- 好みを尋ねる調査、教育者が授業案を選ぶ理由、授業後の理解を調べる実験は、答えようとする問いが異なります。
- 型に合う授業の平均的な利点と、型ごとに有効な授業が入れ替わることは、別の比較です。
- 数字の異なる総説は、集めた研究と計算方法をそろえずに大小だけで評価できません。
- 見学では、説明の形式だけでなく、子が止まった箇所をどう確かめ、説明をどう変えるかに注目します。
視覚型や聴覚型に合わせた個別の授業は伸びるか|学習スタイルの研究
図書館の窓際で、子どもが参考書の図を指でたどり、その横にある説明文へ目を移しています。Cuevas(2015)は、方法のしっかりした研究ほど、学習スタイルに合わせると学習が進むという仮説を否定する傾向があると結論づけています。「この子は視覚型だから図で教える」と言われたら、それに合わせた個別の授業を選ぶと伸びるのでしょうか。視覚型や聴覚型に授業を合わせると伸びるという、厳密な証拠は乏しいです。
図のあるページを好むことと、図で学んだほうが理解を深められることは、別々に確かめる問いです。説明を聞くのが好きな子にも、文章を読み返して考える機会はありますし、好きという返事だけで授業の成果は測れません。一方で、型に合わせた授業に利点を見いだした分析もあり、否定的な結果だけを拾って終わる話でもありません。比べた授業の中身、理解を測った課題、型によって有利な方法が入れ替わったかという点をたどると、研究が何を試したのかが見えてきます。
要点
- 好みを尋ねる調査、教育者が授業案を選ぶ理由、授業後の理解を調べる実験は、答えようとする問いが異なります。
- 型に合う授業の平均的な利点と、型ごとに有効な授業が入れ替わることは、別の比較です。
- 数字の異なる総説は、集めた研究と計算方法をそろえずに大小だけで評価できません。
- 見学では、説明の形式だけでなく、子が止まった箇所をどう確かめ、説明をどう変えるかに注目します。
学習スタイルの診断は、何を振り分けているのか
視覚型や聴覚型という説明は、見ることや聞くことの好みに応じて学び手を分ける考え方です。そこから、視覚型には図や文字、聴覚型には音声というように授業を合わせる主張へ進みます。ただし、好みを分ける作業と、その分け方を使って学習を改善する作業には、違う確かめ方が要ります。前者では本人がどう答えたかが中心になり、後者では実際に教えた後の理解や成績が問われます。
Newton ほか(2020)は、教育者を対象とする37研究を系統的レビュー(基準を決めて関連する研究を集める方法)で整理しました。対象は18か国の15,405人で、型に合わせる授業を信じるという自己報告の割合は、研究ごとの重みを付けた集計で89.1%でした。ただし、参加者を集めやすさで選ぶ便宜的な標本が多く、質問をどう受け取ったかにも不明な点があります。この数字が示す対象は調査に答えた教育者の信念であり、子どもの正答率でも、授業の成功率でもありません。
Bresnahan ほか(2024)は、教育者が学習スタイルに基づく授業案を選ぶ理由を調べています。学習スタイルへの信念は選択を予測しましたが、理由には実務上の事情、生徒の学びや意欲への配慮も含まれていました。著者は、多くの教育者にとって、その授業案が多様な教え方を取り入れ、複数の教育上の優先事項に応える機会になっていると説明しています。ここで測っている中心は授業案を選ぶ判断で、児童生徒を異なる授業に分けた後の学力差を測る実験とは設計が異なります。
「合った授業」の効果には、入れ替わる比較が要る
型に合わせた教え方を検証するとき、図で教えた集団が音声で教えた集団より高得点だった、という比較だけでは問いが残ります。図の授業がどちらの型にも有効だった可能性もあるからです。型に合わせる主張が予測するのは、図を好む側では図の授業、音声を好む側では音声の授業が有利になるという、組み合わせに応じた結果です。このように型によって有利な方法が入れ替わる形を、交差の関係と呼びます。
Aslaksen ほか(2018)は、好みの判定、授業への割り当て、共通のテスト、交差の関係の統計的な検討という方法上の基準を満たす研究を取り上げました。そこでの効果量(差の大きさを、ばらつきを物差しにして表した数)は非常に小さく、統計的にも有意ではありませんでした。有意という言葉は、偶然のばらつきだけでは説明しにくい差かどうかを判断するときに使います。このレビューは、感覚の型に指導を合わせて成果が改善するという、繰り返し再現できる統計的な証拠を得ていません。
