- 宿題の種類を選べる単元で、意欲と単元テストの成績が良くなった実験があります。
- 同じ物語でも、選べたと感じる条件で読解と楽しさが高まった実験があります。
- 態度や努力が良くなっても、課題のできが良くならない研究があります。
- 学習ソフトで選べる範囲を増やした研究の集計では、全体の効果はほぼゼロでした。
- 興味に関係しない選択肢や、複雑で多すぎる選択肢は意欲を下げうると論じられています。
宿題を子に選ばせるとやる気は出るか|選ぶ機会と意欲の研究と保護者
夏休みの宿題の一覧を前に、子どもの指が読書と調べ学習の欄を行き来しています。Fridkin ほか(2025)が調べた児童は110人で、同じ物語でも「選べた」と感じる条件では、割り当てられる条件より読解と楽しさが高まりました。宿題も子に選ばせれば、取りかかる気持ちだけでなく成績まで良くなるのでしょうか。選ぶ機会は意欲を高めやすいものの、成績への効果は課題と選択の中身で変わります。
自分で決めた課題なら最後まで取り組んでほしい、という期待は自然です。ただ、楽しそうに始めたことと、内容を理解して解けるようになったことは別の変化です。研究にも、気持ちと課題のできがそろって良くなった例と、態度や努力だけが良くなった例があります。何を選べたのか、選べない側は何をしたのかを区別すると、結果が食い違う理由を具体的に読めます。
「選ばせる」という言葉には、宿題の種類を決めること、本を選ぶこと、画面上の学習の進め方を変えることが含まれます。それぞれの比較では、本人が決められる範囲も、学んだ後に測るものも違います。選択の有無だけに注目せず、楽しさ・取り組み・理解を分けると、宿題をめぐる期待の置き方が見えてきます。
要点
- 宿題の種類を選べる単元で、意欲と単元テストの成績が良くなった実験があります。
- 同じ物語でも、選べたと感じる条件で読解と楽しさが高まった実験があります。
- 態度や努力が良くなっても、課題のできが良くならない研究があります。
- 学習ソフトで選べる範囲を増やした研究の集計では、全体の効果はほぼゼロでした。
- 興味に関係しない選択肢や、複雑で多すぎる選択肢は意欲を下げうると論じられています。
子供のやる気と選択を、宿題の単元で比べる
「自分で選んだのだから進んで取り組むはず」という見方を、宿題で直接試したのがPatall ほか(2010)です。同じ学級の中で、宿題の種類を選べる単元と選べない単元を無作為に割り振り、次の単元で条件を入れ替えました。無作為とは、本人や教員の好みで割り当てが偏らないよう、くじ引きのように決めることです。選ぶのが好きな生徒だけが選択のある学習に集まる比較とは、実験の組み立てが違います。
選択肢がある単元では、宿題への内発的動機づけ、つまり楽しさや興味から取り組む気持ちが高くなりました。有能感という、自分にもこの課題ができるという感覚も高まり、単元テストの成績も良好でした。本人の気持ちを尋ねただけでなく、学習内容を試験で確かめた結果がそろっています。選択を与えることが、宿題への構えとその単元の学習成果をともに支えた例です。
一方、提出率が上がったという結果は、確かな改善ではなく「傾向」として報告されています。楽しさ、自信、テストのでき、提出という行動は、同じ研究の中でも証拠の強さがそろっていません。宿題への意欲が高まったという結果を、そのまま未提出がなくなるという話に広げると、研究の報告より強い説明になってしまいます。提出まで含めてすべてが改善した、とまとめない読み方が求められます。
この比較の単位は、選択を取り入れた単元です。学校全体の制度を変えた比較でも、もともと自主的に勉強する生徒とそうでない生徒を比べた調査でもありません。抄録には人数・学年・国や効果量が記載されておらず、良くなった方向は読めても、その差の大きさを他の研究と数で比べる材料は限られます。
同じ物語でも「選べた」という受け止めが違う
Fridkin ほか(2025)は、小学3年生に物語を割り当てる条件と、物語を選べたと感じさせる条件を比べました。実際に読む物語は同じで、児童は条件を入れ替えて経験しました。この方法には、選んだ側に偶然おもしろい物語が集まっただけではないか、という疑問を切り分ける意味があります。教材そのものの違いを抑えて、選択の受け止めに注目した比較です。
Fridkin ほか(2025)では、選べたと感じる条件で読解の点はd = 0.52、報告された楽しさはd = 0.23の効果がありました。効果量とは、結果の差を得点のばらつきを物差しにして表した数で、ここではdという記号を使います。これはテストの点がその数字だけ上がったという意味ではありません。同じ読解課題について、内容の理解と楽しさを別々に測った結果です。
