- シカゴで9年生の代数の授業を倍にした政策では、対象の子の代数のテストの点が上がりました(Nomi 2009)。
- 同じ政策で、成績と落第の率への効果はわずかでした(Nomi 2009)。
- 授業時間が多いほど学力は高いものの、伸び方は時間の量と教室の環境で違いました(Rivkin 2015)。
- 倍にした時間の効果と、教え方の改善の効果は分けられていません(Cortes 2014)。
- 別の教科で時間を足した制度では、一部の生徒に強い負の影響が出ました(Dougherty 2015)。
数学の時間だけ倍にすると成績はどう変わるか|授業を倍にした学校の研究
模試返却の日、返ってきた答案を食卓に並べた保護者が、数学の点だけが伸びていないのを見て「この教科だけ時間を増やせば上がるのだろうか」と子に尋ねました。子は答えず、答案の赤い数字を指でなぞっています。数学だけを個別指導にして回数を増やすかどうかは、この一枚の結果で決めたくなる場面です。しかし、その判断の材料になる研究は、家庭の時間割ではなく、学校の時間割を動かした政策の中にあります。
先に結論を書くと、増やした教科のテストの点は上がりうるものの、成績や落第の率はほとんど動かず、伸び幅は教室の環境と子の状態で変わります。時間の量そのものより、増えた時間の中で何を扱い、どんな教室で過ごすかのほうが、結果を左右しやすい。 米国シカゴの政策と、国際学力調査のデータを使った研究、そして別の教科で時間を足した制度の評価を、順に見ていきます。
見るポイントは三つあります。増やす前と後で何を比べたのか、増えた時間を誰がどう教えたのか、そして増やすことで何が削られたのかです。この三つがそろって初めて、点数表の一行が判断の材料になります。
要点
- シカゴで9年生の代数の授業を倍にした政策では、対象の子の代数のテストの点が上がりました(Nomi 2009)。
- 同じ政策で、成績と落第の率への効果はわずかでした(Nomi 2009)。
- 授業時間が多いほど学力は高いものの、伸び方は時間の量と教室の環境で違いました(Rivkin 2015)。
- 倍にした時間の効果と、教え方の改善の効果は分けられていません(Cortes 2014)。
- 別の教科で時間を足した制度では、一部の生徒に強い負の影響が出ました(Dougherty 2015)。
よく言われること
数学が苦手なら、数学の時間を増やすのがいちばん早い、という声はよく聞きます。個別指導なら一対一で、わからないところをその場で聞けるからです。だから数学だけ回数を増やし、他の教科は今のままにしておくわけです。家庭で交わされるこの判断は、時間が足りないから点が伸びない、という説明に支えられています。
この説明には筋の通ったところがあります。同じ授業を受けても、理解に時間のかかる子はいます。説明を一度聞いただけで解けるようになる子ばかりでもありません。教室の中で手が止まる時間が長い子ほど、使える時間が増えれば動き出す、という見方は自然です。
実際、学校で数学の授業を増やした政策では、対象になった子の代数のテストの点が上がりました(Nomi 2009)。ここだけを取り出すと、時間を増やせば点が上がるという期待は当たっているように見えます。ただし、同じ研究の中には、成績と落第の率はほとんど動かなかったという結果も並んでいます。
よく言われることの多くは、増やした時間の中身を問いません。誰が教えても、何を扱っても、時間さえ増えれば同じだけ伸びる、という前提が置かれています。研究が示すのは、そこまで単純ではないという点です。同じ時間を足しても、扱う内容と教え方が違えば、結果は同じになりません。
もう一つ、見落とされやすい前提があります。時間を増やせば、それだけ子の負担も増えるという点です。塾の回数が増えれば、家に帰ってからの復習や宿題に使える時間は減ります。増えた授業が家での勉強を押しのけてしまえば、全体として使える学習時間は変わらないこともあります。
シカゴの政策が確かめたこと
米国シカゴでは、8年生のテストの点が全国の中央値より低かった9年生に、通常の代数の授業に加えて補助の代数の授業を課しました。数学の時間を実質的に倍にする政策です。補習を別の場に切り出すのではなく、通常の課程の中に時間を上乗せした点が特徴でした(Nomi 2009)。
この政策で比べられたのは、補助の授業を受けた子と、受けなかった子です。どちらも通常の代数の授業は受けているので、比べているのは補助の授業の有無です。ただし、同じ政策でクラス分けも動いたため、仲間の構成の変化も結果に混ざっています。設計を読むときは、時間の差だけを取り出せているかを見ておきたいところです。
この政策を評価した研究では、対象になった子の代数のテストの点が上がりました(Nomi 2009)。一方で、成績と落第の率への効果はわずかでした。テストの点は動いたが、通知表の数字はそれほど動かなかった、ということになります。対象外の学力の高い子はテストの点が上がったものの、成績は下がりました。
