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公開:2026年9月11日/最終更新:2026年10月18日

数学Cを学校より先に個別で習うと身につくか|先取り学習の研究

日曜朝、数学Cの教科書を開いた子が「学校でまだ習っていない単元を、先に個別で習ってもいいの」と聞いてきたとき、すぐに答えを出せる保護者は多くないでしょう。学校の授業より先に進むことが理解を深めるのか、それとも表面をなぞるだけになるのかは、通わせる前がいちばん迷うところです。学校の予定表と塾のカリキュラムを並べると、数学Cの単元だけが先に進む月が見えてきます。その月をどう使うかを決める前に、先取り学習の研究が何を示しているかを見ておきたいところです。

この記事の要点
  • 先取りした子は、同年齢の先取りしない子より高い成績を取る(Steenbergen-Hu ほか 2016、Kulik 1984)。
  • 同じ内容を学ぶ年上の子と比べると、先取りした子の優位はほとんど残らない(Steenbergen-Hu ほか 2016)。
  • 8年生で代数を先に学ぶことには、正の効果が報告されている(Rickles 2013)。
  • 準備の足りない子まで早い課程に入れると、平均の成績は下がった(Domina ほか 2015、Allensworth ほか 2009)。
  • 塾の個別授業で学校より先に習う予習を扱った研究はない。

数学Cを学校より先に個別で習うと身につくか|先取り学習の研究

日曜朝、数学Cの教科書を開いた子が「学校でまだ習っていない単元を、先に個別で習ってもいいの」と聞いてきたとき、すぐに答えを出せる保護者は多くないでしょう。学校の授業より先に進むことが理解を深めるのか、それとも表面をなぞるだけになるのかは、通わせる前がいちばん迷うところです。学校の予定表と塾のカリキュラムを並べると、数学Cの単元だけが先に進む月が見えてきます。その月をどう使うかを決める前に、先取り学習の研究が何を示しているかを見ておきたいところです。

研究を並べると、早く学ぶこと自体には利点がある一方で、その利点は「同じ内容を学ぶ年上の子と比べると消える」という結果が繰り返し報告されています。先に習うか後に習うかより、前の単元の土台ができているかどうかで結果が変わります。 準備のできた子には先取りが不利になりにくく、準備の足りない子を早い課程へ進めると成績が下がった例もあります。

数学Cの単元を学校より先に個別で習う場合を考えるために、ここでは先取りの効果を測った研究と、早い課程に全員を入れた学校の研究を並べます。読むときに見るのは、誰と比べた研究か、どんな準備のある子を対象にしたか、そして成績を何で測ったかです。同じ「先取り」でも、学校の公式な飛び級と塾の予習では条件が違うため、そこも分けて考えます。

要点

  • 先取りした子は、同年齢の先取りしない子より高い成績を取る(Steenbergen-Hu ほか 2016、Kulik 1984)。
  • 同じ内容を学ぶ年上の子と比べると、先取りした子の優位はほとんど残らない(Steenbergen-Hu ほか 2016)。
  • 8年生で代数を先に学ぶことには、正の効果が報告されている(Rickles 2013)。
  • 準備の足りない子まで早い課程に入れると、平均の成績は下がった(Domina ほか 2015、Allensworth ほか 2009)。
  • 塾の個別授業で学校より先に習う予習を扱った研究はない。

先取りした子は同年齢の子を上回るのか

先取りを勧める説明では、学校より先に習うと授業が復習になり、余裕が生まれると言われます。同じ内容を二度学ぶことになるため、定着しやすいという考え方です。数学Cのように単元のつながりが強い科目では、前の単元を先に押さえることが次の理解を助けるとも説明されます。ただし、この説明が成り立つかどうかは、先取りした子と、しなかった子を比べた研究の結果を見る必要があります。

小中高生を対象にした約100年分の研究をまとめた Steenbergen-Hu ほか(2016)は、先取りした子が同年齢の先取りしない子を上回ったことを報告しています。効果量(差の大きさを、ばらつきを物差しにして表した数)は g = 0.70 でした。一方で、同じ内容を学ぶ年上の子と比べると、差は g = 0.09 で統計的に意味のある差ではなかったとされています。先取りした子は同年齢の中では先に進んでいるものの、同じ内容を学ぶ年上の子と同じ水準にとどまるという結果です。

