- 幼児や小学生を対象に、授業に関係のない掲示が注意を引き、学習を妨げた実験があります。
- 掲示を見ること自体が悪いのではなく、授業に関係する情報を見て学習が良くなった研究もあります。
- 慣れを待つだけで解決するとは限らず、何もない壁が最善とも決まっていません。
- 家庭では、今の単元に使う紙を選び、それ以外を座ったときの視界から移す方法を試せます。
壁に貼り紙が多い部屋で集中できるか|教室の飾りと子どもの注意の研究
部室の壁に並ぶ目標や予定表を思い浮かべると、貼り紙には気持ちを支えたり、必要なことを知らせたりする役割があります。「家でも壁に予定や覚えたい言葉を貼ったら、勉強中に気が散るのでしょうか」という疑問も出てきます。部室で掲示を眺めた後に勉強へ切り替えるなら、応援の言葉と問題を解くための資料は役割が違うと考えられます。壁の飾りが多いと注意がそれ、学習が下がった実験はありますが、今の学習に関係する掲示は助けになるため、枚数だけで良し悪しは決まりません。
予定表、好きな作品のポスター、授業で使う図は、同じ紙でも見る目的が違います。保護者が覚えてほしいと思って貼った紙と、子どもが問題を解く途中で実際に使う紙も、区別して考える必要があります。研究を読む際も、飾りを全部外した比較なのか、授業に関係する絵に変えた比較なのかで、受け取る意味が変わります。家庭で試すなら、部屋全体の片づけより先に、座った姿勢で正面に見える紙の役割を子どもと確かめるところから始められます。
要点
- 幼児や小学生を対象に、授業に関係のない掲示が注意を引き、学習を妨げた実験があります。
- 掲示を見ること自体が悪いのではなく、授業に関係する情報を見て学習が良くなった研究もあります。
- 慣れを待つだけで解決するとは限らず、何もない壁が最善とも決まっていません。
- 家庭では、今の単元に使う紙を選び、それ以外を座ったときの視界から移す方法を試せます。
飾りの多い壁で、何が変わったのか
Fisher ほか(2014)は、幼稚園児が理科を学ぶ実験用の教室で、壁の飾りが多い条件と、飾りを取り除いた条件を比べました。飾りが多いと、子どもは周囲に気を取られ、課題から外れる時間が長くなりました。授業で学んだ内容の伸びも、飾りを外した条件より小さい結果でした。見た目が楽しそうな教室でも、授業中にどこへ注意が向くかは別に確かめる必要があると読めます。
小学生の授業動画を使ったHanley ほか(2017)は、背景に掲示物が多い動画と、掲示物のない動画を比べています。視線を測ると、掲示物は子どもの注意を引き、掲示物の多い授業で学習の得点が低くなりました。対象には自閉スペクトラム症の子も含まれ、掲示物へ注意が向く傾向はその子たちでより強く見られました。これは子どもの努力の評価ではなく、同じように授業を受ける際にも背景の見え方が関わるという結果です。
Rodrigues と Pandeirada(2018)は、8〜12歳の64人が、周りの視覚刺激の多い部屋と少ない部屋で注意と記憶の課題を行う比較をしました。視覚刺激とは、目に入ってくる色や形などの情報です。この比較では、刺激の少ない部屋の方が課題の成績が良くなりました。授業内容を学ぶ実験とは測ったものが違うので、ここでは注意や記憶の課題に表れた差として受け取ります。
これらの結果に接したとき、子どもに動かず前を見続けることを求めるのは、検討すべき点を取り違えます。変えたのは子どもの性格や意欲ではなく、周りに見えるものです。家庭でも、手が止まるたびに声をかける前に、そのとき何を見ていたのかを一緒に振り返る方が、壁の見直しにつながります。
掲示に目が向くことと、内容を学ぶことを分ける
Godwin と Fisher(2026)は、米国の幼稚園児23人について、授業から注意がそれている間に掲示物を覚えているかを調べました。課題から外れている時間が長い子ほど、壁の掲示物をよく覚えていました。その一方で、授業内容の学習の成績は低くなっていました。「何も見ていなかった」というより、授業以外のものを覚えていたという関連が示されています。
この違いは、家庭での声のかけ方を考える材料になります。たとえば問題を解いている途中で壁を見ていたなら、どの紙を見ていたかを尋ねます。予定を確かめていたのか、問題に必要な図を探していたのかでは、次に取る対応が違います。視線が教科書から離れたという理由だけで、すべてを「集中していない」とまとめない扱いが必要です。
目を向けた先と、取り組んでいた問題とのつながりを確かめると、紙の役割を具体的にできます。計算の途中で解き方の例を見たなら、どの部分が手掛かりになったかを聞けます。反対に、無関係な予定を読んでいたなら、その予定を勉強中も正面に置く必要があるかを相談できます。ここでの家庭への提案は、研究の結果を本人の行動に決めつけて当てはめるためでなく、移す紙を選ぶためのものです。
保護者の側にも、貼った目的を説明する余地があります。忘れ物を防ぐための予定表なら、勉強中に読み続けることが目的ではないはずです。支度の際に見やすい場所へ移せば、紙を使う目的を残したまま、机の前の掲示を変えられます。外すことを捨てることと同じにせず、使う場面に合わせて置き直す発想です。