この政策を別に分析した短い論文もあります。倍の時間を受けた子は、代数のクラスで学力の低い子たちと同じ組に入ることになりました。それでも、増えた授業時間と改善された教え方から大きな利益を得た、と著者は書いています(Cortes 2014)。ここで注意したいのは、時間の効果と教え方の効果が分けられていない点です。
研究の数字を読むときは、増えた時間の中で何が一緒に変わったのかまで見る必要があります。補助の授業には、教える人、教材、クラスの仲間も一緒についてきます。時間だけを取り出した数字かどうかは、論文の比べ方を見て確かめます。
授業時間が多いほど学力は高いのか
時間と学力の関係を、より広いデータで見た研究があります。2009年の国際学力調査(PISA)のデータを使い、同じ生徒の教科ごとの授業時間の違いに着目しました(Rivkin 2015)。同じ子が、ある教科には多く、別の教科には少ない時間しか使っていない、という差を手がかりにする方法です。
結果は、授業時間が多いほど学力が高い、というものでした。ただし、伸びの大きさは時間の量と教室の環境によって違いました。教室の質が低いところでは、時間を増やしても効果は小さいままでした。時間は均等に効く資源ではなく、使われる場所の条件に左右される、と読めます。
この研究が扱うのは学校の授業時間で、塾の授業の長さや回数は別の資料で見る論点です。それでも、家庭が時間を増やすと決めたときに持ち帰れる点はあります。増やす先の教室がどんな場所なのかを確かめずに時間だけを足しても、期待したほどの差にならない場合がある、ということです。
教室の環境という言葉には、教え方、教材、周りの子の落ち着き、講師が一人ひとりに割ける注意などが含まれます。この研究では、その中身を一つずつ分けてはいません。だから家庭で見るときは、環境を点数で測ろうとするより、増やす先で子が何をしている時間が長いかを見るほうが現実的です。
時間の量そのものも、伸び方に関わります。この研究では、増やした時間の大きさによって伸びが変わりました。同じだけ足せば同じだけ伸びる、という比例の見方では捉えきれない、ということです。時間を増やす計画を立てるときは、何時間足すかだけでなく、その時間がどんな形で使われるかまで決めておきたいところです。
数学だけを個別指導にしたとき、他の教科はどうなるか
ここまでの研究は、増やした教科の点が動くかどうかを見ています。家庭が知りたいのは、そこではない場合が多いです。数学の時間を増やした分、他の教科の勉強が減ってしまうのではないか、という心配です。
この点について、塾で数学だけを増やしたときに他の教科がどうなるかを直接調べた研究は見つかりませんでした。研究は学校の時間割を動かした政策か、学校の授業時間のデータです。そこで、学校で別の教科の時間を足した制度の評価を手がかりにします。
米国の一つの学区で、小学5年のテストの点の境目を使い、中学で読み書きの追加の授業を割り当てた制度がありました。追加の授業は、黒人の生徒には強い負の影響、他の生徒にはばらつきの大きい正の影響でした(Dougherty 2015)。教科も対象も違いますが、時間を足したことが足した教科の外に及ぶかを見た研究です。
結果は一様ではありませんでした。読み書きの授業を学校の時間割に足したこの制度と、家庭で数学の個別指導を増やす場合とでは、条件がかなり違います。時間を足すときは、何を削るのかを決めたうえで、削った側の変化も一緒に見ておく必要があります。
塾の時間割では、数学を増やすと、その分だけ他の教科の枠が減るか、通う日数が増えるかのどちらかになりやすいです。通う日数が増えれば、家での勉強時間と睡眠が削られます。どちらを選んだかによって、他の教科に及ぶ影響の形は変わります。増やす前に、週の予定表に空きがあるかを確かめておきたいところです。
| 時間の増加への期待 | 追加授業で変わった成果 | 授業時間などの比較 | 制度・生徒 |
|---|---|---|---|
| 数学の時間を倍にすれば、数学の点が上がる | 補助の代数の授業を足した子は、代数のテストの点が上がった | 同じ学校で補助を受けなかった子 | 米国シカゴの9年生(Nomi 2009) |
| 時間を増やせば、通知表の数字も上がる | 成績と落第の率への効果はわずかだった | 補助を受けなかった子 | 米国シカゴの9年生(Nomi 2009) |
| 増えた時間は、どの子にも同じように効く | 伸び方は時間の量と教室の環境で違った | 同じ子の教科ごとの授業時間の差 | PISA 2009の生徒(Rivkin 2015) |
| 数学以外の教科は、そのままでよい | 別の教科で時間を足した制度では、一部の生徒に強い負の影響が出た | 境目のすぐ上と下の子 | 米国の学区の中学生(Dougherty 2015) |
| 時間の効果は、教え方と分けて測れる | 時間と教え方の効果は分けられていない | 論文では分けていない | シカゴの政策(Cortes 2014) |
時間を足しても効きにくい子、逆効果になりうる条件
