- 色を見る時点と、成績を測る時点をそろえて読むと、添削を受け取る話との違いが見えてきます。
- 試験を解く人と答案を採点する人では、色の比較で調べている行動が異なります。
- 作文への訂正の量や、学生が好む添削の形も、得点とは別の観点です。
- 家庭で確かめる手順は、取り上げる直しを絞り、理由の説明と次の問題の記録を残す形にします。
赤ペンで直された答案は点を下げるか|赤色と成績の研究と追試
夜九時、子どもが赤い訂正の並んだ答案を机に広げ、余白の書き込みを指で追っています。Elliot ほか(2007)は、色が行動に重要な影響を及ぼす微妙な環境の手掛かりになり得ることを示し、成績に関わる場面での赤の使い方には注意が要ると結論づけています。赤で直された答案を見るとやる気をなくし、次の点まで下がるという話は、本当なのでしょうか。赤い添削が次の得点を下げるという直接の裏付けはなく、赤を見るだけで成績が落ちるという証拠も強くありません。
ただし、赤に関する実験がすべて同じ問いを扱っているわけではありません。解く前に色を見た人の成績、赤ペンを持った人の採点、返された訂正への好みは、別々に調べられています。答案を見て子どもの手が止まっても、色への抵抗なのか、直す場所の多さなのか、説明の意味がつかめないのかで、確かめる中身は変わります。初期の実験と後の検証を照らし合わせながら、赤い紙面の印象と、学習した内容が身についたかという問いを分けて見ていきます。
要点
- 色を見る時点と、成績を測る時点をそろえて読むと、添削を受け取る話との違いが見えてきます。
- 試験を解く人と答案を採点する人では、色の比較で調べている行動が異なります。
- 作文への訂正の量や、学生が好む添削の形も、得点とは別の観点です。
- 家庭で確かめる手順は、取り上げる直しを絞り、理由の説明と次の問題の記録を残す形にします。
赤ペンの添削と「赤を見る実験」を分ける
「赤だと点が下がる」という言葉には、試験の前から採点後まで、異なる出来事が折り重なっています。受験者の目に入る紙や画面の色を変える実験なら、問いはそのとき問題を解く成績への影響です。採点用のペンを変える実験なら、問いは答案を見る人がどこを誤りとして拾い、どんな評価を付けるかです。返却された答案から学び直す子どもの話に進むには、訂正を読んだ後の学習や次の課題まで追う測定が関わります。
比べた相手にも注意すると、論点を取り違えにくくなります。赤い画面と灰色の画面の比較は、赤い字と青い字の訂正の比較とは、見せ方も行う作業も違います。作文の直し方を変える研究では、訂正という働きかけ自体が比較の中心です。題名や説明に赤ペンという言葉があっても、インクの色だけを入れ替えた実験なのかは、手順を見て判断する話です。好みの調査には、実際に色を割り当てて解答の変化を見る実験とは異なる役割があります。
| 調べる場面 | 変えたもの・比べた相手 | 測るもの | 添削の話との接点 |
|---|---|---|---|
| 色を見る実験 | 試験前の色、課題画面の赤と灰色、冊子の赤と緑 | その課題や試験の成績 | 解答する人への色の作用 |
| 採点する人の変化 | 採点用の赤ペンと青ペン | 誤りの印や付ける評価 | 訂正を書き込む側の判断 |
| 添削の量・直し方 | 外国語作文への訂正の与え方 | 作文の正確さや態度 | 直す働きかけの受け止め |
| 添削の好み | 赤と青を含む添削への希望 | 好みや添削の利用 | 読み手が望む形 |
初期の実験では、いつ赤を見せたのか
Elliot ほか(2007)は、重要なテストの前に赤を短く見せると、知能テストなどの成績が下がることを4つの実験で報告しています。色を見せる時点は、誤答に訂正を書き込んで返す時点ではなく、問題に取り組む前です。研究者は、この影響が参加者の自覚の外で生じているようだと記しています。本人が赤を嫌いだと答えたかをもとに分類する話とは、実験で操作している条件が異なります。
この実験の位置づけを考えるとき、問題を解く前の短い刺激と、誤答の理由を伝える文字の情報は分けて扱う対象です。添削には、色に加えて、どこをどう直すかという内容があります。赤を目に入れた条件の成績だけを測る設計では、訂正の説明が伝わったかという問いは測定の中心に入りません。元の実験が着目するのは、成績を求められる場で、直前に目にする色が行動に関わる可能性です。
Brooker ほか(2016)は、8〜9歳の子どもに色の付いた画面と灰色の画面で課題を行わせ、赤の条件で成績が有意に低いと報告しています。有意な差とは、偶然のばらつきだけでは説明しにくいと統計上判断した差です。こちらは子どもを対象にしていますが、やはり答案の訂正ではなく、課題に取り組む際の画面の比較です。比較対象が灰色であるため、赤で訂正する指導と青で訂正する指導の成績差とは、対応する条件が違います。画面の比較では、色が課題を示す側に付いていますが、添削の文字には教える人が選んだ訂正箇所も加わります。