学習に関係する掲示は、残す理由がある
King と Markant(2022)は、幼児に理科の動画授業を見せ、画面の周りに授業と関係する絵と関係のない絵を置きました。子どもは関係する絵をより長く見ており、その絵をよく見た子ほど学習が良い結果でした。研究者は、周囲の情報の影響は、内容と学習の目標との関係や、必要な情報を選んで見る力によって変わると説明しています。視線を教材の外へ動かすことにも、学ぶための役割があり得ます。
Ríos-López ほか(2026)は、平均8.5歳の36人について、授業に関係する飾り、関係のない飾り、何もない壁を比べました。学習が最も良かったのは、授業に関係する飾りがある条件でした。関係のない飾りと何もない壁では、学習は同程度でした。飾りがあるだけで学習が下がるとは限らず、この比較では掲示の内容を選ぶ意味が表れています。
以下の表は、これまでの研究を、何を変えて比べたかで並べたものです。結果を読む際は、飾りの有無だけを見る実験と、内容との関係まで変える実験を区別します。家庭の壁を考えるときにも、紙があるかどうかに加え、今解いている問題に使う情報かどうかを点検できます。
| 研究 | 比べた相手 | 対象・測ったこと | 読み取れる点 |
|---|---|---|---|
| Fisher ほか(2014) | 飾りの多い壁と取り除いた壁 | 幼稚園児の注意と理科の学習 | 授業中に見える飾りの量を検討する材料 |
| Hanley ほか(2017) | 背景に掲示物が多い動画とない動画 | 小学生の視線と授業後の学習 | 背景へ向く注意も点検する材料 |
| King と Markant(2022) | 授業に関係する絵と関係のない絵 | 幼児の視線と理科の学習 | 掲示の内容と学習目標とのつながりが重要 |
| Ríos-López ほか(2026) | 関係する飾り、関係のない飾り、何もない壁 | 小学生の注意と学習 | 掲示を一律に外す方針を見直す材料 |
慣れるのを待つだけにも、全部外すことにも難点がある
Godwin ほか(2022)が慣れを調べた研究では、幼稚園児が飾りの多い教室で過ごすうちに、掲示物へ向く注意は減りました。それでも、2週間後にも周りの環境は課題から注意がそれる原因であり続けました。同じ論文で行った実際の教室の観察でも、慣れの証拠は見られませんでした。「いつも同じ紙だから、もう気にならないはずです」と保護者だけで判断せず、本人の様子を見て考える材料になります。
同じ年の別の研究で、Godwin ほか(2022)は、教室の写真58点を分析し、子どもの課題への集中との関係を調べました。目に入るものが雑然としていたり、色のばらつきが大きかったりする教室では、集中が低い傾向でした。掲示物の量については、多い教室だけでなく少ない教室でも、集中が低くなっていました。こちらは環境を変えずに関係を調べる観察研究なので、壁を空にした結果を測った実験とは区別します。
家庭で全部外す方針が向きにくいのは、学習中に必要な図や手順を実際に参照している子です。どこを見れば手掛かりがあるかを本人が説明できるなら、外す前に用途を聞く理由があります。保護者が見てすっきりすることと、本人が必要な情報を使えることは、別の判断項目です。紙を減らす場合も、今使っているものを勝手に処分せず、移す先を本人と決めます。
反対に、壁の絵や文字を追って問題へ戻りにくい子には、まず無関係な紙を正面から移す試し方があります。予定表を読みにくい位置へ押し込むのではなく、予定を確かめるときには見られる場所を選びます。好きなポスターも、好きであることを否定する必要はありません。学習に使う情報と楽しむための情報で、置く場所を変える提案です。
子どもの困り方を聞き、壁だけで説明しない
掲示が気になるという話をするときは、子どもを分類するより、どの紙のどの部分が気になるかを聞きます。文字が目に入るのか、絵の続きを眺めるのか、必要な情報を探すのに困るのかを、本人の言葉で確かめます。書くのに時間がかかる子が手を止めていても、壁を見ていたとは限りません。観察した行動と保護者の推測を混ぜず、紙の位置を変える理由を共有します。
Dargue ほか(2022)は、自閉スペクトラム症の子の学習への取り組みについて、部屋の環境を変える研究をまとめた系統的レビューを行いました。系統的レビューとは、決めた条件で研究を集めて検討する方法です。条件に合った10研究のうち8研究は、個別の少人数の事例で効果を調べる方法でした。研究者は、環境の変更が取り組みを助けるかを判断するには、さらに質の高い証拠が必要だと結論づけています。
そのため、診断名だけを理由に掲示の扱いを一律に決めず、本人がどのように見て使っているかを出発点にします。家庭で紙を移す際も、「これを外せばできるはずです」と成功を約束する必要はありません。「今使っている紙を見つけやすくするために置き方を変えます」と、目的を具体的に伝えられます。変えた後に使いにくいと言われたら、元に戻せる方法にしておきます。
