- Ambady ほか(1993)では、30秒未満の音のない映像の印象が、学期末の学生による授業評価を予測しました。
- ただし予測したのは評価で、学んだ量ではありません。
- Carpenter ほか(2013)とToftness ほか(2018)では、流暢な話し方で評価と「学べた感じ」は高まりましたが、記憶のテストに差はありませんでした。
- Deslauriers ほか(2019)では、能動的な授業で実際によく学べたのに、「学べた感じ」は低くなりました。
- 今回の根拠には、塾の初回の印象とその後の成績の関係を調べた研究はありません。
- 初回には、子が自分で考えて答えた場面と、講師がその答えにどう応じたかも確認します。
初回の個別授業の印象で講師が合うかはわかるか|短い観察と授業評価の研究
武蔵境駅の南口の改札前で、初回の授業を終えた子と待ち合わせ、保護者が講師の印象を聞きます。Ambady ほか(1993)では、30秒未満の音のない映像を見た人の評定が、学期末の学生による授業評価を予測しました。子の「話しやすかった」という一言も、印象の側の情報として受け止められます。けれども、その一言が授業の中身や伸びを映しているとは限りません。
知り合いにすすめられた個別指導を前に、初回の授業だけで合うかどうかを決めてよいのでしょうか。印象の良さと、子が考える時間を持てたかは、分けて確かめたい事柄です。初回の印象は判断の入口にとどめ、子が自分で考えて答えた場面も別に確かめます。 これは伸びを予測する検査ではなく、授業の中身を聞くための視点です。
ここでは、短い観察が何を当てたのか、話し方の流暢さが何を錯覚させるのか、実際の学びと「学べた感じ」がどこでずれるのかを、研究の条件とともに見ていきます。そのうえで、初回の授業で保護者が確かめられる手がかりを、印象とは別の観点で整理します。合うかどうかの結論を急がず、次に何を見るかを決めるための読み物です。
要点
- Ambady ほか(1993)では、30秒未満の音のない映像の印象が、学期末の学生による授業評価を予測しました。
- ただし予測したのは評価で、学んだ量ではありません。
- Carpenter ほか(2013)とToftness ほか(2018)では、流暢な話し方で評価と「学べた感じ」は高まりましたが、記憶のテストに差はありませんでした。
- Deslauriers ほか(2019)では、能動的な授業で実際によく学べたのに、「学べた感じ」は低くなりました。
- 今回の根拠には、塾の初回の印象とその後の成績の関係を調べた研究はありません。
- 初回には、子が自分で考えて答えた場面と、講師がその答えにどう応じたかも確認します。
初回の印象で合うかどうかは、どこまでわかるのか
初回の授業のあと、子が「楽しかった」「話しやすかった」と言うと、その塾でよさそうだと感じることがあります。では、その言葉で、何が確かめられたのでしょうか。短い時間の印象が何を予測するのかを確かめた研究は、印象の当て先を「授業評価」に置いています。
Ambady ほか(1993)は、大学の教員の授業を撮った30秒未満の音のない映像を見せ、見知らぬ人に印象を評定させました。その評定は学期末の学生による授業評価を予測し、6秒や15秒の映像でも強い関係がありました。高校の教員では校長の評価も予測しましたが、いずれも評価との関係を見た結果です。
場面によって当たり方は変わるとする研究もあります。Babad ほか(2003)が高校の教員の身ぶりや表情を場面ごとに分けると、板書や事務の場面のふるまいは生徒の評価と関係がありませんでした。注意する場面と生徒とやりとりする場面では、ふるまいの印象が評価と正に関係しました。
評価と学びは同じではありません。学生が授業を高く評価することだけでは、その学生が多くの内容を身につけたかはわかりません。短い観察の研究が当てたのは、あくまで評価の側です。
相性という言葉を使うときは、好みが合うこと、教え方の順序が合うこと、続けやすいことを分けてみます。短い観察の研究が扱ったのは、このうちの評価に近い部分です。「合う」の一言で終えず、何が合ったのかを具体的な授業の場面とともに聞きます。
流暢な話し方が「学べた感じ」を作る
話し方の滑らかさと、実際の学びが対応するかを確かめた実験があります。Carpenter ほか(2013)は、同じ科学の説明を、背筋を伸ばし目を合わせて流暢に話す映像と、うつむいてメモを見ながらつかえて話す映像で見せました。流暢なほうが「学べた」という感じも講師の評価も高くなりましたが、実際に覚えた量はどちらも変わりませんでした。
Toftness ほか(2018)が31分の録画の講義で比べた研究でも、同じ傾向が確かめられました。身ぶりや声の抑揚、間をとった流暢な版は、メモを読み続ける版より教え方の評価も「学べた量」の見積もりも高くなりました。それなのに、直後と翌日の記憶のテストでは差がありませんでした。見積もりと実際の記憶が食い違うことを、この研究は「学びの錯覚」と呼んでいます。