選択の効果は、好きな教材にたどり着くことだけで説明されるとは限りません。この実験では、物語を変えなくても、選べたという受け止めの違いに伴って結果が変わりました。研究者は、選択によって引き起こされるその場の興味が、読む楽しさを高める可能性を挙げています。自分で決めた感覚に注目する説明であり、子どもの性格そのものが変わったという説明ではありません。
本そのものを選ぶ研究として、Bains ほか(2026)は、本やジャンルを選べる場合の読書への意欲を調べています。選べる条件では読書の楽しさが高まり、研究者は読み書きの学習に選択を取り入れる意義を述べています。こちらの中心は楽しさという意欲の指標で、読む力や成績を測った結果ではありません。同じ読書の研究でも、理解まで測った前の実験と、意欲を測ったこの実験では、答えている問いが異なります。
楽しさが上がっても、出来は同じことがある
Flowerday ほか(2003)は、大学生を対象に、選択が課題への取り組みにどう関わるかを調べました。選択は態度と努力を良くしましたが、課題のできには良い効果がありませんでした。短い時間の選択でも気持ちの面は変わる、というのが著者の結論です。この結果は、意欲の改善と学習成果の改善が別々に動く例として読めます。
努力が増えたという結果は、それ自体が無意味なのではありません。ただ、態度や努力の指標に変化があっても、その課題で求める理解や表現の質が同じなら、成績が上がったとは扱えません。学習に向かう気持ちを尋ねる測定と、実際の答案を評価する測定は、違う面を捉えています。選択の効果を「あり」「なし」だけで並べると、この差が消えてしまいます。
Flowerday ほか(2004)は、選択、題材への興味、読んでいる最中に生じる興味を区別して実験しました。選ばせない群のほうが内容に関する作文の質が高かった実験があり、別の実験では選択の効果がありませんでした。読みへの取り組みを支えていたのは、文章そのもののおもしろさによる、その場の興味でした。題材を前から好きであることと、目の前の文章を読んでおもしろいと感じることも区別しています。
| 比較した研究 | 選ぶ側と比べた相手 | やる気・取り組みの結果 | 成績・課題の出来の結果 |
|---|---|---|---|
| Patall ほか(2010)の宿題 | 宿題の種類を選べない単元 | 意欲と有能感が高い | 単元テストが良好 |
| Fridkin ほか(2025)の読解 | 同じ物語を割り当てられる条件 | 楽しさが高い | 読解が良好 |
| Bains ほか(2026)の読書 | 本やジャンルを選べない条件 | 楽しさが高い | 学力は測定対象外 |
| Flowerday ほか(2003)の大学生の課題 | 選択のない条件 | 態度と努力が良好 | 良い効果なし |
| Flowerday ほか(2004)の読み | 選択のない条件 | 文章自体の興味が重要 | 選択の効果はなし、または小さな負 |
学習ソフトで自由に進める効果は小さい
Karich ほか(2014)は、学習ソフトで学ぶ人が順番・進み方・内容を選べる「学習者制御」を検討しました。これは、教材側が進め方を決める条件と、学ぶ側に決める範囲を与える条件の比較です。メタ分析という、複数の研究の結果をまとめて計算し直す方法を用いています。紙の宿題の種類を選ばせた実験とは、選択する対象も学習の環境も違います。
Karich ほか(2014)が採用したのは18論文で、29の効果量を計算した全体の結果はg = 0.05でした。gも差の大きさをばらつきに照らして示す効果量の記号で、この値はほぼゼロと報告されています。行動面への効果は学業の成果への効果より大きかったものの、どちらも小さい結果でした。選べる仕組みを用意するだけで学習成果が大きく改善する、という期待を支える集計ではありません。
同じ分析でも、社会科・歴史と包括的なプログラムでは中程度の効果が報告されています。全体の平均が小さいことと、条件別に違いがあることは両立します。逆に、効果が大きかった条件だけを取り出して、どの教材も自由に進めるほうが良いと説明するのも不適切です。研究の中心となる結論は、多くの選択の特徴や授業の条件で、効果がほぼゼロに近かったという点です。
宿題を選ぶ実験では、学ぶべき単元の中で課題の種類を選んでいました。学習ソフトの研究では、内容だけでなく、進め方や順番を学ぶ人に委ねる場合も含みます。どちらにも選択はありますが、本人が判断する範囲が同じではありません。選択のある教材をまとめて同じ方法と呼ぶより、何を決められる設計だったかを確かめると、成績への結果の違いが読みやすくなります。
選択肢の中身が合わないと負担にもなる
Katz ほか(2007)は、選択が意欲を高めるときと、そうでないときの条件を総説で整理しています。総説は、それまでの知見を読み合わせて論点をまとめるもので、この論文は新しく参加者を集めて効果を測った実験ではありません。著者は、自分の意思で行動する感覚や、できそうだという感覚、人とのつながりを重視する自己決定理論から説明しています。選択肢が存在するかだけでなく、本人の求めるものに合っているかを問題にしています。