Kulik(1984)も、26の比較研究をまとめて同じ方向の結果を示しています。先取りした子は、同じ年齢で知能の程度も近い先取りしない子よりテストの成績が良く、同じ学年の年上の優秀な子と同じ水準だったという結論です。ここで押さえたいのは、これらの研究が扱っているのが飛び級や早い履修という公式の先取りだという点です。塾の個別授業で数か月先に予習する形とは、期間も目的も異なります。

二つの研究を並べると、先取りの利点は「早く学べたこと」にあり、学びの深さが増したとは、この二つの研究だけでは示されていません。同じ内容に触れる回数が増えること自体は、復習の機会として意味がある可能性があります。ただし、その意味を確かめるには、先取りした内容が学校の授業のあとでどう定着したかを見る必要があります。

比べる相手を年上の子に変えると差はどうなるか

先取りの効果は、誰と比べるかで見え方が変わります。同年齢の子と比べれば先取りは有利に見えますが、同じ内容をすでに学んでいる年上の子と比べれば、差はほとんど残りません。よく言われる説明と、研究で言えることを、比べた相手ごとに整理すると次のようになります。

先取りへの期待 履修時期と成績の結果 年齢・履修内容の比較 研究の対象
先取りすると学年を越えて有利になる 同年齢の子より高い成績(g = 0.70) 同年齢の先取りしない子 小中高生の約100年分の研究(Steenbergen-Hu ほか 2016)
先取りすると内容を深く理解できる 同じ内容を学ぶ年上の子とは差がほぼない(g = 0.09) 同じ内容を学ぶ年上の子 同上
早く始めるほど学力が伸びる 同年齢・同程度の知能の子より成績が高い 同年齢の先取りしない子 26の比較研究(Kulik 1984)

同年齢の子との差は、先に進んだ分の差であって、理解の深さの差を示すものではありません。年上の子と同じ水準という結果は、先取りが無駄という意味ではなく、内容の理解では年上の子と同じ地点に着いたという意味に読めます。先取りの価値を測るなら、同年齢の子との比較だけで判断しないほうがよいということです。

ここで大事なのは、同じ g という数字でも、比べる相手が変われば意味が変わるということです。Steenbergen-Hu ほか(2016)の g = 0.70 は同年齢の子との差で、g = 0.09 は年上の子との差であり、どちらも先取りの効果を別の角度から見た数字です。塾を選ぶときに「先取りで伸びる」という説明を聞いたら、どの相手と比べた数字なのかを確かめる必要があります。

8年生の代数で報告された正の効果

先取りがすべて無意味というわけではありません。Rickles(2013)は、米国の1988年の全国調査を使い、8年生で代数を学ぶことの効果を調べています。取る子の選ばれ方の偏りを補正する方法を変えても、効果の向きは正で、先行研究を支持する結果でした。

この研究が扱っているのは、8年生で代数という早い課程に進む場合です。日本でいえば、中学2年生にあたる学年で高校の内容の入口に触れるような進み方に近いといえます。効果が正であったことは、準備のある子にとって早い課程が不利ではないことを示します。ただし、この研究は観察研究(介入せずに様子を記録して比べる研究。どちらが原因かは言えない)であり、取る子がもともと違う可能性は補正の範囲でしか除けません。

もう一つ気をつけたいのは、効果の大きさと期間が示されていないことです。研究の結論は正の効果を支持するという方向の報告で、何ポイント上がったか、その差が翌年も残ったかまでは、この研究では扱われていません。数学Cの単元を先に習う場合に置き換えるなら、準備のある子なら不利になりにくいという読み方にとどめるのが正確です。

全国調査を使った研究は、同じ学年の多くの子を比べられる点で強い材料になります。その一方で、8年生で代数を取る子と取らない子の背景はもともと違い、補正しても完全にはそろいません。効果が正だったことは、少なくとも、早い課程がすべての子に害になるという見方を否定する材料になります。

全員を早い課程に入れた学校で起きたこと

準備のある子の先取りが不利になりにくいとしても、準備の足りない子まで同じ課程に入れると、話は変わります。Domina ほか(2015)は、米国カリフォルニア州が8年生全員に代数を学ばせる方向に動いたときの影響を調べました。学区ごとの代数の履修率の上がり方の違いを使い、10年生の数学の成績への影響を見ています。

結果は、多くの生徒を先の課程に入れるほど、平均の成績は下がるというものでした。下がり方は大きな学区で特に大きく、履修率を上げたこと自体が成績の低下と結びついていました。早い課程に入れることと、その内容を支える準備を整えることは別だということを示す結果です。

