- 前方の学生の成績が高いという観察と、前方へ動かすことで成績が上がるという効果は別です。
- 自由に選んだ席の比較には、意欲など学生自身の違いも含まれます。
- 小さな教室や教員が中央にいる教室では、前後の成績差が出ない研究があります。
- 席を指定する前に、本人が選ぶ理由と、授業中に説明を聞き取れているかを確かめます。
塾の教室で前の席に座ると成績は上がるか|座席の位置と成績の研究
夏休みの授業に持っていく教材を用意しながら、子に前の席を勧めようかと迷うことがあります。今回扱う研究はすべて大学の授業で、そのうちBenedict ほか(2004)の経済学の授業では、後ろを好む学生は実際の座席にかかわらず、低い評価を受ける確率が23ポイント高いという結果でした。数字だけを見ると前に移れば解決しそうですが、測っているのは席の好みと成績の関係です。塾や学校で前に座らせれば、子は集中して成績を上げられるのでしょうか。
席を変えるだけで成績が上がるという証拠は弱く、前を選ぶ学生の意欲の違いが成績差を説明する重要な要素です。 前方の学生の成績が高い研究はある一方で、くじ引きで席を決めた研究では前後の差が出ていません。さらに、教員が前から話す講義室と、中央で学生に関わる教室とでは、同じ「前の席」でも意味が変わります。家庭で座席の希望を話すときは、席順だけで判断せず、子がその場所を選んだ理由と説明の届き方を確かめるところから始められます。
要点
- 前方の学生の成績が高いという観察と、前方へ動かすことで成績が上がるという効果は別です。
- 自由に選んだ席の比較には、意欲など学生自身の違いも含まれます。
- 小さな教室や教員が中央にいる教室では、前後の成績差が出ない研究があります。
- 席を指定する前に、本人が選ぶ理由と、授業中に説明を聞き取れているかを確かめます。
前に座る学生の成績が高いとき、何を比べているのか
前の席には熱心な学生が集まるという見方と、前にいるから勉強が進むという見方は、似ていますが別の説明です。前者では、もともとの学習への姿勢が席の選択にも成績にも関わっています。後者では、座る場所を変えること自体が学習の結果を変えています。前後の学生の点を並べるだけでは、この違いを見落としやすくなります。
Benedict ほか(2004)は、大きな講義室で行う経済学の入門授業について、希望する席と実際に座った席を分けて調べました。前を好む学生は高い評価を受けやすく、後ろを好む学生は低い評価を受けやすい傾向がありました。一方、希望する場所に座れず前方へ移された学生も、後ろを好んでいても成績が高い傾向でした。著者は、座席の好みと実際の位置が、それぞれ成績に関わる別の要素であり得ると結論づけています。
この研究の読みどころは、後ろに座る学生をひとまとめにしていない点です。後ろを選びたかった学生と、別の場所を希望していた学生とでは、同じ席でも選ぶまでの事情が違います。前に移った学生の結果は場所の影響を考える材料ですが、希望が実現しなかった経緯も含めて読む結果です。家庭で子の座席を聞くときにも、位置と理由を別々に聞くという視点が役立ちます。
小さめの授業でも前方が有利だった例として、Vander Schee(2011)は35人未満のマーケティングの授業に参加した大学生373人を調べています。通算の評定平均、つまり複数の授業の成績をまとめた平均には座席による差がありませんでしたが、その授業では最前列の学生が後ろ半分の学生より高い成績でした。前から離れるほど成績が低い傾向は、通算の評定平均が中位の学生で目立ちました。ここでも、どの成績を比べたかを分けることで、結果を具体的に読めます。
くじ引きで座席を決めた研究が問い直すこと
席の効果を考えるうえでは、自分で場所を選ぶ余地をなくした比較が役立ちます。無作為な割り当てとは、くじ引きのように、本人の希望や成績と切り離して組を決める方法です。この方法は、意欲の高い学生だけが前に集まる偏りを避けるために使います。成績が高い学生の居場所を観察する研究とは、答えようとする問いが違います。
Kalinowski ほか(2007)は、大学の生物学の入門授業で、初日にくじ引きで座席を割り当てました。この比較では、前に座った学生が後ろに座った学生よりよい成績を取るという結果はありませんでした。本人が選んだ席で見える成績差が、希望を介さずに決めた席でも現れるかを調べた点に意味があります。席の希望と成績が結びついていても、移動を勧めれば同じ結果が得られるとは限らないことを示す材料です。