研究を集め直すと、どこまで効果が残るか
Gnambs(2020)は、赤と比較用の色を見た後のテスト成績について、38標本から得た67の効果量をまとめています。効果量は、差の大きさをばらつきを物差しにして表す数で、メタ分析は複数の研究の結果をまとめて計算し直す方法です。単語の並べ替えと知識のテストでは有意な差がなく、推論のテストでは赤の条件の成績が低い結果でした。推論の差は d = -0.34 でしたが、初期の研究ほど効果が大きく、出版の偏りを補正すると、赤が知的な成績に影響するという証拠は残りませんでした。
出版の偏りとは、効果の出た研究ばかりが公表されることで、目にする研究の集まりが片寄ることです。個々の実験に差があったことと、研究を集めた後にも効果が安定して認められることは、検証の段階が異なります。また、推論、知識、単語の並べ替えでは、まとめる課題の種類も違います。ある課題の結果だけを取り出すと、別の課題では差が出なかった点や、公表の片寄りを点検した後の評価が抜け落ちます。
Arthur ほか(2016)は、大学の本番の試験で使われた既存データ3組を調べ、赤と緑の試験冊子で成績に差が出なかったと報告しています。直前に短く色を見せる実験に対し、こちらは実際の試験で手にする冊子の比較です。研究者は、重要な評価を伴う試験の特徴が、色の効果を弱める可能性を挙げています。この説明は著者の解釈であり、どの特徴が差を弱めたかを個別に確定した結果ではありません。
比較する色が緑である点も、画面の赤と灰色の実験との違いです。さらに、大学の試験という課題と子どもの画面上の課題では、参加者も実施の場も変わっています。後の研究を読むときは、同じ手順を繰り返した検証と、別の学習場面へ広げた検証を分けて扱えます。ここで並ぶのは、色と成績の関係を異なる条件から検討した結果です。
赤ペンを持つ採点者には何が起きたか
Rutchick ほか(2010)は、赤ペンで作文を訂正した人が、青ペンを使った人より多くの誤りに印を付け、別の実験では低い評価を付けたと報告しています。赤と黒のペンを使った語の課題では、赤を使う人が誤りや低い成績に関わる語を多く完成させました。こちらで色を変えられているのは、答案を受け取る生徒の側ではなく、言葉を作ったり採点したりする人の道具です。誤りに気づく作業と、できあがった作文に評価を付ける作業を、実験ごとに調べています。
この違いは、「点が下がる」の意味に直接関わります。学習後の力が落ちて解けなくなる場合と、同じように書かれた内容を見る側の評価が厳しくなる場合では、点が変わる過程が違います。採点者の実験が扱うのは後者の過程です。誤りへの注意が高まるという説明も、研究者が採点行動に関して提示しているもので、訂正を読んだ子どもの気持ちを測った説明ではありません。
Fikrlova ほか(2019)は、同じ手順でもう一度確かめる追試として、学生198人に赤か青のペンで課題を行わせています。赤を使った参加者は失敗を連想する語を多く作り、文章中の誤りにも有意に多く印を付けました。追試でそろったのは、語の連想と文章の誤りを拾う行動です。元の研究には評価を低く付ける実験もありますが、この追試の抄録が示す結果は、誤りの印の増加までです。追試を評価の厳しさまで再現したものとして扱うと、実際に確かめた行動から話が広がります。
訂正の多さと、受け取る人の好み
Semke(1984)は、大学のドイツ語の作文で直し方を比べ、訂正によって文章の正確さ、滑らかに書く力、全体的な言語能力が高まらず、学生の態度に悪い影響が及ぶ可能性を報告しています。題名には赤ペンという言葉がありますが、赤と別の色を入れ替えた効果を調べる研究ではありません。直す働きかけの違いを比べた、古い年代の外国語作文の研究です。ここでいう態度への影響も、作文の正確さや言語能力という測定とは別に扱われています。
訂正の量や方法を論じるときには、何を直す活動なのかが関わります。作文の正確さは、正誤が決まる短い答えの得点とも、試験前の知能課題の成績とも違います。誤りに手を入れることと、書く練習そのものを続けることも、指導の中では別々の働きかけです。この研究が比べる直し方の問いに、インクの色の良し悪しまで重ねると、どの条件を変えた結果なのかが曖昧になります。
