- 教師がつける成績の男女差と、性別による採点の偏りは別々に調べる問いです。
- 学力をそろえた比較と、行動も考慮した比較では、差の見え方が変わります。
- 名前を隠す実験、教師への採点実験、既存データの分析では、そろえている条件が異なります。
- 通知表への疑問は、教科ごとの評価欄と答案を対応させ、学校の説明と照らす手順で扱います。
女子のほうが内申は高いのか|成績の男女差と採点の偏りの研究
通知表を開いた子の指が、教科の評定とその横の評価欄を行き来しています。「テストの点が似ていても、女の子のほうが内申を取りやすいのですか」と、保護者の疑問が浮かびます。点数だけでは説明がつかないように感じると、性別による扱いの違いが気になるものです。海外の研究では女子の成績が高い傾向がありますが、差が生じる理由は研究で割れています。
成績の平均を男女で比べることと、同じ答案に男女の名前を付けて採点を比べることは、別の問いです。前者には学んだ内容や取り組み方の違いも入り、後者は答案以外の情報が採点を変えるかに焦点を合わせます。また、学力テストの点と、教師がつける成績を並べた研究もあります。同じ「成績差」という言葉でも、何をそろえて何を比べたのかによって、受け取る意味が変わります。
ここで読むのは、男女の性格を決めるための研究ではありません。子の通知表への疑問を、集団の傾向、採点の仕方、学習の記録に分けて考えるための材料です。塾選びの話まで急がず、まず研究が測った成績の中身を追っていきます。
要点
- 教師がつける成績の男女差と、性別による採点の偏りは別々に調べる問いです。
- 学力をそろえた比較と、行動も考慮した比較では、差の見え方が変わります。
- 名前を隠す実験、教師への採点実験、既存データの分析では、そろえている条件が異なります。
- 通知表への疑問は、教科ごとの評価欄と答案を対応させ、学校の説明と照らす手順で扱います。
内申の男女差を考える前に、成績の平均を読む
Voyer ほか(2014)は、小学校から大学院までの教師がつけた成績を、メタ分析という、複数の研究の結果をまとめて計算し直す方法で調べました。最終分析には、369の標本から得た502の効果量が使われています。標本は調べた集団、効果量は差の大きさをばらつきを物差しにして表した数です。女子の成績が高い方向の差は全体で d = 0.225、95%信頼区間は[0.201, 0.249]で、小さいものの安定した差でした。
信頼区間は、推定した差にどれほどの幅があるかを示します。点数そのものを表す数ではないため、通知表の評定の差や、テストの得点差に置き換えて読む数値ではありません。この分析が集めたのは教師の評価による成績であり、同じ問題を同じ条件で解く統一的な学力テストとは測り方が違います。学校でつく成績を幅広く集める設計には、多様な学年や教科を見渡せる特徴があります。
同じ Voyer ほか(2014)で教科別に見ると、語学の差は d = 0.374、数学の差は d = 0.069でした。女子が高い方向の差は語学で最大、数学で最小でしたが、教科別の平均から個人の得意不得意を決めることはできません。語学の成績が伸び悩む女子も、数学以外の教科で高い評価を得る男子も、集団の平均とは別に捉える対象です。ここで比べている単位は個々の子の将来ではなく、各研究で測られた成績のまとまりです。
この分析では、発表年によって差の大きさは変わらず、国による違いも検討対象でした。教科、学年、国が違えば、成績をつける場面も異なります。広い対象をまとめた数値は全体の傾向を捉えるためのもので、採点時に名前を見せた場合と隠した場合の比較とは異なる設計です。
自己規律や行動まで考慮すると、比較はどう変わるか
Duckworth ほか(2006)は、都市部の特色ある教育を行う学校で、教師がつける成績、学力テスト、自己規律を調べました。自己規律とは、自分の行動を調整して学習などに取り組む力を指します。女子は全科目で高い成績を得ていましたが、学力テストでの優位はわずかで、IQテストでは低い結果でした。成績差の一部は自己規律の差で説明されるという分析結果も示されています。
この調査の特徴は、成績だけで学力全体を代表させず、別の測定結果と並べた点です。IQテストは知的能力を測る検査で、授業で扱った内容をどれだけ身につけたかを問う学力テストとも異なります。したがって、成績、学力テスト、IQの結果の並びが違っていても、それぞれが同じものを測り損ねたと決める話ではありません。自己規律を含めた分析は、教師の評価とテストの点がずれる理由の一部を調べるものです。
Cornwell ほか(2013)は、小学校の調査で、読み、数学、理科のテストの成績と教師による評価を比較しました。同じテスト成績の女子と比べると、男子は教師から低い評価を受けていましたが、行動などの非認知的な力を考慮すると、その差はほぼ消えました。非認知的な力とは、この文脈ではテストで測る知識や技能以外の、取り組み方などを含む力です。テスト得点だけをそろえた比較に、行動に関する情報を加えた設計です。