著者が挙げる条件には、選択肢が本人の興味や目標に関わることがあります。どれを選んでも関心のあることに結びつかないなら、決める機会があっても、自分の意思が生かされた感覚とは離れます。また、選択肢が多すぎたり複雑すぎたりすると、選ぶこと自体が「自分にもできる」という感覚を支えにくくなります。選択が意欲を下げる場合もある、という説明はこのような条件に基づいています。
選択肢の違いをまだ理解しにくい子や、学ぶ目標をつかめていない子には、広い範囲を突然任せる形が合わない可能性があります。これは子どもを固定した性格で分ける話ではなく、課題と判断の負担の組み合わせについての見方です。文章の難しさや活動の違いが見通せない段階では、選ぶために求められる判断も増えます。何を選ぶか説明できる状態と、違いがわからないまま決定を求められる状態では、選択の意味が変わります。
Katz ほか(2007)は、家庭や文化の価値に合うことも条件に挙げています。周囲との関係を保ちながら選べるかという観点で、本人にすべてを任せればよいという説明ではありません。おとなと一緒に考えることと、本人の希望が尊重されることは両立する、と読むことができます。選択の数だけで意欲の変化を説明するのではなく、興味、判断の難しさ、人との関係を含めた理論上の整理です。
家庭で試す手順は、選んだ後の記録まで含める
家庭では、まず取り組む必要のある内容と、本人が選べる範囲を分けます。学校から決められた宿題を勝手に外すのではなく、自由に決められる課題や、追加の練習の題材を選択の対象にします。選択肢は2〜3個に絞り、子の興味に関わる違いが見える形で示します。これは試し方の提案で、この個数が最適だと実験で決まったという意味ではありません。
例えば、同じ読む練習なら、生き物についての文章と道具についての文章から選ぶ形が考えられます。選ぶ前に、それぞれ何を読むのか、読み終わったら何を説明するのかを短く伝えます。すぐに決められないときは、本人の意思が弱いと判断せず、違いの説明を足すか、一緒に中身を見ます。塾で課題を選べる場合も、選べる範囲と共通の学習目標を先に確かめます。
記録には「選んだ文章をすぐに読み始めた」と「理由を尋ねる問題で止まった」のように、行動と理解を別々に書きます。選択のない日と比べるなら、内容の難しさや量も添えると、選んだこと以外の違いに気づけます。できが同じでも取りかかりが楽になったなら、その変化を消さずに記録し、説明や練習の助けは別に考えます。逆に選ぶ段階で疲れているなら、候補を狭めて大人が一緒に決める方法へ戻せます。
選んだ後も困った点を尋ね、選択を理由に手助けを引き揚げないようにします。本人の感想と実際の答案を並べれば、楽しく始められた部分と、教える助けが要る部分を分けて見直せます。Flowerday ほか(2003)の実験では、選択によって態度と努力が良くなっても、課題のできは変わらないままでした。
よくある質問
自分で選んだのに進まないときは、選択が失敗したのでしょうか
進み方だけで、選択の意味がなかったと決める必要はありません。大学生の課題では態度や努力が良くなってもできが変わらず、宿題の実験でも提出率の改善は傾向にとどまりました。選んだ課題への気持ちと、解き方がわかること、提出まで進めることは別々に確かめる対象です。家庭の手順の節にあるように、止まった場所も残すと、選択肢を変えるのか、内容の説明を補うのかを考えやすくなります。
選べたと思わせれば、実際には選ばせなくてもよいですか
同じ物語を使った実験は、教材の違いと選択の受け止めを切り分けるための研究です。その手続きを、子に気づかれないよう決定を誘導するための方法として勧めているわけではありません。実際に決められる範囲を明確にする扱い方なら、本人の希望と課題の条件を確かめられます。実験で得た説明と、日常の親子のやりとりとして採用する方法は区別できます。
楽しく取り組めたら、成績も上がったと見てよいですか
楽しさが増えたという記録は、意欲の変化として扱えます。読書の研究にも、楽しさを測ったものと読解まで測ったものがあり、同じ「効果あり」でも中身が異なります。成績について判断するには、答案や内容の説明など、学んだことを示す結果が別に要ります。前の節の比較表で、やる気の欄と課題のできの欄が分けてあるのも、この違いを残すためです。
この記事の限界
測り方には、本人が答える楽しさや有能感、読解課題の得点、単元テストなどの違いがあり、同じ意欲や成績の物差しで研究全体を比べた結果ではありません。宿題の順番だけを選ばせた研究は今回の範囲になく、Patall ほか(2010)が試したのは、取り組む宿題の種類を選ばせる方法です。読解課題や単元ごとの短い測定が中心で、抄録に国や学年の記載がない研究もあり、日本の小中高生の家庭での確かめが不足しています。