Elwood ほか(2014)は、日本の大学の英語作文の授業で学生に添削の好みを尋ね、赤と青はほぼ同じように好まれていたと報告しています。学生は詳しい手書きの添削を好む一方、添削を実際に利用する程度は控えめでした。習熟度が高い学生ほど不安が低く、添削について質問する意欲や前向きな反応が高く、習熟度が低い学生では逆の傾向が見られました。色への希望だけでなく、内容を受け取るときの反応や、質問しようとする姿勢も調査の対象です。
詳しい訂正を望むことと、それを読んで使うことの間には、行動として異なる段階があります。添削を好むかという回答は、次の作文で誤りが減ったかという測定とは別です。また、習熟度によって受け止めが違うという結果では、学生をひとまとめにして平均の好みだけを見ると、質問へのためらいや不安の違いが見えにくくなります。この調査が扱っているのは、添削への希望と反応であり、色を変えた後の成績ではありません。
家庭で確かめる手順は、直す内容を絞るところから
家庭では、色を替える前に、答案のどの書き込みで手が止まるかを子どもと確認する方法が考えられます。「この印の意味がわからない」「直す場所が多くて選べない」「赤が目に入ると嫌だ」といった訴えは、混ぜずにその言葉のまま残します。次の手順は、色の効果を証明する実験ではなく、取り組める直し方を探すための提案です。学校や塾の添削について伝える場合も、止まった箇所がわかる答案を手元に置くと、話の対象をそろえられます。
たとえば、英文の動詞に訂正が集中しているなら、今は文の時制に関わる箇所を選び、ほかの表記の直しを同時に求めない形にできます。理由を話せないときは、正しい形を写して終える前に、元の文と直した文の意味を比べます。まだ説明に出てくる用語が理解できていない子には、訂正をさらに増やすより、説明する範囲を小さくする進め方が合うかを試せます。作文全体を書き直す負担が大きいなら、取り上げた文だけを確認する形から始められます。
色への抵抗を本人が伝えた場合は、その希望も記録して、青などで読みやすくなるかを試す余地があります。ただし、色、問題の難しさ、訂正の量を同時に変えると、どの変更が取り組みやすさにつながったかを見失います。前の答案を残し、何を変えたかを短く添えておけば、次に教える人とも経過を共有できます。赤い印をすべて埋め直すまで、その日の学習を終えられないと決める必要はありません。
よくある質問
赤が嫌だと言う子の気持ちは、どう受け止めればよいですか
本人が嫌だと感じることは、学習への向き合い方を知る情報です。一方、嫌な気持ちがあることと、学んだ内容を次に使えないことは、同じ出来事ではありません。手順の節で示したように、読むこと自体で止まるのか、説明が難しくて止まるのかを分けると、本人の訴えを具体的に残せます。得点への作用を決めつけずに、読みにくさや負担の言葉をそのまま受け止める扱いができます。
採点の研究は、赤ペンを使う教員への批判なのですか
採点者の節は、評価を行う道具を変えて行動を比べた実験を扱っています。個々の教員がどれだけ丁寧に答案を見ているか、指導の説明が適切かを判定したものではありません。誤りの印と最終的な評価にも、測定上の違いがあります。特定の答案への採点に疑問がある話と、実験で見られた採点行動の話を重ねると、確認したい評価の理由から離れてしまいます。
詳しい添削を望むことと、直す箇所を絞ることは矛盾しませんか
受け取りたい説明の詳しさと、その場で取り組む課題の量は分けて考えられます。訂正の意味を詳しく知りたくても、すべてを同時に練習するのは負担だと感じる場合があります。最後の手順で絞っているのは、そのとき取り組む範囲です。受け取った添削を消してしまうことや、後で知りたい説明まで省くことを求めるものではなく、順に扱えるようにする提案です。
この記事の限界
当てはまる範囲は、試験の成績、採点者の行動、大学での外国語作文や添削の好みへとわかれており、同じ子の学習過程を続けて追ったものではありません。赤の実験の大半は試験前に色を見せるもので、説明を書き込んだ答案を受け取って学び直す場面とは、色を見る時点と行う作業が違います。対象の国や学年、実施期間が抄録に記されていない研究もあり、日本の教室の添削へ結びつける際には、対象や手順の隔たりが残ります。
日本の学生への調査も大学の英語作文での好みや反応が中心で、赤と青を使い分けた後の学力の伸びを測る設計ではありません。小中高生の添削の色を変えて次の点を比べた研究は見つかっておらず、ペンの色と子どもの伸びの関係は未確定です。
参考文献
- Elliot ほか. Color and psychological functioning: The effect of red on performance attainment. Journal of Experimental Psychology: General. 2007;136(1):154-168.