Allensworth ほか(2009)は、米国シカゴで9年生全員に大学進学向けの代数と英語を課した政策を評価しています。代数と英語の単位を取る生徒は増えましたが、落第が増え、成績はやや下がり、テストの点は上がらず、大学への進学も増えませんでした。単位を取ることと、内容を身につけることは同じではないとわかります。

二つの政策研究が示すのは、早い課程そのものが悪いということではありません。準備の度合いを確かめずに全員を同じ地点から進めると、授業についていけない子が増え、平均ではマイナスになるということです。数学Cを先に習うかどうかを決めるときにも、同じ見方が当てはまります。

政策の評価では、成績の平均だけでなく、落第や進学の変化も見られています。平均が下がった背景には、準備の足りない子が増えたことがあります。早い課程を広げるかどうかは、平均の点数より、どの子がついていけなくなったかを見て決める必要があります。

数学Cの単元を前に進める前に確かめること

数学Cの単元には、ベクトルや平面上の曲線と複素数平面などがあります。学校の授業より先に個別で習う場合、これらの単元に入る前に、数学Ⅰや数学Ⅱの該当部分が身についているかを確かめる必要があります。単元の名前だけを見て始めると、前提の計算や考え方が抜けたまま進むことになります。

確かめ方は難しくありません。数学Cの最初の単元に関係する数学Ⅰ・Ⅱの問題を、教科書を見ずに数問解いてもらいます。解けた問題と止まった問題を分け、止まった問題がどの単元の内容かを講師に伝えます。この確認だけで、先取りを始めるか、前提に戻るかを決める材料になります。

先取りの期間と目的も決めておいたほうがよいです。学校の授業が始まるまでの数か月なのか、受験までの長い期間なのかで、必要な準備は変わります。学校の進み方と塾の予定を並べ、どの単元をいつまでに扱うかを書いておくと、先取りが学校の復習と重なるのか、置いていかれるのかが見えます。

確認の結果は、紙に残しておくと次に活かせます。解けた問題と止まった問題、止まった単元の名前、確認した日を書いておきます。学期ごとに同じ問題をもう一度解けば、前提が埋まったかどうかが数字で見えます。

研究の結果から言えるのは、準備のある子には先取りが不利になりにくいということまでです。塾の個別授業で学校より先に習う予習だけを調べた研究は見つかっていないため、ここでは学校の先取りと学校全体の政策から読み取れることを扱います。数学Cの単元を先に習ったからといって、理解が深まるわけではありません。先に触れた内容を、学校の授業のあとでどう復習するかまで含めて計画する必要があります。

塾で先に習うとき、授業の何を見るか

塾で先に習う場合、見るべきは講師がどれだけ説明したかではありません。子が自分で問題を解く時間がどれだけあり、止まったときに講師が何を聞いたかです。説明を聞いてわかった気になることと、自分で解けることは別だからです。

授業のあとに、子に一つだけ説明してもらうのも確かめ方になります。今日習った単元のうち、いちばん迷った問題を、ノートを見ずに説明してもらいます。説明が止まったところが、理解が浅いところです。この方法は先取りした内容を復習するときにも使えます。

塾の予定と学校の予定を月に一度並べることも有効です。塾で先に習った単元が学校で始まったとき、塾では何を扱うのかを確認します。学校の授業が復習になり、塾では次の単元に進むなら、先取りと復習の役割がわかれています。学校の授業が初めて聞く内容になっているなら、塾の進み方が速すぎる可能性があります。

先取りを続けるかどうかは、成績の上がり方だけで決めなくてよいです。子が学校の授業を「もう知っている」と退屈そうにするなら、先取りの範囲を狭める選択もあります。逆に、学校の授業で困らずに発言できているなら、今の進み方が合っている可能性があります。

数学Cへ進む予定を立てる前に、前提の単元で解けなかった問題を講師に見せます。先に習う単元と学校の後に復習する単元を分けて書けば、戻る場所も予定に残せます。

よくある質問

数学Cを先に習うと、学校の授業が退屈になりませんか。

学校の授業が復習になること自体は問題ではありませんが、子が「もう知っている」と感じて聞かなくなるなら、先取りの範囲を狭めるほうがよい場合があります。先取りの効果を測った研究では、同年齢の子より高い成績を取る一方、同じ内容を学ぶ年上の子とは差がほとんどありませんでした。子の表情や発言を見て、先に進む量を調整するのが現実的です。