Armstrong ほか(2007)も、非常に大きな大学の授業で、座席の位置が成績を左右する証拠を見いだしませんでした。後ろの学生が教員からかなり遠い状況でも、結果は同様でした。観察された成績の違いは、意欲の高い学生が前を選びやすく、前後で学生の構成が偏るという説明に合っていました。この読み方では、後方という場所そのものに低い成績の原因を求めるより、席を選ぶ学生の違いに注目します。
ただし、意欲の違いという集団の説明を、目の前の子の評価に使うのは別の話です。後ろにいることを理由に勉強への気持ちを決めつけると、本人が話す具体的な事情を聞き落とします。自由席なのか、来た順で空いた席に座ったのか、学校の先生や講師が決めたのかでも、同じ位置が表す事情は違います。座席の報告を受け取った時点では、まずその場所になった経緯を聞くところまでにとどめられます。
小さな教室では距離の意味も変わる
前方の成績が高いという結果は、小さな教室では一貫していません。Meeks ほか(2013)は、10年間にわたって集めた大学の商学の総まとめの授業の学生1,138人のデータを分析しました。座席の位置も座席の種類も、成績に統計的に有意な違いをもたらしませんでした。統計的に有意とは、偶然のばらつきだけでは説明しにくい差があると判断することで、この研究ではそのような差が示されなかったという意味です。
LaCroix ほか(2017)は、教員との距離と成績についての研究を振り返るとともに、比較的小さな短期大学の経済学の授業を分析しています。その分析では、席の位置と成績に統計的な関係がありませんでした。著者は、近い席が成績に関わる現象は、大きな教室より小さな教室で起きにくいという見方を支持しています。教室の大きさを無視して、最前列という言葉だけで結果をまとめないことが読み方の要所です。
保護者が知りたいのは席を動かす効果ですが、自由席の記録が直接示すのは、そこに座っていた学生の成績です。この違いを整理すると、肯定的な結果と差の出なかった結果の両方を、比べ方に沿って読めます。下の表では、結果の強弱を順位づけする代わりに、比較の対象を並べています。
| 確かめたいこと | 比べた相手や条件 | 研究で示されたこと |
|---|---|---|
| 席を選ぶ学生の違い | 前後を好む学生と実際の位置 | Benedict ほか(2004)では好みと位置の両方が関わる可能性 |
| 席そのものの効果 | くじ引きで前後に割り当てた学生 | Kalinowski ほか(2007)では前方の有利は見られず |
| 小さな授業内の位置 | 最前列と後ろ半分の学生 | Vander Schee(2011)ではその授業の成績に差 |
| 小さな教室での距離 | 比較的小さな授業の座席どうし | LaCroix ほか(2017)の分析では成績と関係なし |
教員が中央にいると「前」と「後ろ」はどうなるか
教室の形に注目したKregenow ほか(2011)は、教員が前方にいる講義室と、中央にいて学生が机を囲む教室を比べました。講義室では成績の高い学生が前、低い学生が後ろに座る傾向がありました。一方、教員が中央にいる教室では、成績の高い学生が部屋全体に散らばり、前後の差が見られませんでした。座席は学期を通してほぼ固定されており、同じ研究の中でも教室の形で分布が違いました。
この比較から考えられるのは、席を表す言葉だけでは、授業中の位置関係を十分に表せないということです。入口から見て奥でも、教える人がその近くにいれば、説明する人との距離は近くなります。反対に、前方の列でも、講師が説明する場所や向きは授業の進め方によって変わります。子が使う「前」「後ろ」という言葉を聞いたら、教える人がどこにいるのかも合わせて確かめると、場面が具体的になります。
家庭で教室の様子を聞く際は、整った座席図を作らなくても構いません。紙に自分の席と説明する人の場所を示してもらい、全体への説明のときと机で問題を解くときの様子を聞けます。講師が移動するなら、話を聞く時間にはどこにいることが多いかを付け足します。机の並びと実際に説明を受ける位置関係を結びつけるための、簡単な聞き取りです。
その図を、勉強が進む席と進まない席に塗り分ける必要はありません。見る目的は、本人が席を変えたいと話したときに、何が変われば助かるのかを具体化することです。説明する人に近づきたいのか、声の方向を捉えやすくしたいのかで、相談する内容は変わります。前方の席を確保できたかより、希望していた条件に近づけたかを話し合えます。
前を勧める前に、本人が困る場面を聞く
前に座ることを、勉強への意欲を示す義務にしないようにします。たとえば本人が、人目の集まる場所では落ち着かないと話すなら、その訴えも席を考える材料です。前へ動かしたあとに説明を聞きやすくなっても、本人が強く気を張っているなら、よい変化だけを取り上げずに聞き取れます。これは成績への逆効果を断定する話ではなく、席を選ぶ際に本人の負担も確かめる手順です。