初回の授業で子が「わかりやすかった」と言うときは、その理由まで聞いてみます。説明のどの例が理解の助けになったのかと、話す速さや声が聞きやすかったのかを、別々に尋ねる方法があります。研究で操作したのは話し方であり、子の一言から理解の程度まで決められるわけではありません。理由を尋ねるのは、感じを否定せず、その中身を確かめるためです。
映像の実験と、子が質問を交わす授業には違いがあります。家庭で映像の条件を再現したり、講師の身ぶりを採点したりする必要はありません。説明の印象を記録する欄とは別に、子が自分で解いた問題を書き留める欄を設けると、何についての記録かを区別できます。
「学べた感じ」と実際の学びが逆になる場合
実際によく学べる授業で「学べた感じ」が低くなる結果もあります。Deslauriers ほか(2019)は、米国の大学の物理の入門授業で、学生を無作為に、考えさせて話し合わせる能動的な授業と、評判の高い講師の講義に分けました。能動的な授業の学生のほうが実際によく学びましたが、「学べた」という感じは講義の学生より低くなりました。研究では、考える負担を「わかっていない」しるしと受け取りやすいためとしています。
話し方の魅力だけで満足させる例も報告されています。Naftulin ほか(1973)は、中身の乏しい講義を、魅力的な話しぶりの役者が専門家として行い、聞き手の満足度を質問紙で調べました。聞き手は高い満足を示し、研究は教える力の評価には満足度以外の確認が必要だと指摘しています。
初回の授業で「楽しかったか」「わかりやすかったか」を聞くこと自体をやめる必要はありません。ただ、その答えだけを学びの量と置き換えると、上の実験で見られたずれを捉えられません。考える時間が負担だったという感想があれば、何が難しかったのか、説明の後には何ができたのかも聞きます。負担を感じたという理由だけで、よく学んだとも、学べなかったとも決めないことが大切です。
向かない子の条件を初回だけで見分けるための判定表は、今回の根拠にはありません。子が考える前に説明が進んだなら、どの問題で何を考えていたかを確かめる材料にします。好印象だったという記録と、自分で解く場面を確認できなかったという記録は、両方残しておけます。
よく言われることと研究で言えること
初回の授業についてよく言われることと、研究で言えることを分けて並べると、印象の当て先が見えやすくなります。研究が比べたのは、話し方の流暢さの有無や授業の形の違いであって、塾の初回の授業そのものではありません。表では、どの評価とどの学びを比べたのかに注目します。
| 初回の印象の読み方 | 評価と学びについての結果 | 観察・授業の比較 | 研究した場面 |
|---|---|---|---|
| 初回の印象が良ければ合いますか | Ambady ほか(1993)では30秒未満の映像の印象が学期末の授業評価を予測しました | 見知らぬ人の評定と学期末の評価 | 大学の教員 |
| 場面を問わず印象は当てになりますか | Babad ほか(2003)では板書や事務の場面は評価と関係がありませんでした | 場面ごとのふるまいと生徒の評価 | 高校の教員 |
| わかりやすければ学べますか | Carpenter ほか(2013)では流暢さで学べた感じは高まりましたが、記憶に差はありませんでした | 流暢な話し方とつかえる話し方 | 科学の説明映像 |
| 楽しい授業ほど身につきますか | Deslauriers ほか(2019)では能動的な授業のほうが実際の学びは多く、学べた感じは低くなりました | 能動的な授業と評判の高い講義 | 米国の大学の物理 |
| 話がうまければ教える力も高いですか | Naftulin ほか(1973)は満足度以外の評価が必要だと指摘しました | 中身の乏しい講義と聞き手の満足度 | 医学の講義の聞き手 |
| 初回だけで成績の伸びを予測できますか | 今回の根拠には該当する研究がありません | 該当する比較なし | なし |
わかっていないことと、この見方が向かない場合
今回の根拠には、塾の初回の印象がその後の成績や通塾の継続を予測するかを調べた研究はありません。大学の講義や高校の授業が中心で、個別指導の初回とは場面が異なります。評価を測った研究の結果を、記憶のテストの結果とつなげて、好感から長期の伸びまで説明することはできません。
人見知りや緊張がある場合には、初回の印象が低く出ることもありえます。ただし、これは今回の研究で確かめた子どもの特性別の結果ではありません。表情が固かったという観察から、相性が悪いという結論へ進まず、本人が話せる範囲で困った場面を聞くための配慮として扱います。
子が強い不安やつらさを訴えている場合は、授業評価の研究を理由に我慢させないようにします。そのときは、印象の分析より先に、学校の先生やスクールカウンセラーに相談します。授業中の言われ方や講師との関係でつらさが続くなら、塾の担当者に具体的な場面を伝え、担当の変更も含めて相談します。
