- コメントだけの返却で興味とできが高かった実験がありますが、点数をなくした学級で伸びが劣った報告もあります。
- 点数は、何も返さない場合と比べると成績に良い方向、コメントと比べると成績にも意欲にも不利な方向でした。
- 点数を予期する構え、返却直後の感情、答案のできは、それぞれ別に測られています。
- コメントの具体性と点数の見せ方を分け、家庭や塾では期間を区切って子の反応と直しの内容を記録します。
答案に点数を書かずコメントだけ返すと伸びるか|点数と講評の研究と個別の授業
模試返却の日、子どもは答案の端にある講評を指で押さえながら、点数の欄を見ています。Butler(1988)が12学級を比べた実験では、コメントだけを受け取った組の興味と課題のできが最も高い結果でした。点数を消して直し方だけを伝えれば、子は意欲を保って伸びるのでしょうか。具体的なコメントには点数だけの返却を上回る利点がありますが、点数をなくすだけで伸びるとは言えません。
点数があれば、どのくらいできたかを短く伝えられます。一方、答案のどこをどう直せばよいかは、合計点だけでは読み取れません。この違いから、コメントだけを返す方法に期待が集まりますが、研究には点数をなくした学級の伸びが劣った例もあります。点数を付けるかどうかと、返す言葉の中身は、分けて扱うべき問題です。
また、返された瞬間の気持ちと、その後に答案を書き直したできは別の結果です。次も点数が付くと知っている段階の構えを調べた研究もあり、同じ「点数の影響」という言葉でも測る時点が違います。小テストや練習答案の返却について、比較の相手、課題の種類、結果が続いた期間をたどると、コメントの利点と点数を伏せる方法の弱点が見えてきます。
要点
- コメントだけの返却で興味とできが高かった実験がありますが、点数をなくした学級で伸びが劣った報告もあります。
- 点数は、何も返さない場合と比べると成績に良い方向、コメントと比べると成績にも意欲にも不利な方向でした。
- 点数を予期する構え、返却直後の感情、答案のできは、それぞれ別に測られています。
- コメントの具体性と点数の見せ方を分け、家庭や塾では期間を区切って子の反応と直しの内容を記録します。
テストの点数とコメントは、何と比べるかで評価が変わる
「点数があるとやる気が落ちる」という話には、何と比べて落ちるのかという問いが残ります。点数だけを返す場合と、詳しいコメントを返す場合では、点数の有無だけでなく、子が受け取る情報も違います。何も返さない場合と点数を返す場合の比較なら、今度はできを知らせる情報があるかどうかの差も入ります。返却方法の名前だけを並べると、この比較条件の違いが隠れてしまいます。
Koenka ほか(2021)は、小中高生の研究をメタ分析、つまり複数の研究結果をまとめて計算する方法で調べました。点数を何も返さない場合と比べると、成績には良い影響があり、意欲には悪い影響がありました。しかしコメントを受け取った子との比較では、点数を受け取った子の成績も意欲も劣っていました。同じ点数の返却でも、成績についての評価は比較相手によって変わったわけです。
同じ研究では、意欲の種類、教科、コメントの種類、子の学力などによって効果が変わりました。点数を受け取る前に予期している段階か、受け取った後かという違いも関わっていました。ただし、こうした条件の違いはすべての分析で一様に確かめられたわけではありません。全体の傾向と条件別の結果を分けると、単純な返却方法の順位表では表しきれない内容だとわかります。
Butler(1988)の学級実験と、Koenka ほか(2021)の集計を、返す内容に沿って並べると次のようになります。表では、興味や意欲と課題のできを分けて記しています。コメントを足した条件と点数を消した条件も、別の返し方として示しています。
| 返す内容 | 研究で示された結果 | 比べた相手 | 対象・研究 |
|---|---|---|---|
| 点数だけ | 成績は高く、意欲は低い方向 | 何も返さない場合 | 小中高生の研究をまとめたKoenka ほか(2021) |
| コメントだけ | 興味と課題の出来が最も高い | 点数だけ、点数とコメント | 小学生のButler(1988) |
| 点数とコメント | 点数だけと似た、興味と出来を下げる影響 | コメントだけ | 小学生のButler(1988) |
| 何も返さない | 点数を返す場合に比べて成績は低く、意欲は高い方向 | 点数だけ | 小中高生の研究をまとめたKoenka ほか(2021) |
コメントだけが良かった実験で、子は何をしていたか
Butler(1988)は、小学5・6年の学級を、点数だけ、コメントだけ、点数とコメントを返す条件に無作為に割り付けました。無作為の割り付けとは、くじ引きのように条件を決め、初めから特定の特徴を持つ子が片方に集まる偏りを減らす方法です。実験用の短い課題に取り組んだとき、コメントだけの組は、もとの成績が高い子でも低い子でも、興味とできが最も高くなりました。その後もコメントが返ると予期している場合と、予期していない場合の両方で、この結果が出ました。