また、前に座っていても説明の途中で手が止まる場合には、止まった場面を具体的に聞きます。声が届かなかったのか、言葉は聞こえたが説明の内容を追えなかったのかでは、講師に伝える情報が異なります。後者であれば、座席の相談と一緒に、どの説明から追えなくなったかを伝えられます。席の位置だけを変えて、その後の様子を聞かずに済ませないことが、家庭でできる確認です。
後ろの席で困っていないという返答も、そのまま聞き取れます。周りが前を勧めているからといって、不満を探す質問を重ねる必要はありません。説明を聞けているか、質問したいときに声をかけられるか、本人が話す授業の様子と合わせて見ます。前に動くことを成功と決めず、今の場所で学べているという報告も判断材料にします。
本人が席を指定されているなら、保護者だけで次の座席を決めず、学校の先生や講師に変更の余地を確かめます。その際は、前を希望するという結論だけでなく、聞き取りにくかった説明や、困ったと本人が話す場面を添えます。注意の向けにくさや強い不安が授業以外の日常でも続く場合は、学校の先生やスクールカウンセラーに相談できます。座席の工夫は、その子が困っていることを言葉にする機会として使えます。
授業後の聞き取りを、次の席の相談につなげる
最初に聞くのは、現在どこに座っているかと、その場所になった理由です。本人が選んだのか決められたのかを分け、本人が選んだなら、その席のよいところを先に聞きます。すぐに前を勧めずに聞くと、移動したときに残したい条件も話題にできます。次に授業を受けたあと、講師の声が届く距離だったかを、実際の説明の場面に沿って確かめます。
聞き取りのメモには、席の位置と本人の言葉を並べます。「説明は聞こえた」「問題に取りかかる指示を聞き逃した」など、その授業で起きたこととして残します。「集中していた」のような全体の印象だけでまとめず、どこまで説明を追えていたのかを聞けると、講師も場面を把握しやすくなります。家庭で使う確認項目は、次のように短くまとめられます。
- 現在の席はどこで、誰が決めたか
- 本人がその席を選ぶ理由や、気に入っている点は何か
- 全体への説明のとき、講師はどこにいたか
- 声や指示が届きにくい場面があったか
- 席を変えるなら、何が変わることを望むか
変更を試すことになったら、先に聞いた困りごとを、授業後にもう一度尋ねます。移動そのものを褒めたり責めたりするのではなく、説明が届いたか、本人が落ち着いて取り組めたかを聞きます。授業内容や説明の進め方が変わった日には、その違いもメモに添えます。成績の上下だけを席の成果とみなさず、変更の目的に合った観察を残すためです。
席を変えても困り方が同じなら、その記録をもとに説明の受け方も含めて話し合えます。反対に、聞き取りやすさが改善したなら、どの位置関係が助けになったかを本人の言葉で残せます。前方にいる学生の平均を目標にするより、目の前の子が説明を受け取れる条件を具体化できます。席の位置と選んだ理由を聞いた記録が、次の授業で試す場所を決める土台です。
よくある質問
後ろに座りたがる子は、勉強への意欲が低いのですか
座席だけでその子の意欲を判断することはできません。研究で示された集団の傾向と、本人がそこに座る理由は分けて扱います。空いていたから座った場合と、自分で選んだ場合でも経緯が違います。まず席を決めた事情と、その場所で授業を受けるときの様子を聞けば、意欲という大きな言葉でまとめずに話せます。
成績を上げたいなら、ひとまず最前列を選ぶべきですか
最前列を一律の目標にするより、本人が授業で困っている場面に合う場所を検討できます。講師の声が届きにくいなら、説明する場所との距離や向きを確かめてから相談します。現在の席で困っていない場合には、移動を急ぐ理由も本人と共有しておきます。選ぶ基準を説明の受け取りやすさにすると、前へ移ったかどうかだけで判断せずに済みます。
席を変えたあと、テストの点だけで判断してよいですか
点数と合わせて、変更前に困っていた場面がどう変わったかを聞きます。説明が届きやすくなったことと、授業の内容を理解して問題を解けることは、別々に確かめられます。席を変えた日には授業の内容も進むため、点数だけでは何が変化に関わったかが見えにくくなります。本人の話と授業の様子を残しておくと、席を続けるか再び調整するかを相談しやすくなります。
この記事の限界
測り方には、座席の好み、実際の位置、その授業の成績、通算の評定平均という違いがあり、それぞれの結果を区別して読む必要があります。対象はすべて大学生で、日本の小中高生や塾の少人数の教室について、同じ比較で座席と成績を調べた研究は今回の範囲に含まれていません。教室の形や科目もそろっていないため、大学の結果から子どもの教室での上がり幅を示すことはできません。