「同じ学力の子を比べる」という条件と、「学力に加えて行動も考慮する」という条件は異なります。後者では、教師の評価に関わるかもしれない要素を分析に組み込み、その後に残る差を見ています。子どもに特定の行動をさせて成績の変化を測る実験ではないため、行動のどの部分を変えると評定が上がるかを示す手順とは異なります。行動を成績の説明に用いる分析には、学力テスト以外の情報を加えたとき、男女という区分に結びついていた差がどれだけ残るかを見る役割があります。
同じ学力で残る差と、採点の偏りを調べる総説
Lievore ほか(2023)は、イタリアの生徒と担当教師を結びつけたデータで、教科ごとの学力が同じ生徒を比較しました。女子のほうが高い成績を得やすく、その差は教師や学級の特徴を考慮してもほぼ変わりませんでした。ここで加えた条件は教師や学級についての情報で、前の節の行動を考慮する分析とは異なります。同じ学力という出発点が共通していても、その後に何をそろえたかを読む必要があります。
学力が等しいという条件は、同じ答案を書いたという条件でもありません。生徒同士を比べる調査では、学力の測定値をそろえても、成績がつくまでに経験した授業や学習の記録は個々にあります。答案を固定して採点者に見せる情報を変える実験とは、比較する相手の作り方が違います。この研究の抄録からは、残った差が採点の偏りによるのか、行動によるのかは決められません。
Zanga ほか(2023)は、採点における差別を調べた37研究を、研究分野を見渡すスコーピングレビューという方法で整理しました。平均すると差別を確かめた研究が多い一方、例外や特定の条件があり、検証方法にも限界があるとしています。対象は性別だけでなく、人種や移民背景も含みます。採点の偏り全般を見渡した総説であり、性別だけの差の大きさを合算した数値ではありません。
次の表は、差を説明する際に何を比べているかを並べたものです。結果の大きさで研究を順位づけする表ではなく、比較に加えた情報の違いを示しています。総説で扱う問いの広さと、個別の調査が対象にした測り方も別の欄に置きます。
| 説明・調べる問い | 根拠の研究 | 対象 | 測り方・比べた相手 |
|---|---|---|---|
| 自己規律が成績差をどこまで説明するか | Duckworth ほか(2006) | 都市部の特色ある学校の生徒 | 教師の成績、学力テスト、自己規律を並べる |
| 行動を考慮すると残る差が変わるか | Cornwell ほか(2013) | 小学校の児童 | テスト得点をそろえた比較に行動などの情報を加える |
| 教師や学級の特徴で差が変わるか | Lievore ほか(2023) | イタリアの生徒と担当教師 | 教科の学力が同じ生徒を比較する |
| 採点の偏りをどの方法で検証しているか | Zanga ほか(2023) | 性別・人種・移民背景などを扱う研究 | 複数の検証方法とその条件を整理する |
名前を隠した採点は、男女の平均点の比較と違う
Hinnerich ほか(2011)は、スウェーデンの高校のスウェーデン語の答案を使い、名前を隠した採点と隠さない採点を比べる実地の実験を行いました。名前を隠さない採点で、男子の得点は女子より平均15%低い結果でした。それでも、採点で男子が差別されたという証拠は見つかりませんでした。男女の得点差が存在するかと、名前を見た採点が男子に不利に働くかを、別に検証している点が重要です。
男子の答案と女子の答案をそのまま比べると、書かれた内容の違いも得点差に入ります。名前を隠す条件を加えると、答案の内容に対する評価と、書き手についての情報がある評価を照らせます。平均点だけを見て採点者の扱いを推測する方法とは、答えようとしている問いが違います。この設計では、性別が見えることに伴う採点の変化に焦点を絞っています。
Rangvid(2019)は、自然実験と実地の実験という、異なる方法で検証しました。自然実験は、研究者がくじ引きで条件を作る代わりに、現実に生じた条件の違いを利用する方法です。実地の実験では、同じ答案について、書き手の情報を隠す採点と隠さない採点を比べています。異なる前提に立つ方法の双方で、名前を見た評価に系統的な性別の偏りがあるという見方を支持しない結果でした。
自然実験では、現実に生じた条件の違いを比較に使えるかが検証の前提です。一方、答案を採点し直す方法では、書かれた回答を固定したうえで、採点時の情報を比べる組み立てです。比較の作り方が違う方法を並べると、同じ問いへの答えが特定の測り方だけに依存しているかを検討できます。いずれも、男女の学習態度の平均を直接比べる調査とは異なり、答案を評価する過程に照準を合わせています。
平均で偏りがなくても、教師ごとの違いは残る
Doornkamp ほか(2022)は、中等学校のオランダ語と数学の教師358人を対象に、生徒の性別が採点に影響するかを実験で調べました。平均すると採点には性別の偏りがありませんでしたが、教師ごとの偏りの違いは、性別についての固定観念と関連していました。固定観念とは、性別などの区分によって人の性質を一括して捉える見方です。全体の平均と、教師間の違いが同時に検討されています。