共通のテストを使う条件には、学習後に何を理解したかを同じ物差しで確かめる役割があります。図を使った授業には図の読み取りだけ、音声の授業には聞き取りだけを課せば、授業以外に測り方も変わります。また、型の判定を省いたまま教材だけを比較すると、学び手の好みとの組み合わせが結果を左右したのかが見えません。こうした条件をそろえる設計が、単に教材が違う比較と、型への一致を検証する比較を分けています。
利点が出たメタ分析は、何を評価したのか
Clinton-Lisell ほか(2024)は、授業を学習スタイルに合わせた場合と合わせなかった場合を比べる21研究、1,712人の結果をメタ分析(複数の研究の結果をまとめて計算し直す方法)で検討し、全体で g = 0.31 の利点を示しましたが、著者自身は広く採用する根拠として小さく、出現も少なすぎると解釈しています。ここで g は効果量の記号で、学校の試験の点数や成績の上昇率を示す単位ではありません。この分析では、平均的な差だけでなく、仮説に合う結果の出方も調べています。
同じ分析で Clinton-Lisell ほか(2024)が報告した、少なくとも異なる型の間で一致の利益が交差する形を示した学習成果の測定は26%でした。この割合の分母は子どもの人数ではなく、学習成果の測定です。そのため、ある割合の子なら診断に合わせれば伸びる、と対象者を振り分ける数字にはできません。全体の平均と、型ごとに有利な方法が逆転する測定の割合を、それぞれ別に集計している点がこの分析の特徴です。
著者の評価には、実施にかかる時間や費用と、採用した研究の質の低さも入っています。平均として正の差があったかを問う計算と、教育現場で広く使うだけの裏付けがあるかを問う判断では、検討する内容が違います。後者には、結果がどの程度繰り返されるか、型の判定や授業の組み替えにどれだけ手間がかかるかも関わります。このメタ分析の抄録は学年別の内訳を示しておらず、集計の中心は複数の研究をまとめた結果です。
総説の数字が違う理由を、比較の設計から読む
Hattie ほか(2025)は17のメタ分析を整理し、型に合わせる仮説を検証した研究の効果量を d = .04 と報告しました。一方、相関研究(項目どうしが一緒に変わる関係を調べる研究)の平均の相関は r = .24 で、後者では学習スタイルと学習方略を混同しがちだと指摘しています。学習方略とは、学ぶために使う手順や方法を指します。本人の型と、課題に取り組むための方法を同じものとして扱うと、何が成果と関係していたのかという説明も変わります。
この整理と前節のメタ分析は、集めた研究と計算方法が異なります。効果量の数字だけを横に並べて、どちらが正しいかを決める読み方はできません。たとえば、好みと成績の関係を調べる設計と、好みを測った上で授業を合わせる設計とでは、比べた相手が異なります。研究の問いをそろえてから結果を読むために、比較の形を以下に分けます。
| 比較の形 | 問うていること | 比べた相手・測るもの |
|---|---|---|
| 教育者の信念の調査 | 型への一致を支持しているか | 質問への回答や授業案の選択 |
| 好みと成績の相関 | 好みと成績が一緒に変わるか | 異なる好みを報告する学び手の成績 |
| 一致と不一致の比較 | 型に合う授業が有利か | 好みに合う授業と合わない授業の成果 |
| 交差の検討 | 型によって有利な方法が逆転するか | 各型で同じ形式どうしを比べた結果 |
Cuevas(2015)が検討した対象にも、相関の研究と実験の研究に加えて、教員養成の教科書が含まれています。教材として伝えられている説明を調べる作業と、生徒の学習後の成績を調べる作業を並べた構成です。教科書への掲載、教育者の支持、実験による検証は、それぞれ異なる資料や測定を使っています。
子どもの理解と、好みに合わない形式の結果
Rogowsky ほか(2020)は、小学生を対象に、視覚と聴覚の好みと理解の関係を実験の設計で検討しました。好みと理解には有意な関係がなく、視覚型とされた子は聴解と読解の両方で、聴覚型とされた子より高い結果でした。視覚型が読む課題で高いという部分だけに注目すると、聞く課題でも高かった点を取り落とします。成績の高い集団がどの形式でも高いという形と、型に合う形式でだけ優位になる形を見分けるための比較です。
Lyle ほか(2023)は、能動型と内省型の好みを、双方向に取り組む生物の教材と見るだけの教材に組み合わせました。ここで使った分類は、視覚と聴覚の分類とは異なります。教材とのやりとりのある練習が狙った内容のテストでは、好みと合わない形式で学んだ場合の成績が高く、それ以外のテストでは組み合わせの効果がありませんでした。どの内容を測るテストだったかによって、同じ実験の中でも結果の出方が変わっています。