- Brooker ほか. The effect of colour on children’s cognitive performance. British Journal of Educational Psychology. 2016;86(2):241-255.
- Gnambs. Limited evidence for the effect of red color on cognitive performance: A meta-analysis. Psychonomic Bulletin & Review. 2020;27(6):1374-1382.
- Arthur ほか. Red vs. green: Does the exam booklet color matter in higher education summative evaluations? Not likely. Psychonomic Bulletin & Review. 2016;23(5):1596-1601.
- Rutchick ほか. The pen is mightier than the word: Object priming of evaluative standards. European Journal of Social Psychology. 2010;40(5):704-708.
- Fikrlova ほか. The power of red: The influence of colour on evaluation and failure – A replication. Acta Psychologica. 2019;198:102873.
- Semke. Effects of the Red Pen. Foreign Language Annals. 1984;17(3):195-202.
- Elwood ほか. Student preferences vis-à-vis teacher feedback in university EFL writing classes in Japan. System. 2014;42:333-343.
通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。
- 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
- 向く人: 通塾の日だけ机に向かい、ほかの日の学習習慣が続かないことを、授業の中で一緒に組み直したい家庭
- 向かない人: 英検や内申の結果を、通う回数を増やすことだけで変えたいと考えている家庭
- 向かない人: 一人の講師と向き合うより、大勢と競い合いながら速い進度で先へ進みたい人
このサイトは武蔵野個別指導塾の運営者が制作しています。武蔵境駅から徒歩30秒、講師が一人の生徒に付きっきりの完全1対1で、大学教員や東京大学・早稲田大学・慶應義塾大学の大学院生などが教えます。アルバイト講師はいません。
よくある質問
赤が嫌だと言う子の気持ちは、どう受け止めればよいですか
本人が嫌だと感じることは、学習への向き合い方を知る情報です。一方、嫌な気持ちがあることと、学んだ内容を次に使えないことは、同じ出来事ではありません。手順の節で示したように、読むこと自体で止まるのか、説明が難しくて止まるのかを分けると、本人の訴えを具体的に残せます。得点への作用を決めつけずに、読みにくさや負担の言葉をそのまま受け止める扱いができます。
採点の研究は、赤ペンを使う教員への批判なのですか
採点者の節は、評価を行う道具を変えて行動を比べた実験を扱っています。個々の教員がどれだけ丁寧に答案を見ているか、指導の説明が適切かを判定したものではありません。誤りの印と最終的な評価にも、測定上の違いがあります。特定の答案への採点に疑問がある話と、実験で見られた採点行動の話を重ねると、確認したい評価の理由から離れてしまいます。
詳しい添削を望むことと、直す箇所を絞ることは矛盾しませんか
受け取りたい説明の詳しさと、その場で取り組む課題の量は分けて考えられます。訂正の意味を詳しく知りたくても、すべてを同時に練習するのは負担だと感じる場合があります。最後の手順で絞っているのは、そのとき取り組む範囲です。受け取った添削を消してしまうことや、後で知りたい説明まで省くことを求めるものではなく、順に扱えるようにする提案です。