点数にコメントを添えた組は、コメントだけの組と同じ結果にはなりませんでした。興味とできへの影響は、点数だけの組と似ていました。一方、成績上位の子は、さらに点数が付くと予期している間、興味と答えを絞り込む課題のできを高く保っていました。点数を受け取る子の中にも、もとの成績と次の評価への見通しによる違いがありました。
Lipnevich ほか(2009)は、大学生464人が心理学入門の論述試験に取り組む実験を行いました。詳しいコメントを教員からのものだと受け取る条件、コンピュータからのものだと受け取る条件、コメントがない条件を設け、仮の点数やほめ言葉の有無も組み合わせました。詳しく内容を記述するコメントは書き直しの伸びと強く関係し、点数やほめ言葉を伴わず単独で返したときが最も良い結果でした。仮の点数は全体としてできを下げましたが、ほめ言葉を添えるとその影響は和らぎました。
この論述試験では、返された情報を受けて答案を書き直す過程が評価されています。短い課題での興味を見た学級実験とは、学習者の年齢も作業の内容も違います。それでも、コメントに点数を足せばさらに良くなる、という単純な足し算にはならなかった点は共通しています。測られた伸びは取り組んだ課題の中での改善であり、教科全体の学力の伸びとは区別されます。
点数を待つ構えと、その後の成績を分ける
答案を返す前にも、評価の予告によって課題への構えが変わることがあります。Pulfrey ほか(2011)は、職業系の学校で行った3つの実験で、課題に点数が付くと予期する場合と、点数が付かない場合を比べました。点数を予期したときには、「悪いできだと思われるのを避けたい」という目標を持つ傾向が強まりました。これは遂行回避目標と呼ばれ、良いできを示したいという目標とは分けて測られています。
この研究では、点数に学習を助けるコメントを添える場合にも、悪い点を避けようとする構えが強まりました。自ら取り組もうとする動機の低下が、点数の予期とこの構えの間をつないでいたと報告されています。焦点は、まだ返却されていない点数への期待が、何を目指して課題に向かうかに及ぼす影響です。測定の中心は意欲と目標の構えで、実際の学業成績とは別です。
長い経過を扱ったKlapp(2015)は、1967年生まれの8558人のデータを使い、小学校で成績を付けられた子と付けられなかった子のその後を比べました。研究の方法は準実験で、くじ引きによる割り付けではなく、制度上の違いなどを利用して比較するものです。成績を付けられた子のその後の成績は全体として低く、とくに学力が低かった子では、後の成績や高校を卒業する見込みが低い結果でした。一方、女子では成績を付けられた場合のほうが高く、結果は対象によって違いました。
この比較は、課題の点数を待つ短い実験に、単に追跡期間を足したものではありません。学校の評価制度のもとで過ごした子どもを追っており、練習答案を返すときのコメントの詳しさをそろえた比較とも異なります。古い世代の制度と、無作為に分けていない集団の違いが背景にあります。目標の構えを変える実験と制度の比較は、測る範囲も原因を見分ける方法も違う研究です。
点数をなくした学級の伸びが劣った例と、慣れの影響
コメントだけの返却は、教室で続けたときにも良い結果を出すのでしょうか。Smith ほか(2005)は、中等学校の初年級の104人を対象に、点数を返さずコメントを手厚くした学級と、従来どおり点数と短いコメントを返した学級を比べました。全教科の伸びは、コメントだけにした学級のほうがかなり劣っていました。生徒への聞き取りでは、点数を知りたいという声もありました。
ここで比較相手になった通常の返却にも、短いコメントが付いていました。何も知らせない授業に詳しい説明を加えた比較とも、同じ詳しいコメントから点数だけを取り除いた比較とも違います。さらに、点数を伏せた側は特定の学級なので、その学級の特徴と返却方法の影響を切り分けにくい設計です。研究者は、実験の知見を学校の実践に広げる際の実施のずれを論じています。
Panadero ほか(2025)は、中等教育の99人について、コメントを常に返しながら点数を見せる期間と見せない期間を経験させ、同じ生徒の変化を追いました。点数を見せ始めた直後には、できが下がり、嫌な気持ちが増えました。しかし、その影響は時間とともに消え、生徒が慣れた可能性が示されました。コメントの影響は、点数の表示とは別に大きかったと報告されています。
前者は学級どうしの比較、後者は同じ生徒の経過を見る比較です。後者の結果を最初の返却時点だけで切り取ると、点数の表示がずっと悪く働き続けるように読めてしまいます。また、点数を求めた声と、点数を見せ始めた直後の嫌な気持ちは、同じ反応を測ったものではありません。子が求める情報、返却後の感情、学習の進み方が、別々に動いた研究として読むと違いが明確です。
厳しいコメントでも、直し方の具体性が違う
コメントだけを返すという方針にも、言葉の中身の違いがあります。「まだ不十分」と評価する文と、基準に照らして直す場所を伝える文は、どちらも肯定的ではない内容を含みます。それでも、子が受け取る情報としては、足りないという判定と、改善に向けた説明に分けられます。点数の表示を調べる研究に加え、評価の伝え方を調べる研究が、この違いを扱っています。