時間さえ増やせば伸びる、という前提が崩れる場面は、研究の中にいくつもあります。シカゴの政策では、対象になった子の点が上がる一方で、対象外の学力の高い子は通知表の数字を落としました(Nomi 2009)。同じ学校の中で、子によって結果が違ったことになります。時間を増やす政策が、別の子の条件を変えてしまうことがあります。
シカゴの政策の対象になったのは、8年生のテストの点が全国の中央値より低かった子です(Nomi 2009)。支援を必要とする子が、まとめて対象になりました。それでも、成績と落第の率はほとんど動きませんでした。時間を足す前に、どこでつまずいているかを確かめる必要がある、という読み方ができます。
読み書きの時間を足した制度で、一部の生徒に強い負の影響が出た例も、同じ方向を示しています(Dougherty 2015)。時間を足すことは、その子にとって何かを差し出すことでもあります。睡眠、部活、他の教科、家族と過ごす時間のどれかを削って、増えた時間を用意している場合があります。
向き不向きを子の性質だけで決めることはできません。増やす前の状態と、増やした後の教室の条件で結果が変わる、というのが研究から読み取れる線です。前提の単元でつまずいている子に、同じ説明をもう一度長く聞かせても、時間の使い方は変わりません。まず止まっている場所を特定するほうが先になります。
もう一つ、Cortes 2014 の短い論文が残した問いがあります。時間と教え方の効果が分けられていないため、この論文の数字は、両方を合わせた結果として読むことになります。家庭で個別指導の回数だけを増やすとき、この二つは同じようには動きません。
家庭で確かめる手順
判断の前に、まず止まっている場所を特定します。模試の答案と定期テストの答案を単元ごとに並べ、数学のどの分野で点を落としているのかを書き出します。計算なのか、文章題の読み取りなのか、図形なのかで、必要な時間の使い方は変わります。通知表の観点別の評価も横に置くと、点だけでは見えない偏りがわかります。
次に、増やす時間の出どころを決めます。1週間の生活を書き出し、どの時間を削るのかを先に決めておきます。削るものが決まらないまま回数を増やすと、睡眠や他の教科から黙って引かれることになります。何を削るかを決めたら、削った側の変化も記録の対象に入れます。
記録は、増やす前の数週間から始めます。数学と他の教科の家庭学習時間、単元テストの点、模試の点を、同じ形式の表に週ごとに書きます。増やす前の水準がなければ、増やした後の変化を比べようがありません。表は子のためではなく、判断する側のためのものです。
増やす先の教室では、子が自分で解いている時間の長さを見ます。講師が説明している時間が長く、子が手を動かす時間が短いなら、時間を増やしても同じ形が延びるだけかもしれません。説明の後に、子の答えを使って説明し直しているかどうかも、見ておきたい点です。
学期の終わりに、増やす前と同じ形式で数週間分を並べます。数学の点が動いたか、他の教科の提出物が滞っていないか、家庭学習の時間はどう変わったかを、同じ表の上で見比べます。判断は、この三つがそろってからにします。
数学を増やす前に、他の教科も含めた家庭学習の時間と答案を残します。増やした後も同じ形で記録し、解けるようになった問題と滞った課題の両方を講師に伝えましょう。
よくある質問
数学の時間を倍にすれば、数学の点は上がりますか。
学校で代数の授業を倍にした政策では、対象になった子の代数のテストの点が上がりました(Nomi 2009)。ただし、成績と落第の率への効果はわずかで、時間と教え方の効果も分けられていません(Cortes 2014)。点が動くかどうかと、通知表の数字が動くかどうかは、分けて確かめる必要があります。家庭の個別指導で回数だけを増やす場合は、点と通知表を分けて記録しておきたいところです。
数学だけ増やすと、他の教科の勉強はどうなりますか。
学校の時間割を動かした研究では、時間を足すことが他の教科や別の子の条件にも影響した例があります(Nomi 2009、Dougherty 2015)。家庭で増やす場合は、削る時間を先に決め、他の教科の家庭学習時間と提出物を同じ表で見ていきます。削る時間は睡眠でも他の教科でもかまいませんが、決めたら記録に残します。増やす前の記録を取っておくと、変化を増やしたことによるものかを見分けやすくなります。
個別指導なら短い時間でも効果はありますか。
授業時間と学力の関係を調べた研究では、時間の量と教室の環境によって伸び方が違いました(Rivkin 2015)。短い時間で足りるかどうかは、扱う単元の重さと子の状態によります。この研究は学校の授業時間についてのもので、1回の授業の長さを比べたものではありません。増やす前に、子が一人で解ける問題の量を見ておくと判断しやすいです。
どのくらい続ければ効果がわかりますか。