採点者全体をまとめた平均と、採点者ごとの差は、分析の単位が異なります。全体としてどちらかの性別に偏るかを問うことと、どのような考えを持つ教師で採点が違うかを問うことを分ける設計です。平均の結果だけで、すべての教師が同じように採点したと捉えると、教師ごとの差を調べた部分が抜け落ちます。反対に、教師間の違いだけを取り出して、全体が同じ方向に偏っていたとするのも、分析の水準を混ぜる読み方です。
この実験で扱った固定観念は教師側のものであり、生徒の性格を分類する指標ではありません。男子か女子かによって学習支援の向き不向きを割り当てる話に移すと、測った対象が変わってしまいます。行動に関する説明も、実際に調べた取り組み方を扱うもので、性別から行動を推測するための説明ではありません。成績に疑問を持つ子が、自分の行動を確かめる前に性別の評価を受ける読み方は避けたいものです。
たとえば、課題の内容で困っている子に、性別から想像した性格を理由として示しても、どの内容で止まっているかは明らかになりません。反対に、答案を十分に書けている子への疑問を、学習量だけの問題として扱うと、採点について尋ねたい点が残ります。こうした子には、集団の平均を個別の原因に置き換える説明が向きません。学力、行動、採点者の情報という、異なる比較の対象を一緒にしないことが出発点です。
家庭で通知表と答案を照らす手順
家庭では、子の通知表と、その教科の返却された答案、学校から示された評価の説明を並べます。最初から男女の差を探す表を作らず、その子について手元で確かめられることを教科ごとに書き出します。以下は成績を上げる効果を示した方法ではなく、学校へ尋ねる内容と学習で取り組む内容を分けるための確認手順です。子が納得できない教科から始めると、どの評価欄を見て疑問を持ったかを言葉にしやすくなります。
得点と評定は単位が違うため、数字を引き算して差の大きさを出す表にはしません。「答案では説明問題に印が多い」「評価欄の意味をまだ理解できていない」といった、資料から言えることを添えます。他の子の点や評定を集める必要もありません。友人から聞いた点数だけを比較相手にすると、答案の中身や評価に使われた資料がそろわず、疑問が増えてしまいます。
学校の先生には、「この評価欄は、どの課題や答案のどの箇所を根拠に判断されましたか」と具体的に尋ねます。採点への疑問がある場合は、該当する解答と採点基準の関係を聞き、授業全体の評価を尋ねる質問とは分けます。説明を受けた後は、わかったことと残った疑問を別に記録します。性別に関する結論を先に置かずに聞くと、評価の理由そのものを確かめる質問になります。
塾で扱う内容も、その記録から決めます。答案の内容に課題があれば、その単元の理解や説明の書き方を見てもらい、学校の評価の意味が不明なら、先に学校の説明を補います。子がすでにできている部分まで一律に課題を増やすと、どこを改善したいかがぼやけます。教科ごとの疑問と評価の説明がそろったら、次に取り組む課題を具体的に絞れます。
よくある質問
テストの点が同じなのに評定が違えば、不公平なのですか
点数が同じという情報だけでは、評価の理由を特定できません。「同じ学力で残る差」の節で扱ったように、学力をそろえる比較と、同じ回答の採点を比べる設計は異なります。個別の通知表については、答案のどこに疑問があるのか、教科全体の評価に疑問があるのかを切り分ける手順が対応します。得点の一致は質問のきっかけであり、評価に使われた資料まで一致するという意味ではありません。
行動も関係するなら、性別に合う性格へ変えるべきですか
性格を男女の型に合わせる話ではありません。自己規律や行動を扱った節の比較は、実際に測った取り組み方を分析に加えたもので、理想の人物像を子に課すものではありません。家庭の手順で書く対象も、課題や答案に表れた具体的な点です。すでに取り組めていることを消して性格全体の問題にすると、どの学習内容を扱うかという問いから離れてしまいます。
男子と女子で、塾を選ぶ条件を変えたほうがよいですか
性別を理由に指導の形を決める根拠として、これらの採点の比較を使うことはできません。塾の選び方へのつなげ方は、家庭の手順の最後に示した、今の課題を絞る部分にあります。答案の説明が足りないのか、単元の理解で止まるのかによって、確かめたい指導内容は変わります。男女の区別で学び方を決めると、その子が実際に必要としている内容を見落とすおそれがあります。
この記事の限界
比べた相手は、学力をそろえた別の生徒や名前を隠した答案など研究ごとに異なり、成績差の理由を共通の条件で検証した集まりではありません。実験の多くは答案の採点を扱い、態度や提出物を含む内申の仕組みそのものを調べる設計とは違います。幅広い学年をまとめる分析と特定の学校を調べる調査が混在し、同じ期間に同じ方法で追った成績の比較でもありません。
自己規律や行動を考慮する分析と採点時の情報を変える実験には設計の隔たりがあり、差の理由をどれかに一本化する結論には至っていません。日本の小中高生の内申を男女で調べた研究は採用した文献になく、海外で測った成績差から日本の内申の男女差を数値で示す根拠は得られません。
参考文献
