- 遺伝率が表すのは集団内の違いであり、個人の点数の内訳ではありません。
- 学ぶ環境が似ているほど、残る違いに遺伝の割合が大きく表れることがあります。
- 通塾の判断では、集団の数値より、本人がどの課題で困っているかを確かめます。
遺伝率とは何か|成績は生まれつきか通塾で変わるかを整理するQ&A
三者面談で苦手な教科の話になったとき、自分も同じ教科で苦労した記憶が浮かぶことがあります。「親に似たのなら、塾に通っても変わらないのでしょうか」と考える保護者もいるでしょう。遺伝率が高いことは、勉強しても成績が変わらないという意味ではありません。遺伝率は、集団の中のばらつきのうち、遺伝の違いで説明できる割合を指します。子の将来を決める数値として読む前に、誰と誰を比べ、何の違いを説明した数字なのかを押さえると、面談で話し合う内容も具体的になります。
要点
- 遺伝率が表すのは集団内の違いであり、個人の点数の内訳ではありません。
- 学ぶ環境が似ているほど、残る違いに遺伝の割合が大きく表れることがあります。
- 通塾の判断では、集団の数値より、本人がどの課題で困っているかを確かめます。
遺伝率は、成績の何割が生まれつきかを示すのですか
個人の成績の何割が遺伝で決まる、という意味ではありません。双子研究は、遺伝的な似方の異なる双子どうしで、測った特性の似方を比べる研究です。そこから推定するのは、その集団で見られる個人差を、遺伝や環境の違いがどれほど説明するかです。答案の点数を、遺伝で取った点と努力で取った点に分ける計算ではありません。
Polderman ほか(2015)のメタ分析(複数の研究の結果をまとめて計算し直す方法)では、人の特性全体で報告された遺伝率は49%でした。これは学力だけの値ではなく、幅広い特性をまとめた結果です。一方、英国の双子を調べたKrapohl ほか(2014)では、義務教育修了試験の英語・数学・理科の平均点の遺伝率は62%でした。著者は、成績の遺伝率には知能だけでなく、性格や自分ならできるという見方など、遺伝の影響を受けるさまざまな特性が関わると結論づけています。
環境が整うと、遺伝率は低くなるのですか
環境が整うことと、遺伝率が下がることは同じではありません。英国の双子を追ったKovas ほか(2013)では、小学校の早い時期の読み書きと算数は、知能より遺伝率が高いという結果でした。研究者は、広く行き渡った学校教育が環境の差を縮めるため、残る個人差では遺伝の違いが占める割合が大きくなると説明しています。教育が働いているからこそ遺伝率が高く見える、という読み方です。
米国の幼い双子を調べたTurkheimer ほか(2003)では、貧しい家庭でのIQ(知能検査の得点)のばらつきは、家族で共有する環境の寄与が大きく、遺伝の寄与はほぼゼロでした。豊かな家庭では、ほぼ逆の結果でした。ただし、家庭の経済状況との関係を国をまたいでまとめたTucker-Drob ほか(2016)では、米国で見られた傾向は西欧やオーストラリアではゼロか逆でした。家庭の豊かさだけで一律に読める数値ではなく、教育や医療を受ける条件を含む社会の違いにも目を向ける結果です。
学校で学ぶと変わるなら、塾の効果もわかりますか
学校教育を受けた年数の違いから、学ぶことによる変化を調べた研究があります。Ritchie ほか(2018)は、制度などによる教育年数の違いを利用して因果関係に近づく準実験研究をまとめました。教育を1年多く受けることによって、IQが約1〜5点上がる効果が見られました。比べたのは学校教育の年数で、塾に通った子と通わなかった子ではありません。
研究を読むときには、数値の大小より先に、答えようとしている問いを区別します。遺伝率を調べる研究は、ある集団の中にある違いを説明します。教育の効果を調べる研究は、受ける教育の条件による変化を検討します。家庭で知りたい問いがどちらに近いかは、次のように分けられます。
| 知りたいこと | 比べるもの | 数値の読み方 |
|---|---|---|
| 集団の中で成績が異なる理由 | 双子の遺伝的な似方と成績の似方 | 個人差を説明する割合 |
| 学校教育で知能検査の得点が変わるか | 受けた学校教育の年数 | 教育による得点の変化 |
| 今の子にどんな支えが要るか | 本人の答案・解き方・困っている場面 | 次に確かめる学習内容 |
通塾を考える前に、家庭では何を確かめますか
親の得意不得意から子の上限を考えるより、今の答案を子と一緒に開くところから始めます。問題文の意味で止まったのか、解き方を思い出せなかったのか、途中の計算で間違えたのかを聞きます。同じ低い点数でも、説明してほしい部分は違います。本人が言葉にしにくいときは、解いた順をたどってもらう形でも確かめられます。
家庭での確認には、次の項目を使えます。すべてを一度に直す課題にせず、次の学習で確かめる内容を選びます。三者面談でも、苦手という評価に加えて、実際に止まった箇所を示すと話題を絞れます。