Fong ほか(2019)は、子どもと大人を含む78研究をまとめ、否定的なフィードバックが内発的な意欲に及ぼす影響を調べました。フィードバックはできに対して返す情報、内発的な意欲は興味や楽しさから取り組む気持ちです。否定的な情報は、中立の情報や何も返さない場合と比べると、その意欲を下げませんでした。一方、肯定的な情報と比べると、意欲は低くなりました。
同じ分析では、直し方の具体的な説明がある場合、基準に照らして伝える場合、対面で伝える場合には、意欲が下がりにくい傾向がありました。誤りを伝えること自体と、どう伝えるかは、別の条件として関わっていました。これは「点数を見せるか」を直接比べた研究ではなく、否定的な評価を受け取る側の意欲に焦点を当てた分析です。成績の上昇幅を示す数値として読む性質の結果でもありません。
たとえば、論述の根拠が不足していると伝える文には、評価としての厳しさがあります。それに、どの主張にどんな根拠が要るかという説明が加われば、同じ指摘でも直すための情報が増えます。これはコメントの中身を区別するための例であり、特定の例文の効果を測った実験結果ではありません。肯定か否定かだけでコメントを分類すると、こうした具体性の違いが抜け落ちます。
家庭や個別の授業で返却方法を確かめる手順
家庭では、まず採点した練習答案を見て、次に直す場所を絞ります。コメントは「よく見直す」のように全体を指す言葉にせず、答案中の場所と次の動作がつながる形にします。たとえば「理由を書いた文に、本文のどの記述を使ったか付け足します」という書き方なら、直す対象が見えます。これは試すための手順であり、研究で効果が保証された例文という扱いにはしません。
点数を伏せる場合は、本人に目的を説明し、いつ返し方を見直すかを先に決めます。練習の終了時など区切りを置き、本人が点数を見たいときの扱いも決めておきます。点数を知りたいという反応が強い子には、伏せ続ける形を押し通さず、点数と具体的なコメントを返す方法も選択肢にします。点数を見せる方法を続ける場合にも、子が指摘された場所を直せるかは確かめられます。
記録には、本人の言葉を短く残し、答案のどこが変わったかを添えます。「落ち着いて読めた」と言ったことと、理由の不足を補えたことは、別の欄に書くと経過が見えます。個別の授業でも、講師が子に返すコメントの例と、直しを確かめる方法を聞けば、点数の扱いだけに話が偏りません。課題の難しさまで同時に大きく変えると、返却方法を見直す材料が読み取りにくくなります。
区切りが来たら、本人の反応と答案を並べ、返却方法を続けるか変えるかを決めます。初回の反応だけで決めず、その後の変化も記録に残す理由は、点数への反応が経過とともに変わった研究にあります。Panadero ほか(2025)では、点数を見せ始めた直後の落ち込みが、時間の経過とともに消えていました。
よくある質問
点数とコメントを両方返せば、良いところを合わせられますか
単純に合わせれば良くなる、という結果ではありません。コメントだけが良かった実験の節で見たように、点数を添えると点数だけと似た結果になった場合や、仮の点数で書き直しのできが下がった場合があります。一方、学校での比較には、点数と短いコメントを返した学級の伸びが良かった例もあります。両方を返す形式だけで良し悪しを決めず、コメントの中身と返却後の直しを合わせて見る方法があります。
子が点数を知りたがったら、コメントだけにする方法は中止すべきですか
知りたいという声は、返し方を見直す際に扱う情報です。点数をなくした学級の研究でも、生徒から点数を求める声がありましたが、それだけで全員に同じ方法を選ぶ根拠にはなりません。手順の節のように、あらかじめ決めた扱いに沿って点数を示すことも選べます。本人の希望を記録し、直しが進んだかも別に残せば、好みと学習の経過を混ぜずに振り返れます。
間違いを指摘するコメントは、意欲を下げませんか
否定的な評価の研究では、比較相手によって結果が違っていました。中立の情報や何も返さない場合との比較では意欲は下がらず、肯定的な情報との比較では低くなっていました。また、直し方が具体的で、基準に照らした説明がある場合には下がりにくい傾向がありました。コメントを柔らかい言葉に変えるだけでなく、どこをどう直すかを伝えるという手順につながる結果です。
この記事の限界
測り方には、短い課題への興味、答案の書き直し、点数を待つ目標の構え、学校の成績という違いがあり、同じ学力の変化を測っている研究ばかりではありません。点数を伏せると不安が増すかを直接測った研究は今回扱った範囲になく、点数を見せた直後の嫌な気持ちの結果から不安の増減は判断できません。対象は小学生から大学生、大人まで広がり、国が抄録に記されていない研究もあるため、日本の小中高生や塾・個別指導に固有の結果は示せません。
多くは数回の課題で測った短い実験で、学級で続けた比較にも学級の特徴と返却方法を切り分けにくい問題があります。点数を伏せたまま学期をまたぐ成績の検討は、Klapp(2015)のような学校の制度の比較に限られ、家庭の練習答案を長く追った結果とは区別されます。
参考文献