授業の成績を中心とした比較からは、本人がその場所で感じる負担や、説明を聞き取る際の個別の困り方まで詳しく読み取れません。席を自分で選んだか割り当てられたかで結果は異なり、多くの研究が数えているのは本人が選んだ席です。
参考文献
- Benedict ほか. Seating Location in Large Lectures: Are Seating Preferences or Location Related to Course Performance? The Journal of Economic Education. 2004;35(3):215-231.
- Vander Schee. Marketing Classroom Spaces: Is It Really Better at the Front? Marketing Education Review. 2011;21(3):201-210.
- Kalinowski ほか. The Effect of Seat Location on Exam Grades and Student Perceptions in an Introductory Biology Class. Journal of College Science Teaching. 2007.
- Armstrong ほか. Location, Location, Location: Does Seat Location Affect Performance in Large Classes? Journal of College Science Teaching. 2007.
- Meeks ほか. The Impact of Seating Location and Seating Type on Student Performance. Education Sciences. 2013;3(4):375-386.
- LaCroix ほか. Does Seat Location Matter? A Review of the Proximity Effect in Large and Small Classrooms. Community College Enterprise. 2017.
- Kregenow ほか. Is There a “Back” of the Room when the Teacher Is in the Middle? Journal of College Science Teaching. 2011.
通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。
- 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
- 向く人: 通塾の日だけ机に向かい、ほかの日の学習習慣が続かないことを、授業の中で一緒に組み直したい家庭
- 向かない人: 英検や内申の結果を、通う回数を増やすことだけで変えたいと考えている家庭
- 向かない人: 一人の講師と向き合うより、大勢と競い合いながら速い進度で先へ進みたい人
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よくある質問
後ろに座りたがる子は、勉強への意欲が低いのですか
座席だけでその子の意欲を判断することはできません。研究で示された集団の傾向と、本人がそこに座る理由は分けて扱います。空いていたから座った場合と、自分で選んだ場合でも経緯が違います。まず席を決めた事情と、その場所で授業を受けるときの様子を聞けば、意欲という大きな言葉でまとめずに話せます。
成績を上げたいなら、ひとまず最前列を選ぶべきですか
最前列を一律の目標にするより、本人が授業で困っている場面に合う場所を検討できます。講師の声が届きにくいなら、説明する場所との距離や向きを確かめてから相談します。現在の席で困っていない場合には、移動を急ぐ理由も本人と共有しておきます。選ぶ基準を説明の受け取りやすさにすると、前へ移ったかどうかだけで判断せずに済みます。
席を変えたあと、テストの点だけで判断してよいですか
点数と合わせて、変更前に困っていた場面がどう変わったかを聞きます。説明が届きやすくなったことと、授業の内容を理解して問題を解けることは、別々に確かめられます。席を変えた日には授業の内容も進むため、点数だけでは何が変化に関わったかが見えにくくなります。本人の話と授業の様子を残しておくと、席を続けるか再び調整するかを相談しやすくなります。