この生物教材の実験でいう不一致は、子どもが苦痛を感じる授業を我慢させることではなく、判定した好みと教材形式の組み合わせです。比べた相手は、学習しない集団でも、普段の学校の授業でもありません。好みに合う教材を使う条件と合わない教材を使う条件で、教材の内容に関する成果を測っています。視覚・聴覚の区分に対しても同じ方向の差が出るかという問いは、この実験の分類とは異なります。
型に合わせる考え方は、形式を固定する根拠として用いると、とくに扱いが難しくなります。読むことが負担で説明を聞きたい場合と、読み取りはできるが図を見るのを好む場合では、授業で取り組む課題が違うからです。前者の困りごとを単なる好みとして処理したり、後者から言葉で説明する機会を外したりすると、何を学ぶための授業かが曖昧になります。好みの分類だけでは、語句の理解や問題文の読み取りなど、止まった箇所の違いまで表せません。
家庭と見学で、説明の変え方を確かめる手順
家庭では、子の好みを聞くことに加えて、今取り組んでいる単元のどこで手が止まるかを短く記録します。問題文の意味がつかめないのか、図と式がつながらないのか、答えの理由を言葉にしにくいのかを分けます。図を描いた後に式へ戻れた、説明を聞いた後に条件を読み直せた、といった動作も記録に残せます。これは型を判定し直す検査ではなく、教え方を変える箇所を探すための記録です。
見学の際には、同じ単元を図と言葉の両方で説明するか、その切り替えが子の反応に応じているかを確かめます。図を見せただけで進むのか、子が図のどこを指すかまで見ているのかでは、観察できる授業の内容が違います。音声の説明でも、聞き終えた子がうなずいた時点で進むのか、自分の言葉で説明するところまで待つのかを分けて見られます。次の項目をメモにすると、印象だけだった判断を具体的なやりとりに戻せます。
形式を比べるなら、難しさまで大きく変えてしまわないよう、扱う単元や問う内容をそろえて試します。図を使うときだけ易しい問題にすると、何が助けになったかを振り返りにくくなります。結果は点だけでまとめず、読み返した箇所、説明を求めた箇所、自力で進めた箇所を短い言葉で残します。読む負担の強い子に文章量を増やすなど、困りごとを重くする比較は避けます。
記録を見直す際には、以前は助けが要った箇所を、今回はどう進めたかから話します。図が役立った単元の記録も、別の内容へ進んだら改めて確かめます。説明を変える余地を残すために、診断で付いた型だけで次の教材を縛りません。
よくある質問
図を見るのが好きという子の言葉は、尊重してよいですか
好みを伝えた言葉そのものを否定する理由はありません。前の節で分けたように、好きという返事は本人の受け止めであり、授業後に何を説明できるかとは異なる情報です。気に入っている形式で学べた内容と、まだ助けが要る箇所は同時に存在します。好みを大事にすることと、困っている内容を具体的に知ることは両立します。
型を使う講師なら、その授業を避けるべきですか
型という言葉を使っただけで、授業の中身全体は決まりません。教育者の授業案の選択を扱った節では、信念のほかに実務や生徒の意欲など、複数の理由があることを取り上げました。見学の節にある、説明を切り替える場面や子の理解を確かめる場面が、授業を検討する際の具体的な対象です。講師への評価と、用語への賛否を一緒にしない考え方です。
好みに合わない教材で困ったら、続ける意味はありますか
不一致という分類に、苦手な形式を続ければよいという指示は含まれていません。生物教材の実験での一致や不一致は、あらかじめ定めた好みと形式の組み合わせを指しています。手順の節で扱ったように、読む負担や説明のわかりにくさは、それ自体が見直す対象です。型に合わせることへの疑問と、子が実際に困っていることへの配慮は、別々に扱えます。
この記事の限界
当てはまる範囲は、好みと授業形式の組み合わせを調べた実験や総説が中心で、長期の成績や日々の通塾を一様に追ったものではありません。採用した研究には、個別指導や塾で型に合わせた授業を検証したものがなく、学校外の指導を選ぶ問いへの直接の裏付けは不足しています。日本の小中高生での検証も乏しく、抄録に対象者の国や年齢、学習期間の詳細が記されていない研究が複数あります。
好みの分類は視覚と聴覚に限らず、理解の測り方も教材ごとに異なるため、結果を学年別や教科別の処方にまとめるだけの材料はそろっていません。教科の内容によって図と言葉のどちらが向くかは、学び手の型への一致とは別の問いであり、本稿で検討した研究からは結論を出していません。
参考文献
- Cuevas. Is learning styles-based instruction effective? A comprehensive analysis of recent research on learning styles. Theory and Research in Education. 2015;13(3):308-333.
