姿と自分を比べ、距離を大きく感じた可能性があります。成人の実験では、突出した成功者を見た後に自分への評価と目指す気持ちが下がった例があり、反応が良い方向だけとは限りません。手順の節にあるように、どの話が遠く感じられたかを聞き、先輩と同じ成果を求める会話をいったん止めます。話に励まされなかったことを、子の努力する気持ちの欠如と決めつける必要はありません。