判断を急がない場合も、確認する内容は決めておきます。話しやすかった点は印象の記録に、子が解けた問題は課題の記録に残します。この切り分けは、印象を無視するためではなく、異なる情報を一つの評価にまとめないためのものです。
通い続けられるかについても、成績の伸びとは分けて話します。通うことへの不安、質問する際の困りごと、課題の進め方など、本人が挙げた具体的な事柄を確認します。どれかが欠ければ合わないという採点にはせず、講師に何を相談するかを決める記録にします。
初回の授業で確かめる手順
初回の授業を見るときは、印象に加えて、子が自分で考える時間があったかを確かめます。研究が示したのは、印象と学びがずれうるということです。次の項目は、そのずれを家庭で確定する検査ではなく、授業の様子を聞くための確認事項です。
- 講師の説明を聞いた場面と、子が自分で考えて答えた場面は、それぞれありましたか。
- 子が間違えたとき、講師はなぜそう考えたかを聞きましたか。
- 子の答えを受けて、講師は説明の順番や例を変えましたか。
- 授業の終わりに、子は自分の言葉で学んだ内容を言えましたか。
- 翌日、同じ種類の問題を子は一人で解けましたか。
- また行きたい理由は、内容、雰囲気、講師の人柄のどこにありましたか。
これらは、講師の上手さを採点するためではなく、印象と学びのどちらを見ているのかを分けるための手がかりです。一つでも当てはまればよいというものでもありません。子が答えに詰まったときに、講師がどんな言葉をかけたかも聞き、授業の進み方を記録します。
聞くときは、子の感想を言い直させる必要はありません。楽しかったという感想はそのまま受け止め、どの問題で手が止まったか、そのとき講師が何と言ったかを追加で尋ねます。答えが出なければ無理に埋めず、次に確かめたいこととして残します。
初回の授業後には、印象の良かった点と、自分で考えて答えた場面を子に聞きます。次の授業でも同じ観点で記録します。話しやすさの記録と課題への取り組みの記録を並べ、相談したい場面を講師に伝えます。
よくある質問
初回の授業で講師が合うかどうかは、一度で決められますか。
一度で決めきるための根拠はありません。Ambady ほか(1993)が短い観察から予測したのは学期末の授業評価で、子がどれだけ学んだかではありません。印象の理由と、自分で考えた課題を分けて記録し、判断に足りない情報を次の授業で確かめます。初回の記録を基準にしておけば、後で感想が変わったときにも、どの場面についての変化かを話し合えます。
子が「わかりやすかった」と言えば、よい講師なのでしょうか。
わかりやすさの感じは、説明の内容だけでなく話し方の滑らかさでも変わります。Carpenter ほか(2013)では、流暢に話す講師の評価と「学べた感じ」は高くなりましたが、実際に覚えた量は変わりませんでした。どの説明が助けになったかを聞き、子が取り組んだ問題と照らしてみます。話し方への好感を否定する必要はなく、それと理解についての情報を別々に残すための確認です。
初回の印象が悪かった講師は、合わないと判断してよいですか。
初回の印象だけでは判断材料が限られます。Babad ほか(2003)では、板書や事務の場面のふるまいは生徒の評価と関係がなく、場面によって結果が違いました。子が何を見て合わないと感じたのかを具体的に聞き、次に確認したいことを決めます。ただし、つらさの訴えがある場合は判断を待たせず、困った場面を担当者に伝えて相談します。
塾の初回の授業について、研究は何を測っていないのですか。
今回の根拠には、塾の初回の印象と、その後の成績や通塾の継続の関係を測った研究はありません。映像の印象、学生の授業評価、記憶や理解のテストなど、測った対象も異なります。個別指導で質問を交わす子の様子を、録画を見る実験だけから予測することもできません。そのため、初回の好感を成績の見通しへ換算せず、授業で確かめた事柄として記録します。
この記事の限界
測り方には、短い映像を見た人の評定、授業を受けた学生の評価、記憶や理解のテストという違いがあります。これらは同じ成果を測っておらず、満足の高さを学びの量として読み替えることはできません。大学の講義や高校の授業で得られた関係は、初回に好感を持った講師のもとで子の成績が伸びるという予測を確かめた結果ではありません。
今回の根拠には、日本の塾の初回授業とその後の成績を直接結びつけた研究はありません。録画を見る条件と、武蔵境の個別授業で子が講師に質問する条件の違いが残るため、好印象の理由と自分で答えた課題は別に記録します。緊張や授業中の言われ方へのつらさが強い場合は、学べた感じの低さとして片づけず、講師や学校の先生と困った場面を共有する必要があります。
参考文献
- Ambady N ほか. Half a minute: Predicting teacher evaluations from thin slices of nonverbal behavior and physical attractiveness. Journal of Personality and Social Psychology. 1993;64(3):431-441.