- Butler. Enhancing and undermining intrinsic motivation: the effects of task-involving and ego-involving evaluation on interest and performance. British Journal of Educational Psychology. 1988;58(1):1-14.
- Koenka ほか. A meta-analysis on the impact of grades and comments on academic motivation and achievement: a case for written feedback. Educational Psychology. 2021;41(7):922-947.
- Lipnevich ほか. Effects of differential feedback on students’ examination performance. Journal of Experimental Psychology: Applied. 2009;15(4):319-333.
- Pulfrey ほか. Why grades engender performance-avoidance goals: the mediating role of autonomous motivation. Journal of Educational Psychology. 2011;103(3):683-700.
- Klapp. Does grading affect educational attainment? A longitudinal study. Assessment in Education: Principles, Policy & Practice. 2015;22(3):302-323.
- Smith ほか. ‘They don’t give us our marks’: the role of formative feedback in student progress. Assessment in Education: Principles, Policy & Practice. 2005;12(1):21-38.
- Panadero ほか. Impact of displaying grades vs. not displaying grades on academic performance and emotional outcomes while delivering feedback comments: a longitudinal study. Educational Assessment. 2025;30(1):21-40.
- Fong ほか. A meta-analysis of negative feedback on intrinsic motivation. Educational Psychology Review. 2019;31(1):121-162.
通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。
- 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
- 向く人: 通塾の日だけ机に向かい、ほかの日の学習習慣が続かないことを、授業の中で一緒に組み直したい家庭
- 向かない人: 英検や内申の結果を、通う回数を増やすことだけで変えたいと考えている家庭
- 向かない人: 一人の講師と向き合うより、大勢と競い合いながら速い進度で先へ進みたい人
このサイトは武蔵野個別指導塾の運営者が制作しています。武蔵境駅から徒歩30秒、講師が一人の生徒に付きっきりの完全1対1で、大学教員や東京大学・早稲田大学・慶應義塾大学の大学院生などが教えます。アルバイト講師はいません。
よくある質問
点数とコメントを両方返せば、良いところを合わせられますか
単純に合わせれば良くなる、という結果ではありません。コメントだけが良かった実験の節で見たように、点数を添えると点数だけと似た結果になった場合や、仮の点数で書き直しのできが下がった場合があります。一方、学校での比較には、点数と短いコメントを返した学級の伸びが良かった例もあります。両方を返す形式だけで良し悪しを決めず、コメントの中身と返却後の直しを合わせて見る方法があります。
子が点数を知りたがったら、コメントだけにする方法は中止すべきですか
知りたいという声は、返し方を見直す際に扱う情報です。点数をなくした学級の研究でも、生徒から点数を求める声がありましたが、それだけで全員に同じ方法を選ぶ根拠にはなりません。手順の節のように、あらかじめ決めた扱いに沿って点数を示すことも選べます。本人の希望を記録し、直しが進んだかも別に残せば、好みと学習の経過を混ぜずに振り返れます。
間違いを指摘するコメントは、意欲を下げませんか
否定的な評価の研究では、比較相手によって結果が違っていました。中立の情報や何も返さない場合との比較では意欲は下がらず、肯定的な情報との比較では低くなっていました。また、直し方が具体的で、基準に照らした説明がある場合には下がりにくい傾向がありました。コメントを柔らかい言葉に変えるだけでなく、どこをどう直すかを伝えるという手順につながる結果です。