通塾を考えるなら、この記録をもとに、どの内容をどのように教えてもらいたいかを言葉にします。子がすでに自力で進められる部分も、支えが要る部分と一緒に残します。判断の出発点に置けるのは、家族の得意不得意についての印象より、本人の解き方の記録です。
よくある質問
親が数学を苦手だったら、子も同じですか
親の苦手だった教科だけで、子の成績の行方は決まりません。本人が問題のどこで止まるかを聞くと、家族との似方より具体的な学習の相談ができます。
遺伝率の残りは、努力で変えられる割合ですか
残りを、その子が努力で動かせる割合と読むのは誤りです。遺伝率もその残りも集団内のばらつきについての説明で、本人の努力の量や成果を配分した数字ではありません。
伸びが遅いときは、生まれつきだと判断できますか
伸びの速さだけから、原因を遺伝に決めることはできません。学んだ内容と試験の出題、説明を受けた箇所と自力で解けた箇所を並べれば、次に見直す内容を具体化できます。
この記事の限界
比べた相手は、遺伝的な似方の異なる双子や、学校教育の年数が異なる人です。双子研究の多くは英国・米国などの調査で、日本の双子の学力研究は含めていません。ここで挙げた双子研究には、通塾で成績がどれだけ変わるかを測ったものはありません。
家庭の条件や教育制度が違えば、集団内で遺伝と環境が占める割合も変わります。遺伝率は集団についての数値であり、一人の子の成績の行方を示す数値ではありません。
参考文献
- Polderman ほか. Meta-analysis of the heritability of human traits based on fifty years of twin studies. Nat Genet. 2015;47(7):702-709.
- Krapohl ほか. The high heritability of educational achievement reflects many genetically influenced traits, not just intelligence. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014;111(42):15273-15278.
- Kovas ほか. Literacy and numeracy are more heritable than intelligence in primary school. Psychol Sci. 2013;24(10):2048-2056.
- Turkheimer ほか. Socioeconomic status modifies heritability of IQ in young children. Psychol Sci. 2003;14(6):623-628.
- Tucker-Drob ほか. Large Cross-National Differences in Gene × Socioeconomic Status Interaction on Intelligence. Psychol Sci. 2016;27(2):138-149.
- Ritchie ほか. How Much Does Education Improve Intelligence? A Meta-Analysis. Psychol Sci. 2018;29(8):1358-1369.
通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。
- 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
- 向く人: 通塾の日だけ机に向かい、ほかの日の学習習慣が続かないことを、授業の中で一緒に組み直したい家庭
- 向かない人: 英検や内申の結果を、通う回数を増やすことだけで変えたいと考えている家庭
- 向かない人: 一人の講師と向き合うより、大勢と競い合いながら速い進度で先へ進みたい人
このサイトは武蔵野個別指導塾の運営者が制作しています。武蔵境駅から徒歩30秒、講師が一人の生徒に付きっきりの完全1対1で、大学教員や東京大学・早稲田大学・慶應義塾大学の大学院生などが教えます。アルバイト講師はいません。
よくある質問
親が数学を苦手だったら、子も同じですか
親の苦手だった教科だけで、子の成績の行方は決まりません。本人が問題のどこで止まるかを聞くと、家族との似方より具体的な学習の相談ができます。
遺伝率の残りは、努力で変えられる割合ですか
残りを、その子が努力で動かせる割合と読むのは誤りです。遺伝率もその残りも集団内のばらつきについての説明で、本人の努力の量や成果を配分した数字ではありません。
伸びが遅いときは、生まれつきだと判断できますか
伸びの速さだけから、原因を遺伝に決めることはできません。学んだ内容と試験の出題、説明を受けた箇所と自力で解けた箇所を並べれば、次に見直す内容を具体化できます。