- Voyer ほか. Gender differences in scholastic achievement: A meta-analysis. Psychological Bulletin. 2014;140(4):1174-1204.
- Duckworth ほか. Self-discipline gives girls the edge: Gender in self-discipline, grades, and achievement test scores. Journal of Educational Psychology. 2006;98(1):198-208.
- Cornwell ほか. Noncognitive Skills and the Gender Disparities in Test Scores and Teacher Assessments: Evidence from Primary School. Journal of Human Resources. 2013;48(1):236-264.
- Lievore ほか. Do teacher and classroom characteristics affect the way in which girls and boys are graded? British Journal of Sociology of Education. 2023;44(1):97-122.
- Zanga ほか. Discrimination in grading: A scoping review of studies on teachers’ discrimination in school. Studies in Educational Evaluation. 2023;78:101284.
- Hinnerich ほか. Are boys discriminated in Swedish high schools? Economics of Education Review. 2011;30(4):682-690.
- Rangvid. Gender Discrimination in Exam Grading? Double Evidence from a Natural Experiment and a Field Experiment. The B.E. Journal of Economic Analysis & Policy. 2019;19(2):20180084.
- Doornkamp ほか. Understanding gender bias in teachers’ grading: The role of gender stereotypical beliefs. Teaching and Teacher Education. 2022;118:103826.
通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。
- 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
- 向く人: 通塾の日だけ机に向かい、ほかの日の学習習慣が続かないことを、授業の中で一緒に組み直したい家庭
- 向かない人: 英検や内申の結果を、通う回数を増やすことだけで変えたいと考えている家庭
- 向かない人: 一人の講師と向き合うより、大勢と競い合いながら速い進度で先へ進みたい人
このサイトは武蔵野個別指導塾の運営者が制作しています。武蔵境駅から徒歩30秒、講師が一人の生徒に付きっきりの完全1対1で、大学教員や東京大学・早稲田大学・慶應義塾大学の大学院生などが教えます。アルバイト講師はいません。
よくある質問
テストの点が同じなのに評定が違えば、不公平なのですか
点数が同じという情報だけでは、評価の理由を特定できません。「同じ学力で残る差」の節で扱ったように、学力をそろえる比較と、同じ回答の採点を比べる設計は異なります。個別の通知表については、答案のどこに疑問があるのか、教科全体の評価に疑問があるのかを切り分ける手順が対応します。得点の一致は質問のきっかけであり、評価に使われた資料まで一致するという意味ではありません。
行動も関係するなら、性別に合う性格へ変えるべきですか
性格を男女の型に合わせる話ではありません。自己規律や行動を扱った節の比較は、実際に測った取り組み方を分析に加えたもので、理想の人物像を子に課すものではありません。家庭の手順で書く対象も、課題や答案に表れた具体的な点です。すでに取り組めていることを消して性格全体の問題にすると、どの学習内容を扱うかという問いから離れてしまいます。
男子と女子で、塾を選ぶ条件を変えたほうがよいですか
性別を理由に指導の形を決める根拠として、これらの採点の比較を使うことはできません。塾の選び方へのつなげ方は、家庭の手順の最後に示した、今の課題を絞る部分にあります。答案の説明が足りないのか、単元の理解で止まるのかによって、確かめたい指導内容は変わります。男女の区別で学び方を決めると、その子が実際に必要としている内容を見落とすおそれがあります。