- Newton ほか. How Common Is Belief in the Learning Styles Neuromyth, and Does It Matter? A Pragmatic Systematic Review. Frontiers in Education. 2020;5:602451.
- Bresnahan ほか. Why educators endorse a neuromyth: relationships among educational priorities, beliefs about learning styles, and instructional decisions. Frontiers in Psychology. 2024;15:1407518.
- Aslaksen ほか. The Modality-Specific Learning Style Hypothesis: A Mini-Review. Frontiers in Psychology. 2018;9:1538.
- Clinton-Lisell ほか. Is it really a neuromyth? A meta-analysis of the learning styles matching hypothesis. Frontiers in Psychology. 2024;15:1428732.
- Hattie ほか. Learning Styles, Preferences, or Strategies? An Explanation for the Resurgence of Styles Across Many Meta-analyses. Educational Psychology Review. 2025;37(2):31.
- Rogowsky ほか. Providing Instruction Based on Students’ Learning Style Preferences Does Not Improve Learning. Frontiers in Psychology. 2020;11:164.
- Lyle ほか. Matching learning style to instructional format penalizes learning. Computers and Education Open. 2023;5:100143.
通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。
- 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
- 向く人: 通塾の日だけ机に向かい、ほかの日の学習習慣が続かないことを、授業の中で一緒に組み直したい家庭
- 向かない人: 英検や内申の結果を、通う回数を増やすことだけで変えたいと考えている家庭
- 向かない人: 一人の講師と向き合うより、大勢と競い合いながら速い進度で先へ進みたい人
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よくある質問
図を見るのが好きという子の言葉は、尊重してよいですか
好みを伝えた言葉そのものを否定する理由はありません。前の節で分けたように、好きという返事は本人の受け止めであり、授業後に何を説明できるかとは異なる情報です。気に入っている形式で学べた内容と、まだ助けが要る箇所は同時に存在します。好みを大事にすることと、困っている内容を具体的に知ることは両立します。
型を使う講師なら、その授業を避けるべきですか
型という言葉を使っただけで、授業の中身全体は決まりません。教育者の授業案の選択を扱った節では、信念のほかに実務や生徒の意欲など、複数の理由があることを取り上げました。見学の節にある、説明を切り替える場面や子の理解を確かめる場面が、授業を検討する際の具体的な対象です。講師への評価と、用語への賛否を一緒にしない考え方です。
好みに合わない教材で困ったら、続ける意味はありますか
不一致という分類に、苦手な形式を続ければよいという指示は含まれていません。生物教材の実験での一致や不一致は、あらかじめ定めた好みと形式の組み合わせを指しています。手順の節で扱ったように、読む負担や説明のわかりにくさは、それ自体が見直す対象です。型に合わせることへの疑問と、子が実際に困っていることへの配慮は、別々に扱えます。