数学Ⅰや数学Ⅱがあいまいなまま数学Cに進んでもよいですか。

数学Cの内容は、数学Ⅰ・Ⅱで学んだ計算や考え方の上に積み重なります。前提が抜けたまま進むと、説明を聞いても自分で解く段階で止まりやすくなります。先取りを始める前に、関係する数学Ⅰ・Ⅱの問題を数問解いて、どこで止まるかを確かめてから決めるのが安全です。止まった単元に戻る期間を先に取っておくと、その後の進み方が安定します。

先取りと復習はどちらを優先すればよいですか。

先取りした内容も、学校の授業のあとに復習しなければ定着しません。先取りの研究が示すのは、早く学んだ子が同年齢の子より高い成績を取る一方、同じ内容を学ぶ年上の子とは差がほぼなかったという結果です。先取りで新しい単元に進む週と、前に習った単元を解き直す週を、交互に置くほうが無理がありません。どちらかを選ぶのではなく、先に習った分を学校の授業で回収する順番を決めておくと、復習が後回しになりにくくなります。

この記事の限界

比べた相手が同じ年齢でまだ履修していない子なのか、同じ内容を学ぶ年上の生徒なのかによって、先取りで差がついたという結果の意味は変わります。学力の高い子の飛び級や早い履修を扱う研究と、米国の学校全体で早い課程を広げた政策の評価も、参加する子の準備や選ばれ方が異なる比較です。

数学Cを塾で先に習う予習と、学校で習った後の復習を直接比べた研究は今回の資料には含まれず、学校の進度とのずれや個別授業で戻れる範囲を同じ条件で確かめた結果もありません。武蔵境での学習予定に移すときには、前提となる数学Ⅰ・Ⅱのどこで手が止まるかを本人の答案から整理し、学校の先生や講師と先へ進む単元と戻る単元を分けて決める必要があります。

参考文献

  1. Steenbergen-Hu S ほか. What One Hundred Years of Research Says About the Effects of Ability Grouping and Acceleration on K–12 Students’ Academic Achievement. Review of Educational Research. 2016;86(4):849-899.
  2. Kulik JA. Effects of Accelerated Instruction On Students. Review of Educational Research. 1984;54(3).
  3. Rickles JH. Examining Heterogeneity in the Effect of Taking Algebra in Eighth Grade. The Journal of Educational Research. 2013;106(4):251-268.
  4. Domina T ほか. Aiming High and Falling Short: California’s Eighth-Grade Algebra-for-All Effort. Educational Evaluation and Policy Analysis. 2015;37(3):275-295.
  5. Allensworth E ほか. College Preparatory Curriculum for All: Academic Consequences of Requiring Algebra and English I for Ninth Graders in Chicago. Educational Evaluation and Policy Analysis. 2009;31(4):367-391.

通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。

  • 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
  • 向く人: 通塾の日だけ机に向かい、ほかの日の学習習慣が続かないことを、授業の中で一緒に組み直したい家庭
  • 向かない人: 英検や内申の結果を、通う回数を増やすことだけで変えたいと考えている家庭
  • 向かない人: 一人の講師と向き合うより、大勢と競い合いながら速い進度で先へ進みたい人

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よくある質問

数学Cを先に習うと、学校の授業が退屈になりませんか。

学校の授業が復習になること自体は問題ではありませんが、子が「もう知っている」と感じて聞かなくなるなら、先取りの範囲を狭めるほうがよい場合があります。先取りの効果を測った研究では、同年齢の子より高い成績を取る一方、同じ内容を学ぶ年上の子とは差がほとんどありませんでした。子の表情や発言を見て、先に進む量を調整するのが現実的です。

数学Ⅰや数学Ⅱがあいまいなまま数学Cに進んでもよいですか。

数学Cの内容は、数学Ⅰ・Ⅱで学んだ計算や考え方の上に積み重なります。前提が抜けたまま進むと、説明を聞いても自分で解く段階で止まりやすくなります。先取りを始める前に、関係する数学Ⅰ・Ⅱの問題を数問解いて、どこで止まるかを確かめてから決めるのが安全です。止まった単元に戻る期間を先に取っておくと、その後の進み方が安定します。

先取りと復習はどちらを優先すればよいですか。

先取りした内容も、学校の授業のあとに復習しなければ定着しません。先取りの研究が示すのは、早く学んだ子が同年齢の子より高い成績を取る一方、同じ内容を学ぶ年上の子とは差がほぼなかったという結果です。先取りで新しい単元に進む週と、前に習った単元を解き直す週を、交互に置くほうが無理がありません。どちらかを選ぶのではなく、先に習った分を学校の授業で回収する順番を決めておくと、復習が後回しになりにくくなります。