教室での困り方について相談するなら、家庭で本人が話したことと、実際に目にした行動を分けて伝えます。たとえば「宿題中に正面の予定表を読んで、問題へ戻るところで迷っていました」と説明すれば、見た場面が伝わります。学校の先生には、教室ではどの掲示を学習に使っているかを尋ねられます。家庭の壁を減らしたことを理由に、教室の掲示も同じように減らすよう求める必要はありません。
机の正面を、今使う紙から組み直す
家庭での見直しは、子どもが普段の姿勢で座り、正面に何が見えるかを確かめるところから始めます。立って部屋を眺めたときの印象ではなく、問題を解く姿勢で見える範囲を対象にします。そのうえで、貼ってある紙を「今やっている単元に関係するもの」と「それ以外」に分けます。保護者が勉強に役立つと思う紙でも、今の課題で使っていなければ、いったん後者として置き場所を考えます。
- 座った姿勢で見える紙について、今の問題のどこで使うかを本人に聞きます。
- 今の単元に使う図や手順は、必要な部分を本人が指せるか確かめます。
- 予定表や別の単元の紙は、使う場面で見られる別の場所へ移します。
- 移した紙は保管し、必要になったときに戻せるようにします。
- 学習後は、見たい紙を探しやすかったか、関係のない紙が気になったかを聞きます。
たとえば理科の図を残すなら、図が問題の説明とどうつながるかを本人に示してもらいます。何が書いてあるかをまだ読めていない紙なら、貼る場所の前に、その紙を使う必要があるかを相談できます。見えにくい文字を無理に壁へ集めず、使うときに手元へ持ってくる方法も選べます。掲示のために新しく整った紙を作り直すことを、子どもの追加の課題にする必要はありません。
貼り替えた後は、終わった問題を確かめることと、壁の使いやすさを聞くことを分けます。問題が難しくて止まったのか、紙を見て本題へ戻りにくかったのかを区別するためです。長く座れたという印象だけで決めず、本人が困った箇所や使った紙について話せる形にします。役立っていた紙まで外してしまったなら、戻すことも見直しの一部です。
壁を整える目的は、保護者が決めた見た目を守らせることではなく、子どもが今の学習に必要な情報を使えるようにすることです。単元が変われば、残す紙を選び直す理由もできます。来週の家庭学習では、今の単元に使わない紙を子どもと選び、机の正面から移してみます。
よくある質問
勉強に関係するポスターなら、ずっと貼っておいてよいですか
教科に関係していても、今解いている問題に使うかどうかを確かめます。漢字や地図などの紙でも、学習中にどこを参照するのかを本人が示せれば、残す理由が具体的になります。今は使わない紙は保管し、必要な単元で戻す方法があります。貼ってあること自体を覚えた証拠にせず、学んだ内容の確認は問題や説明を通じて別に行います。
好きなポスターを外したくないと言われたら、どうしますか
好きなものを置いておきたい気持ちを否定せず、学習中の見え方について相談します。捨てるか残すかの話にせず、座ったときの正面から移す場所を一緒に選べます。自分の大切なものが勝手に処分されないと伝えたうえで、試した後に戻す選択も残します。実際に気になっていない場合まで、ポスターを勉強が進まない原因と決めつける必要はありません。
何枚までなら集中できますか
一律の上限を決めるより、紙の内容と使う場面で判断します。本文で紹介した比較も、飾りの有無、授業との関係、周囲の雑然さなど、着目した条件が違います。枚数を守ったかだけを点検すると、必要な図を外したり、使わない紙を残したりすることがあります。本人が使う箇所を説明できる紙から残し、必要に応じて貼り替える方法が家庭では取り組みやすいです。
この記事の限界
比べた相手は、飾りを外した壁、学習に関係する掲示、関係のない掲示などで違い、掲示物の量だけを共通の条件として比べた研究群ではありません。注意を引くという報告の多くには同じ研究グループが関わり、参加者が数十人規模の研究も多いため、独立した追試の蓄積が必要です。
対象は幼児や小学生が中心で、中学生・高校生、日本の教室、家庭の壁の貼り紙についての効果は、この研究群からは言えません。家庭で紹介した貼り替えは、本人の使いやすさを確かめる提案であり、成績の改善が実証された手順とは区別する必要があります。困りごとが続く場合は、家庭で見られた具体的な様子を学校の先生と共有し、掲示物以外の学習上の事情も含めて相談することが大切です。
参考文献
- Fisher AV, Godwin KE, Seltman H. Visual environment, attention allocation, and learning in young children: when too much of a good thing may be bad. Psychological Science. 2014;25(7):1362-1370.