学習ソフトの進み方を選ぶ比較と、読書や宿題の種類を選ぶ比較では、本人に任せる判断の範囲や測定する成果が異なります。保護者が家で選ばせる実験や、何か月も選ばせ続けた成績の追跡は今回の範囲にないため、効果の持続期間は不明です。
参考文献
- Fridkin ほか. The effects of manipulating choice on children’s enjoyment and performance in a reading task. Current Psychology. 2025;44(8):6786-6797.
- Patall ほか. The effectiveness and relative importance of choice in the classroom. Journal of Educational Psychology. 2010;102(4):896-915.
- Bains ほか. Providing choice enhances reading motivation. Quarterly Journal of Experimental Psychology. 2026;79(4):959-970.
- Flowerday ほか. Effect of choice on cognitive and affective engagement. The Journal of Educational Research. 2003;96(4):207-215.
- Flowerday ほか. The role of choice and interest in reader engagement. The Journal of Experimental Education. 2004;72(2):93-114.
- Karich ほか. Updated Meta-Analysis of Learner Control Within Educational Technology. Review of Educational Research. 2014;84(3):392-410.
- Katz ほか. When choice motivates and when it does not. Educational Psychology Review. 2007;19(4):429-442.
通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。
- 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
- 向く人: 通塾の日だけ机に向かい、ほかの日の学習習慣が続かないことを、授業の中で一緒に組み直したい家庭
- 向かない人: 英検や内申の結果を、通う回数を増やすことだけで変えたいと考えている家庭
- 向かない人: 一人の講師と向き合うより、大勢と競い合いながら速い進度で先へ進みたい人
このサイトは武蔵野個別指導塾の運営者が制作しています。武蔵境駅から徒歩30秒、講師が一人の生徒に付きっきりの完全1対1で、大学教員や東京大学・早稲田大学・慶應義塾大学の大学院生などが教えます。アルバイト講師はいません。
よくある質問
自分で選んだのに進まないときは、選択が失敗したのでしょうか
進み方だけで、選択の意味がなかったと決める必要はありません。大学生の課題では態度や努力が良くなってもできが変わらず、宿題の実験でも提出率の改善は傾向にとどまりました。選んだ課題への気持ちと、解き方がわかること、提出まで進めることは別々に確かめる対象です。家庭の手順の節にあるように、止まった場所も残すと、選択肢を変えるのか、内容の説明を補うのかを考えやすくなります。
選べたと思わせれば、実際には選ばせなくてもよいですか
同じ物語を使った実験は、教材の違いと選択の受け止めを切り分けるための研究です。その手続きを、子に気づかれないよう決定を誘導するための方法として勧めているわけではありません。実際に決められる範囲を明確にする扱い方なら、本人の希望と課題の条件を確かめられます。実験で得た説明と、日常の親子のやりとりとして採用する方法は区別できます。
楽しく取り組めたら、成績も上がったと見てよいですか
楽しさが増えたという記録は、意欲の変化として扱えます。読書の研究にも、楽しさを測ったものと読解まで測ったものがあり、同じ「効果あり」でも中身が異なります。成績について判断するには、答案や内容の説明など、学んだことを示す結果が別に要ります。前の節の比較表で、やる気の欄と課題のできの欄が分けてあるのも、この違いを残すためです。