- Babad E ほか. Teachers’ Brief Nonverbal Behaviors in Defined Instructional Situations Can Predict Students’ Evaluations. Journal of Educational Psychology. 2003;95(3):553-562.
- Carpenter SK ほか. Appearances can be deceiving: instructor fluency increases perceptions of learning without increasing actual learning. Psychonomic Bulletin & Review. 2013;20(6):1350-1356.
- Toftness AR ほか. Instructor Fluency Leads to Higher Confidence in Learning, but Not Better Learning. Metacognition and Learning. 2018;13(1):1-14.
- Deslauriers L ほか. Measuring actual learning versus feeling of learning in response to being actively engaged in the classroom. Proceedings of the National Academy of Sciences. 2019;116(39):19251-19257.
- Naftulin DH ほか. The Doctor Fox Lecture: A Paradigm of Educational Seduction. Journal of Medical Education. 1973;48(7):630-635.
通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。
- 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
- 向く人: 通塾の日だけ机に向かい、ほかの日の学習習慣が続かないことを、授業の中で一緒に組み直したい家庭
- 向かない人: 英検や内申の結果を、通う回数を増やすことだけで変えたいと考えている家庭
- 向かない人: 一人の講師と向き合うより、大勢と競い合いながら速い進度で先へ進みたい人
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よくある質問
初回の授業で講師が合うかどうかは、一度で決められますか。
一度で決めきるための根拠はありません。Ambady ほか(1993)が短い観察から予測したのは学期末の授業評価で、子がどれだけ学んだかではありません。印象の理由と、自分で考えた課題を分けて記録し、判断に足りない情報を次の授業で確かめます。初回の記録を基準にしておけば、後で感想が変わったときにも、どの場面についての変化かを話し合えます。
子が「わかりやすかった」と言えば、よい講師なのでしょうか。
わかりやすさの感じは、説明の内容だけでなく話し方の滑らかさでも変わります。Carpenter ほか(2013)では、流暢に話す講師の評価と「学べた感じ」は高くなりましたが、実際に覚えた量は変わりませんでした。どの説明が助けになったかを聞き、子が取り組んだ問題と照らしてみます。話し方への好感を否定する必要はなく、それと理解についての情報を別々に残すための確認です。
初回の印象が悪かった講師は、合わないと判断してよいですか。
初回の印象だけでは判断材料が限られます。Babad ほか(2003)では、板書や事務の場面のふるまいは生徒の評価と関係がなく、場面によって結果が違いました。子が何を見て合わないと感じたのかを具体的に聞き、次に確認したいことを決めます。ただし、つらさの訴えがある場合は判断を待たせず、困った場面を担当者に伝えて相談します。
塾の初回の授業について、研究は何を測っていないのですか。
今回の根拠には、塾の初回の印象と、その後の成績や通塾の継続の関係を測った研究はありません。映像の印象、学生の授業評価、記憶や理解のテストなど、測った対象も異なります。個別指導で質問を交わす子の様子を、録画を見る実験だけから予測することもできません。そのため、初回の好感を成績の見通しへ換算せず、授業で確かめた事柄として記録します。