- Hanley M, Khairat M, Taylor K. Classroom displays—Attraction or distraction? Evidence of impact on attention and learning from children with and without autism. Developmental Psychology. 2017;53(7):1265-1275.
- Rodrigues PFS, Pandeirada JNS. When visual stimulation of the surrounding environment affects children’s cognitive performance. Journal of Experimental Child Psychology. 2018;176:140-149.
- Godwin KE, Fisher AV. Inattention and the Classroom Visual Environment: Evidence of Incidental Learning. Mind, Brain, and Education. 2026;20(1):e70040.
- Godwin KE, Leroux AJ, Seltman H. Effect of Repeated Exposure to the Visual Environment on Young Children’s Attention. Cognitive Science. 2022;46(2):e13093.
- Godwin KE, Leroux AJ, Scupelli P. Classroom Design and Children’s Attention Allocation: Beyond the Laboratory and into the Classroom. Mind, Brain, and Education. 2022;16(3):239-251.
- Ríos-López P, Selezneva E, Schmitt A. Maximizing learning: Lesson-related wall decorations support learning while unrelated decorations do not hinder it. Developmental Psychology. 2026;62(2):462-474.
- King J, Markant J. Selective attention to lesson-relevant contextual information promotes 3- to 5-year-old children’s learning. Developmental Science. 2022;25(4):e13237.
- Dargue N, Adams D, Simpson K. Can Characteristics of the Physical Environment Impact Engagement in Learning Activities in Children with Autism? A Systematic Review. Review Journal of Autism and Developmental Disorders. 2022;9(2):143-159.
通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。
- 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
- 向く人: 通塾の日だけ机に向かい、ほかの日の学習習慣が続かないことを、授業の中で一緒に組み直したい家庭
- 向かない人: 英検や内申の結果を、通う回数を増やすことだけで変えたいと考えている家庭
- 向かない人: 一人の講師と向き合うより、大勢と競い合いながら速い進度で先へ進みたい人
このサイトは武蔵野個別指導塾の運営者が制作しています。武蔵境駅から徒歩30秒、講師が一人の生徒に付きっきりの完全1対1で、大学教員や東京大学・早稲田大学・慶應義塾大学の大学院生などが教えます。アルバイト講師はいません。
よくある質問
勉強に関係するポスターなら、ずっと貼っておいてよいですか
教科に関係していても、今解いている問題に使うかどうかを確かめます。漢字や地図などの紙でも、学習中にどこを参照するのかを本人が示せれば、残す理由が具体的になります。今は使わない紙は保管し、必要な単元で戻す方法があります。貼ってあること自体を覚えた証拠にせず、学んだ内容の確認は問題や説明を通じて別に行います。
好きなポスターを外したくないと言われたら、どうしますか
好きなものを置いておきたい気持ちを否定せず、学習中の見え方について相談します。捨てるか残すかの話にせず、座ったときの正面から移す場所を一緒に選べます。自分の大切なものが勝手に処分されないと伝えたうえで、試した後に戻す選択も残します。実際に気になっていない場合まで、ポスターを勉強が進まない原因と決めつける必要はありません。
何枚までなら集中できますか
一律の上限を決めるより、紙の内容と使う場面で判断します。本文で紹介した比較も、飾りの有無、授業との関係、周囲の雑然さなど、着目した条件が違います。枚数を守ったかだけを点検すると、必要な図を外したり、使わない紙を残したりすることがあります。本人が使う箇所を説明できる紙から残し、必要に応じて貼り替える方法が家庭では取り組みやすいです。