研究の対象は学校の政策で、家庭の個別指導の回数を増やした期間を比べたものではありません。増やす前の数週間から同じ形式で記録を取り、学期の終わりに並べると変化が見えやすいです。単元テストと模試の両方を見ると、その場の点と積み上がった点を分けて確かめられます。記録の期間は、塾の予定表に合わせて学期の区切りでそろえるとよいです。
この記事の限界
比べた相手には通常の授業を受ける生徒や同じ生徒の別教科が含まれ、シカゴの代数の政策では、時間とともに教え方やクラスの構成も変わっています。授業時間を増やした結果を、そのまま個別指導で数学だけを増やした効果とみなすことはできず、テストの点と評定への影響も分けて読む必要があります。
米国の学校の政策や国際学力調査を使った研究は、日本の塾で数学を足したときに、他の教科の家庭学習や成績がどう変わるかを直接確かめたものではありません。武蔵境での通塾予定を組むときは、数学の答案だけでなく他教科の提出物や家で取り組めた時間を増やす前後で残し、課題が滞る教科が出た場合には、学校の先生や講師と配分を相談する方法があります。
参考文献
- Nomi. “Double-Dose” Algebra as an Alternative Strategy to Remediation: Effects on Students’ Academic Outcomes. Journal of Research on Educational Effectiveness. 2009;2(2):111-148.
- Cortes. Ability-Tracking, Instructional Time, and Better Pedagogy: The Effect of Double-Dose Algebra on Student Achievement. American Economic Review. 2014;104(5):400-405.
- Rivkin. Instruction time, Classroom Quality, and Academic Achievement. The Economic Journal. 2015;125(588):F425-F448.
- Dougherty. Bridging the Discontinuity in Adolescent Literacy? Mixed Evidence from a Middle Grades Intervention. Education Finance and Policy. 2015;10(2):157-192.
通知表の数字の手前で止まっている一問から、講師と二人で始める。
- 向く人: 内申が気になり始めたのに、どの教科のどこで止まっているのかを、子も保護者も言葉にできていない中学生
- 向く人: 通塾の日だけ机に向かい、ほかの日の学習習慣が続かないことを、授業の中で一緒に組み直したい家庭
- 向かない人: 英検や内申の結果を、通う回数を増やすことだけで変えたいと考えている家庭
- 向かない人: 一人の講師と向き合うより、大勢と競い合いながら速い進度で先へ進みたい人
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よくある質問
数学の時間を倍にすれば、数学の点は上がりますか。
学校で代数の授業を倍にした政策では、対象になった子の代数のテストの点が上がりました(Nomi 2009)。ただし、成績と落第の率への効果はわずかで、時間と教え方の効果も分けられていません(Cortes 2014)。点が動くかどうかと、通知表の数字が動くかどうかは、分けて確かめる必要があります。家庭の個別指導で回数だけを増やす場合は、点と通知表を分けて記録しておきたいところです。
数学だけ増やすと、他の教科の勉強はどうなりますか。
学校の時間割を動かした研究では、時間を足すことが他の教科や別の子の条件にも影響した例があります(Nomi 2009、Dougherty 2015)。家庭で増やす場合は、削る時間を先に決め、他の教科の家庭学習時間と提出物を同じ表で見ていきます。削る時間は睡眠でも他の教科でもかまいませんが、決めたら記録に残します。増やす前の記録を取っておくと、変化を増やしたことによるものかを見分けやすくなります。
個別指導なら短い時間でも効果はありますか。
授業時間と学力の関係を調べた研究では、時間の量と教室の環境によって伸び方が違いました(Rivkin 2015)。短い時間で足りるかどうかは、扱う単元の重さと子の状態によります。この研究は学校の授業時間についてのもので、1回の授業の長さを比べたものではありません。増やす前に、子が一人で解ける問題の量を見ておくと判断しやすいです。
どのくらい続ければ効果がわかりますか。
研究の対象は学校の政策で、家庭の個別指導の回数を増やした期間を比べたものではありません。増やす前の数週間から同じ形式で記録を取り、学期の終わりに並べると変化が見えやすいです。単元テストと模試の両方を見ると、その場の点と積み上がった点を分けて確かめられます。記録の期間は、塾の予定表に合わせて学期の区切りでそろえるとよいです。